広告配信の環境整備とコンテンツ拡充の二本柱
MarkeZine編集部(以下、MZ):昨年11月15日に発表されたマーケティングソリューションカンパニーの新戦略では、プライベートDMP、プレミアムDSPなどと並んでビデオ広告への注力が挙げられました(参考情報:プレスリリース)。まずはこの戦略についてうかがえますか?
高田:大きく分けて、広告配信プラットフォームおよびビデオ広告ネットワークの強化と、Yahoo! JAPAN自体の映像化を核に、ビデオ広告事業に本格参入していきます。まずは配信プラットフォームを整備するため、この分野で米国をはじめ世界的に実績を有するVideology, Inc.と提携しました。また、当社とGyaOはUstream Asiaと業務提携し、ビデオ広告ネットワークを構築していきます。
MZ:11月の発表では、「2014年度末までにマルチスクリーンで6,000万人のユーザーを創出する」と提示されました。
高田:この数字は、現在のYahoo! JAPANが日本でリーチしうる数です。今はまだ途上ですが、いずれYahoo! JAPANユーザーすべての方が映像コンテンツを当たり前に楽しむようになることを目指しています。
MZ:広告主や広告会社に向けて、広告配信の環境を整えることと、ユーザーに向けてコンテンツを拡充すること、この両輪で取り組まれるわけですね。
高田:そうですね。後者に関するのが、元々GyaO!で扱っているエンターテインメント系コンテンツの増強と、その他のニュースなどを含めたYahoo! JAPAN自体の映像化です。
米・英に比べて後れを取る日本のビデオ広告市場
MZ:ビデオ広告市場は、欧米がかなり進んでいると聞きますが、実際はどうなのでしょうか?
松原:確かに、アメリカやイギリスでは動画の視聴自体が日本より浸透しており、SNSのユーザー数自体が多いため、映像コンテンツのシェアも日本より一般的です。視聴環境の整備と、拡散という側面の両方で後れを取っているので、我々としてはビデオ化を進めて映像コンテンツのユーザーを増やし、ソーシャルでの拡散を促すことが必要だと捉えています。媒体費ベースでも、2012年の実績ではテレビCMに対するビデオ広告の割合が米3.1%、英3.5%と年々増えている状況で、日本も同様の流れを目指したいと考えています。
MZ:欧米では、ビデオ広告はどのように使われているのですか?
高田:目的は、どちらかというとブランディングに寄っています。認知や態度変容を見込むことが多いので、獲得目的が中心だったこれまでのネット広告とは異なりますね。
松原:使い方としては、補完的な意味合いでテレビCMと併せて使うか、それともテレビではリーチできない層に接触するために使うか、の2つが主です。これは日本でも変わらないと思います。
「効果あるの?」から「どう効果を出すか」へマインドが変化
MZ:日本でもこれまで何度か、ビデオ広告の拡大の兆しが言われましたが、いずれも期待ほどは伸びていませんでした。ネックになっていたのは何なのでしょうか?
松原:Yahoo! JAPANをはじめとする大規模なメディアでもビデオ広告がリーチできていなかったこと、広告の仕様が国際標準に対応していなかったこと、技術的に高品質が実現できなかったことなど、いくつかあると思います。ただ、それらが徐々に解決され、日本市場は著しく成長しているので、今後は米・英並みになってくると考えています。
高田:日本ではなかなか市場拡大に弾みがつきませんでしたが、そもそもビデオ広告に対する広告主のニーズは以前から高かったので、PCやタブレットで映像を消費する文化ができつつある今の状況は追い風です。日本は圧倒的にサプライヤーが足りていないので、その増加も市場の拡大にはポイントになりますね。
半田:過去に何度か「今年は動画」と言われたときと今回が違うのは、先ほどの環境整備などのほかに、海外の影響もあります。12年ごろから、ビデオ広告に限らず、海外の市場の話が日本で多く聞かれるようになりました。
ビデオ広告も、外資系企業を中心に出稿する前提で受け止められているので、以前のように「効果あるの?」という議論ではなく、出稿が決まっていて「どう効果を出すか」という思考になっています。このマインドの変化は大きいと思います。
マルチスクリーンに対応する横断的な効果測定が可能に
MZ:具体的にビデオ広告はディスプレイ広告に対してどのような違いがありますか?
