商品開発も広告もすべて「やってみはなれ」の精神で
友澤:デジタル領域というと、これまでは話が細かく専門的になりがちでしたが、最近は広告主サイドの方々が非常に高い関心を持たれているのを感じています。中でもサントリーさんはデジタル施策に積極的なので、今回は私たち媒体社の思いと広告主の思いをざっくばらんに語れたらと思ってお越しいただきました。
坂田:よろしくお願いします。デジタル施策に限らず、マスや交通などの広告でも、当社は新しモノ好きで(笑)。創業者・鳥井信治郎の精神である「やってみなはれ」の社風に根付いているので、もちろん先行者のリスクを覚悟しながらですが、デジタルの分野でも新しいことにチャレンジしていこうと考えています。
MarkeZine編集部(以下、MZ):坂田さんはサントリービジネスエキスパートの宣伝部でネットを担当されていますが、組織体制や役割などを簡単に教えていただけますか?
坂田:当社は2009年に持株会社制に移行し、各事業会社ができましたが、事業会社の1つであるサントリービジネスエキスパートはそれらの事業サポートを担っています。私がいる宣伝部はかつて媒体部と呼ばれていた部署で、テレビや新聞・雑誌、インターネットなどの各グループが媒体の買い付けとクリエイティブを集約しています。一方、サントリー酒類など事業会社にも宣伝部はあり、各ブランドの宣伝企画はそちらで行っていまして、私たちと連携して実施しています。
生活者のメディア接触に合わせてデジタル部門の体制を強化
友澤:デジタル領域に関しては、昨年に大きく舵を切ったと伺いました。
坂田:はい。昨年、サントリー酒類の宣伝部内にデジタルマーケティング開発部ができたり、サントリー食品インターナショナルにもデジタル施策を担うチームが生まれたりと、組織的にデジタル領域に関わる部分が強化されました。
友澤:その背景には、どんな意図があったのでしょうか?
坂田:一言でいうと、お客様のメディア環境の変化に対応するためです。今のお客様の行動を考えると、当然デジタルや新しいメディアをおさえる必要があります。より生活者のメディア接触に沿ったアプローチが今後は重要になりますので、そのための体制強化でした。
友澤:デジタル強化への声は、やはり年齢の若い現場から?
坂田:もちろん現場も問題意識を持っていますが、経営層もメディア環境の変化を感じています。これまでマス広告で中心だった当社も、デジタル領域にもっと注力しなければと皆が肌で実感している状況です。
マーケティング全体におけるデジタルの活用を考える
友澤:広告主のデジタル領域への取り組みは、自社サイトの整備やSNSによるコミュニケーション強化など、どちらかというと広報部門の方が先行していたんですよね。それが最近、今まさに言われたように宣伝部門の方々の危機意識が高まっていると私も感じています。
坂田:当社でも、サントリービジネスエキスパートの宣伝部にデジタルのチームができたのは2005年と早かったのですが、オウンドメディアへの動きの方が目立っていました。2010年、「ジョッキ<生>」のテレビCMを曜日ごとに異なる出演者で展開し、それに合わせてWebバナーも曜日ごとに出稿しましたが、この頃からマス広告の補完としてのネットの活用や、ネットならではの新しい表現のトライアルをし始めて、仕事の幅が広がった感覚があります。
友澤:専門領域としてのデジタルではなく、マーケティングにおけるデジタルという捉え方でいろいろな施策に取り組み始めたわけですね。
坂田:そうですね。ただ、当社は最初にお話しした社風もあって「ネットを積極的にやっている」という印象はあるかもしれませんが、宣伝費全体でみるとネットが占める割合はまだまだです。また、これはネットのメリットでもあるのですが、コストがマスに比べてずっと低いため、「予算が少ないからネットで」という発想もブランドによってはあります。そのあたりは、もっと前向きな姿勢になれたら、と思いますね。
ネット施策が売り場に影響し始めている
友澤:情報産業の資料請求やECなどでは、ネットに投じた宣伝費をネットで回収しやすいですが、御社のようなメーカーの宣伝部門がWebへとなると、おのずと「商品が売れるのか」と問われることになると思います。
最近は、ヤフーのブランドパネルで実際に商品が動いたという話を聞くことも増えて、私も手応えを感じているところですが、実感はいかがですか?
