ダイレクトレスポンスを追求するEC市場に、「ブランディング×EC」という新たな視点を
MarkeZine編集部(以下、MZ):サイト数がどんどん増えているEC市場。正直、ただ物を売るという目的だけでは売れない時代といわれていますよね。
河野:はい。実店舗があるからといって何となくECを始めても売れないというのは、皆さんわかっていると思います。サイトが沢山あるので、自社と同じようなものを売っているお店は必ずある。その中で自分たちの商品を伝えていくために、ブランディングが不可欠なんです。
MZ:これまでECサイトには、A/Bテストを繰り返してダイレクトレスポンスを追求していくという流れがありました。しかし、ブランディングというと、それに相反するように思うのですが、どこからこの新しい潮流が出てきたのでしょうか。
河野:それは単に、実際にはまだ多くの会社がA/Bテストをやるところまで到達していないという現状があります。例えばGoogle Analytics(以下、GA)にしても機能は豊富で、全てを使いこなせている人はそう多くはないのでしょうか。またマーケティングの考え方自体がものすごい速度で刷新されていくので、EC担当者はなかなか追いきれません。そうでなくてもこれまで、商品を入荷して、お知らせして、商品を追加して、メルマガ出して、お客さまの対応をして……という店長的な業務が沢山あったのに、今はマーケティング理論や、広告やPRの戦略など、随分高度なことを求められるようになっている。その中で、さらにGAを見て、A/Bテストもして……、というのは作業的にかなり重労働で、正直なところ無理ですよね。あとは、リスティングやリターゲティングに対して、イメージ的に美しくないのでできないという方もいます。企業によっては、一概に成果だけ求めることをやりづらい場合もあるでしょう。
そもそも、ECサイトにブランディングができるのか?
MZ:消費者イメージも大事ですからね。しかし、そもそもECサイトにブランディングができるという認識は皆さんにあるのでしょうか。
河野:ないですね。ブランディングとはデザインのことだと誤解していて、ECサイトには決まったテンプレがあるから自由にデザインできないと思っている人が多いです。でもブランディングって、お客さまに企業をどう理解してもらうかをつくっていく作業なんです。マーケティング以前の話で、「自分達は何ぞや」という定義づけです。だから、もちろんECでもできるし、むしろライバルの店舗に差をつけるためにECだからこそやった方がいい。実店舗なら、内装や接客の言葉など、すごくこだわるわけじゃないですか。ECだって同じ価値があるのに、そこまで考えられてない。それを考えるのがブランディングなんです。最近だとECのメディア化、情報を発信していくべきだと言われていますが、ブランディングができてないと、何を発信すればいいかわからず「今日は良いお天気ですね」みたいなどうでもいい話題をひたすらアップしてしまう。お客さまにしてみたら、知りたくもない情報を発信されても……となってしまいます。
MZ:でも、自分達が何ぞやというものが設定できたとしても、何の情報を発すればいいのかわからない場合もあるのではないでしょうか。
河野:それは発信すべき情報が、自分たちにとって当たり前になってしまっているケースですね。例えば製菓のブランドで、朝5時に職人が出勤して、餡(あん)をイチから作っているとします。でもサイトのどこにもそれが書かれていない。どうして書かないのか尋ねると、「そんなのはお菓子を作る側として当たり前だし、そんな事を書く必要は無いのでは……」とおっしゃる。でも、多くの製菓店は餡(あん)を製餡メーカーから仕入れるので、実は餡を自分達でつくっているというのは立派なコンテンツ。そういった点を掘り起こしていけばいいのです。
雑誌のようなビジュアルインパクトで、ファンを増やすECサイト
MZ:御社はECサイトのブランディングを実現するブランドマネジメントシステム「フラクタ・ノード」を展開していますが、このような時代の流れがその背景にはあるのでしょうか。
河野:そうですね。EC担当者は求められる幅が広がっているので、ブランディングに特化するのはもちろんのこと、いろんなことにチャレンジできるプラットフォームをと考えてつくりました。今までのツールは、店長さんにとっての使いやすさ、例えば毎日の受注が簡単にできるかというようなことに重点が置かれていました。でも、そうやって商品を売るだけではなくて、計測して仮説を立てていろいろ試せるような機能をつけています。
MZ:フラクタでつくったECサイトは、ビジュアルも雑誌のようにすごくきれいですよね。(一覧はこちら)
河野:コンテンツや商品情報を登録更新するのに、ブロックシステムを採用しています。例えばLPのデザインやコーディングは、EC担当者にとって重労働な割に、毎回ゼロから組み立ててもお客様が喜ぶとは限らない。一方で、単に写真と商品説明とカートがあるだけのページも訴求力が弱い。ブロックシステムなら、ある程度の単位でテンプレがあり、それを組み合わせてつくるので効率が上がります。これで、制作に2週間かかっていたページが1日でできるようになったクライアントもいます。
MZ:しかし、デザインがどれも同じ感じになってしまう恐れがあるのでは?