松原:特に注目する点は、マルチスクリーンへの対応がスムーズだということです。今、ユーザーはPC、タブレット、スマートフォンなどを自在に使いこなしているので、広告主もそれに対応することが急務です。
ディスプレイ広告はデバイスごとに作り分ける必要がありますし、情報量にも差が出ます。その点で、ビデオ広告は1本の素材を自動最適化配信でき、効果測定も横串で把握できる。マルチスクリーン化が今後さらに進むと、一つの枠で圧倒的なトラフィックを生みにくくなるので、デバイス横断的に効果を得ることが重要になります。
高田:テキストコンテンツは、やはりPCで読むのが適していますが、映像コンテンツはどのデバイスでもユーザーの没入感がさほど変わらないんです。それをうまく利用できる点も、ビデオ広告の特長です。
MZ:今のところ、ビデオ広告のターゲットは若年層になるのでしょうか?
半田:以前は確かに、映像コンテンツのユーザーは若年層という認識がありましたが、デバイスの拡大もあって、今はM2層にも広がっています。これからYahoo! JAPAN自体の映像化などを含めて、さらに映像コンテンツの利用を手軽にしていくので、ユーザー層の幅も広がるはずです。
メディア利用時間の9割は“スクリーンの前”
MZ:数年前からは考えられないほど、オンラインでの映像コンテンツの利用は身近になっているんですね。
松原:そうですね、画質や回線の問題もありませんし。今、ユーザーのメディア利用時間を見ると、その9割がテレビとPC、タブレット、スマートフォンなどの“スクリーンの前”が占めているんです。アメリカではすでに、テレビCMとビデオ広告の出稿を同時にプランニングする広告代理店が増えてきていますが、ユーザーの変化を考えると当然かもしれません。
現在、日本テレビで放映中の2つのドラマを、GyaO!で全編無料配信するという画期的な取り組みを行っています。テレビではリーチできない層にオンラインでアプローチして、テレビの前に来てもらおうという意図です。
半田:“通信と放送の融合”という言葉がブロードバンド化と共に言われてきましたが、我々としては”放送と通信の補完関係”という言葉で表現しています。それは、瞬間的なリーチなど、テレビに絶対かなわない点があるので、コンテンツ・広告双方の面においても、どういう関係になれば最適な組み方ができるのかを追求し、最適なサービス、最適な広告を“放送と通信の補完関係”において実現していく事でユーザーや広告主の課題解決をしていきたいと考えています。
高田:逆に、ネット広告にしかできないこともあります。テレビCMもスポットCMなら番組の視聴者層に合わせて出稿できますが、特定ユーザーにピンポイントで表示できるネット広告ほど精緻ではないので、ターゲットリーチを最大化するにも有効に使えると思います。
新たなフォーマット“インリード型”広告に期待
MZ:これから展開していくビデオ広告の種類には、どのようなものがありますか?
松原:映像コンテンツ本編の前などに流すインストリーム型の広告と、記事と同じ面に組み込んだビデオ広告プレーヤーで流すインリード型の広告の2種類です。インリード型は今回新たに追加するフォーマットで、Yahoo!ニュースなどの記事の下にプレーヤーを設置します。インストリーム型はこれまでも扱ってきたので、販売できる商品量を増やしていきます。
MZ:冒頭で、2014年度中に映像コンテンツのユーザーを6,000万人へ、との展望をうかがいましたが、そのための今後の展開をお教えください。
高田:具体的には、「GyaO!」「Yahoo!映像トピックス」を中心とした映像コンテンツ数と、Yahoo! JAPANのビデオ対応サービス数を、それぞれ10倍にするつもりです。動画の視聴文化をつくり、かつ広告配信No.1の技術を提供します。当社としての課題は、マルチスクリーンへのアプローチですね。各デバイスに接するときのシチュエーションや気持ちをよく把握した上で、サービスを作り上げていきます。
ただ、アメリカでも映像コンテンツが拡散する場として複数のポータルやSNSが挙がっているので、日本でももっと業界全体で盛り上げていきたいです。映像でのブランディング広告が入るとメディアのイメージも随分異なってくるので、ぜひ他のさまざまな媒体社にもビデオ広告の導入を進めていただければと思います。