坂田:そうですね、社内の営業担当者から「ネット施策の詳細を知りたい」「商談で見せられるテストページはないか」と言われることも出てきましたし、お得意先も「もはやテレビCMだけの時代ではない」と感じられていると思います。
新商品発売時や季節ごとの商談では、企画書の中で宣伝計画を説明しますが、長らくそこでは「テレビCMを何千GPR(Gross Rating Point/延べ視聴率)出稿するか」が売り場において大きな力を持っていました。今もCMの力は大きいですが、以前に比べて「ヤフーにこれだけ出稿します」ということのインパクトも理解され始めています。特に、バイヤーさんの世代が若いとなおさらですね。
友澤:ネット広告の効果は、マウスオーバーや音が出るなどのリッチ表現に慣れてきた、ユーザーの許容度の変化の影響もありますね。
坂田:そう思います。エキスパンドバナーのCTRなども予想以上に高くて、驚いています。
社内のリテラシーの差を踏まえて施策の理解を促す
友澤:最近ですと、昨年3月の「ザ・プレミアム・モルツ」のキャンペーンは、当社にとっても大規模な企画でした。
坂田:あのときは、リニューアルを超えた“リバイタライズ”という会社を挙げたキャンペーンでしたので、マス広告に加えてヤフーでもブランドパネル、センターバナー、オープニングフラッシュなどを一気に導入しました。なかなか一方的に「新しくなりました!」といっても伝わりづらいので、施策の新規性も追い風にしたかったという意図もありました。60秒・90秒のTVCM「ビールの歴史」篇のテレビ放映は限られるので、マスの補完としてWebでかなり効果を広げられたと思います。
友澤:マスとネットの融合という点では、用語や効果測定の単位のばらつきが課題になることがあると思いますが、そのあたりはどうでしょうか?
坂田:まさに、そこは課題ですね。できることや取れるデータが多すぎるというのも、活用の方針を絞りづらい要因になっていると思います。また、当社は実験的な取り組みに寛容ですし、それが実施のスピードにもつながっていますが、社内のリテラシーは一律ではないので、新しく複雑な企画ほどリスクもあることは理解してもらうように努めています。
“買い場”に近いスマートフォンのさらなる活用に注力
友澤:その点では、当社も実際の商品をもって新しいチャレンジができるので、本当にありがたいと思っています。今、特に関心を持っていること、これから注力したい部分は何でしょうか?
坂田:やはり、スマートフォンの活用です。何が利点かというと、出先で使うので“買い場”に近いですよね。店頭で割引クーポンを表示させて、といった販促的な使い方はすでにありますが、もっと画期的な使い方があるのではないかと考えています。
今年3月に実施したプレモルのキャンペーンでは、スマートフォンのヤフーのトップページでオープニングフラッシュを展開し、「第12回モバイル広告大賞」に入賞しました。意外にも主婦層の反響が大きかったので、その点でも特に買い物の動線でもっと活用できるはずだと思っています。
友澤:そこは当社ももっと深掘りしたいところですね。最後に、媒体社に期待することを教えてください。
坂田:デジタルというと突飛な企画をイメージしがちですが、それだけではなかなか人を呼びにくいので、そもそもその媒体にお客様がついていることが大事だと思います。それと、ヤフーと他メディアとのリンクなどにも期待したいですね。今後もマス広告で到達できない層への訴求を強化していきたいと考えています。
友澤:こちらこそ、ぜひよろしくお願いします。本日はありがとうございました。