河野:その点で、最初はデザイナーに反対されました。「デザインはゼロからつくらないと、お客さまに同じだと思われる」と。でも、そのデザイナーがつくったものを分解してみると、実はだいたいが同じパターンの組み合わせで、微妙な違いしかなかった。そのちょっとの差に時間をかけるくらいなら、より多くの情報を提供した方が、お客様は喜ぶのではないかという判断です。
どうすれば顧客に喜んでもらえるのか。突き詰めて考えることこそがブランディング
MZ:どうすればお客様が喜ぶのか、突き詰めて考えるのは大事ですよね。
河野:まさにそれがブランディングです。ブランディングの目的は大きく2つあって、まずはブランドを知ってもらうこと。購入に至らなくても、こういう感じなんだと理解してもらう、不特定多数に向けたアプローチですね。そしてもうひとつが、顧客にブランドをもっと好きになってもらうこと。リピーターを増やすというと、売り方とか戦術的なところに目がいきがちですが、ECサイトってファンになったお客様はすごく頻繁に来るので、飽きずに使いやすくすることが重要です。
MZ:それはUIを工夫するということですか?
河野:実は、普遍的な使いやすさとはちょっと違います。例えば一般的にはシニア向けサイトなら大きな文字がいいと言われていますが、中には小さな文字で小説のように読ませるサイトもあるんです。そういうサイトは、文字を大きくすると逆にお客さまが離れてしまう。担当者が変わって、今っぽいデザインや普遍的なUIにした途端、コンバージョンが4分の1以下になった例もあるんですよ。そこに絶対的な答えはなく、自社のブランドとして、何が正しいのかをわかっていないとダメなんですね。
ブランディングを実現したECサイトで、KPIは何を見るべきか?
MZ:では、これまでのECサイトと、ブランディングしたECサイトでは、KPIの設定方法も変わってきそうですね。
河野:そうですね。もちろん、サイトが大きくなればなるほど、お客様も平均化するので普遍的なKPI設定が効きます。でもブランディングをすると、だいたい2~3パターンのお客さまがいるのがわかるのですが、その中のどれに最重点をおくか判断して設定します。通常だと、KPIを達成できるかどうかはいろんな要因が絡んで変わってきますが、ブランディングをしたECサイトでは、ターゲットにした人はほぼ必ず買ってくれるというケースもあります。
MZ:ターゲットを設定することで、逆にブランドの定義が見えてくることもありそうですね。
河野:はい。自分たちが何ぞやということが決められるので、社内みんなの方向性がそろう、つまりインナーブランディングができるのです。やはり通常だと、社長と現場の考えは結構違ったりするんです。例えばある家具屋の社長が、うちは職人がこだわって高品質なものを作っていると思っている。それを、現場にもいつも言い聞かせている。にも関わらず現場は、うちの家具は安物、とか思っていたりするわけです。その認識を揃えることで、売り言葉なども変わって効率が良くなります。あとは、意外と効果があるのが対法人向けですね。特に食品など、ブランディングすることで他社と差別化が明確になり、百貨店から商品を取り扱いたいと声がかかったりします。そういった法人の方々は必ず美的センスを持って選んでいるので、逆にブランディングがちゃんとしていないと選ばれることはありません。
MZ:思わぬビジネスチャンスが舞い込む可能性もあるんですね。
河野:そうですね。このようにECサイトのブランディングは、ただの見た目の問題だけではなくて、マーケティング的にはもちろん、社内統制や販路拡大など、あらゆる利益効率アップに貢献します。ぜひ新たなビジネスチャンスを切り開く糸口として、ECサイトにブランディングという視点を持ち込み、チャレンジしてもらえればと思います。
MZ:ECサイトのブランディング化が進めば、消費者にとっても良い世界が実現しそうですね。ありがとうございました。