ジョブズの名言は隠喩から生まれる
隠喩は、そうしたアテンションの強さだけを生むばかりか、理解の促進、価値の理解や創造にも効果的だ。そのため、キャッチフレーズなど広告のコピー、本のタイトル、記事のヘッドラインをはじめ、ネーミング、プレゼンテーションのスピーチやコンセプトづくりにまでよく使われる。
たとえば、東京発-大阪行き最終便の新幹線の「シンデレラ・エクスプレス」、英会話学校の「駅前留学」、出版社の企業広告の「団塊は、資源です。」といった広告のキャッチフレーズ。
書籍のタイトル『武器としての決断思考』がヒットすると、「武器としての~」を使った記事をよく見かけるようになったが、<武器>への置き換えも隠喩の発想だ。
スターバックスのコンセプトは、自宅でもない職場でもない<第三の場所:Third place >、ハーレーダビッドソンが売っているのはバイクではなく、<反逆のライフスタイル>という表現も隠喩と言っていい。
レトリックの天才と言われるシェイクスピアなど作家は別にして、ビジネス界で隠喩など比喩を使ったメッセージの使い手というと、一番に思い浮かぶのがスティーブ・ジョブズだ。
ジョブズの有名な発言をみると、それがよく分かる。生みの親を精子銀行、卵子銀行と言い、初めてのMacを世に出すときの事業計画に<アップルのマッキントッシュはクランクハンドルのないフォルクスワーゲン車>と書き、iPadを<魔法のような革新的なデバイス>と発表した。いずれも忘れがたい強い言葉ゆえに語録として昇華したのだ。
コピーの隠喩には説得力が必要
最近、<脇肉革命>という女性下着の商品名、<時短革命>という洗剤のコピーを見かけたのだが、これも隠喩を使った表現だ。前者の脇肉をバストに寄せるメカニズム、後者の強力な洗浄力による洗浄、すすぎ時間の短縮といった商品の特長や機能、革新性を<革命>と置き換えたものである。そのため表現に強さが生まれた。
もっとも、隠喩における<革命>の使われ方は昔から多く、斬新とは言えない。しかし、成功する隠喩はありきたりな表現になりがちと言われており、ありきたりだから弱い表現になるとは思わない。ハイリスクな想像しにくい突飛な置き換えよりも、私たちが持っている共通のイメージを巧みに利用する方がコミュニケーションしやすい。
文学作品の隠喩は、たとえ理解できなくても読み手の想像力や知性にゆだねることが多いかもしれないが、実用文であるコピーの場合はそうはいかない。キャッチフレーズなどに隠喩を用いたら、納得させることが必要だ。読み手の「?」は回収しなくてはいけない。
年賀状のキャッチフレーズ「年賀状は、贈り物だと思う。」を見てみよう。年賀状を贈り物に置き換えた隠喩的表現である。私からあなたにあげるから贈り物という単純なメッセージではない。
ボディコピーには「指輪も、セーターも、シャンパンも入らない。でも、そこにはあなたを入れられる。」という一節があり、気持ちや言葉を入れることができると、贈り物の本質をイメージさせ価値を高めている。読み手に共感や納得が起きやすくなるのだ。
コピーはもちろん、コンセプトであろうが、プレゼンのスピーチであろうが、実用の場ではいかにうまい隠喩を使っても、説得力がなければ目的を果たすことができない。特に、置き換えのギャップが大きな表現は必要だ。
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