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カタログ&EC通販ビジネスの先駆者・千趣会に聞く、20年来にわたる顧客分析への取り組みと成果

 カタログ通販・ECの「ベルメゾン」のブランド名で女性層になじみの深い千趣会は、今年でちょうど設立60周年の節目を迎える。膨大な顧客数を抱える同社では、約20年前にデータマイニングツールを用いた顧客分析を開始。EC利用者がますます増える中、同社にて長く販売分析を手掛ける西口浩司氏は、「顧客分析を通してコストを最小化しながら、一人ひとりのお客様との関係構築を目指したい」と語る。

約20年前にツールを導入、顧客分析にいち早く着手

株式会社千趣会 販売企画本部 販売戦略部 販売分析チーム 西口浩司氏

MarkeZine編集部(以下、MZ):千趣会さんはカタログ通販を長く展開される一方、最近ではECにも注力されています。現在の顧客の購買状況を教えていただけますか?

西口:当社が展開する通販の「ベルメゾン」では、2000年にオンラインショッピングサイト「ベルメゾンネット」をオープンしました。特にここ数年ではECを当たり前に使うお客様が増え、現在では全体売上の7割ほどが、オンラインでの決済になっています。ただ、商品を選ぶところから決済までオンラインで完結している方は少数派ですね。ECの利用者でも、商品を見つけたり選んだりするのにはカタログを使われている方は多くいらっしゃいます。

MZ:今ではデータを使った顧客分析は当たり前になっていますが、千趣会さんではかなり早い段階から専用のツールを導入されていたと伺いました。導入のきっかけは何だったのでしょうか?

西口:日本テラデータ社のDWH(データウェアハウス)を導入して、顧客データをサマリーではなく、明細で扱うようになったことが第一の理由でした。私は当時から在籍しているのですが、ちょうど20年前の1995年ごろには一千万件以上の顧客データを保有していて、明細データとなると、エクセルでのオペレーションは限界だったんです。そこで、すでに導入していたDWHともODBCで容易に連携ができる、現在はIBMさんが取り扱っているSPSSというデータマイニングツールの前身を導入しました。

送付するカタログの種類や数を最適化し、売上増へ

MZ:95年ですと、まだECがスタートしていないカタログ全盛のころですよね。どういった課題をお持ちだったのですか?

西口:当社では細かい顧客ニーズやカテゴリごとに、かなりたくさんのカタログを制作しています。95年当時からすでに十数種類あったので、“誰”にどのカタログを、“いつ”送ればいいのか、カタログ送付の最適化が課題でした。それを、顧客のさまざまな属性や購買データから分析したいと考えたのです。お客様のニーズに合ったカタログを、必要とされているタイミングでお届けできるかどうかで、売上はまったく変わってきます。ちょうど同じ時期、One to Oneマーケティングという言葉が聞かれるようになり、それを実現できるようなデータ解析技術も発展し始めていました。そこで、まずはカタログ送付の最適化を目的に、一人ひとりのニーズにお応えしていこうと、データマイニングツールを導入しました。

MZ:ベルメゾンで扱われている商品のカテゴリは非常に多く、利用者の年代層も幅広い印象があります。現在、どのような種類のカタログがあるのですか?

西口:大きくは、ファッション、インテリア、マタニティや子供関連の3カテゴリがあり、社内でもこの3事業部門に分けています。その中で、ファッションなら年代やテイストごと、インテリアならライフスタイルごとなど、さまざまな切り口のカタログを制作しています。

顧客分析から類似オーディエンスを見出し、新規購入を促す

MZ:今ではカタログの種類も顧客数もさらに増えていると思いますが、どのようなテーマで分析をされていますか?

西口:例えば、ファッションのカテゴリには「ベネビス」という靴専門のブランドがあり、カタログも単体で用意しています。靴はサイズの問題があるので通販では買いにくい商品ですが、一度買うとハードルが下がり、継続していただくことが多いんです。そこで、顧客の属性や購買データを分析し、靴の購入を促せそうな人を予測して、いつものカタログと合わせて「ベネビス」も送付しています。

MZ:靴を購入したことのある顧客を分析し、それと類似のオーディエンスを見出してアプローチする、ということですね。

西口:そうですね。属性だけでなく、過去の商品の買い方などを含めて分析することで、買ったことのない商品群にも接触してもらいやすくなっています。購入の可能性が高い方にカタログを送っているので、必要以上にコストをかけることもありません。

 過去に買ったことのある人だけを対象にしていると、当然売上は頭打ちになってしまうので、人が頭で考えるだけでは導き出せない商品ジャンル同士の親和性を見つけたりするのに、分析ツールがとても役立っています。また、そこで得られた情報は商品開発部に提供したりもしています。

得意分野を見極めて複数のツールを活用

MZ:顧客分析には、いくつかのツールを使い分けているんですか?

西口:そうですね。先ほどお話しした類似顧客の発見など、複数の切り口で複雑な事象を分析したい場合は、IBMのSPSSを使っています。データウェアハウスと連動して、大容量のデータを扱えるツールだからこそできることです。ほかには、分析というよりは細かい集計に、エクセルや他のツールも使っています。手を動かして計算して、仮説を導いたりするにはエクセルを使い、それを元に本格的に分析してみるときはSPSSを使っています。

MZ:SPSSの前身を使われていた時代も含めて、かなり長くこのツールを活用されていると思いますが、利点はどのようなところだとお考えですか?

西口:SPSSは、いろいろとアルゴリズムを変えて予測をしたり、クラスタリングをしたりするのに役立てています。先ほどお話ししたように、当社ではかなりの種類のカタログや商品群があり、顧客も相当数に上っています。その中で、できるだけ一人ひとりのお客様のニーズに応えながら売上を引き上げるためには、複数の切り口やアルゴリズムでの分析が不可欠なので、SPSSを積極的に使っている状況です。

 変数の多い難しい分析や、エクセルでの手計算ではまったく導き出せない示唆を得ようとしているので、それなりのデータの準備やトレーニングも必要なのですが、ちょうど今、私の部署の新しいメンバーも使えるように教育に力を入れているところです。

ECの一般化に伴い、増える検索流入顧客

MZ:SPSSを使って、今どのようなテーマの分析に取り組まれているのですか?

西口:ひとつは、引き続きカタログ送付の最適化を図っています。具体的には、できるだけネットで完結するようにしていただいて、カタログ送付を最小化していきたいと考えています。冒頭で、オンライン決済が7割を占めているものの、まだカタログを見てネットで買うというカタログベースのお客様が多いとお話しましたが、やはりカタログは制作費や郵送費もかかるので、なるべくネットを使っていただきたいと。そこで、購入の仕方などを分析して、ネットで完結しそうな方へのアプローチを検討したりしています。

MZ:ECが当たり前になると、例えばカタログは手元になくても商品名で検索してベルメゾンのサイトにたどり着いて、購入される方もいますよね。

西口:もちろん、そうですね。例えば男性でも、「暖かい・インナー」などで検索してベルメゾンのサイトを訪問し、購入される方が増えています。そういった方は、ベルメゾンのことをそこまで意識されていないでしょう。ECが一般化するほど、我々が想定していないお客様や買い方が広がるのだろうと思っています。これからの時代は、そういう方々へネットのみで適切な対応ができるようにならないといけないと感じています。

カタログ通販やECの世界で、対面販売のようなきめ細かな対応を実現したい

MZ:ECでの対応や、EC化による新しい顧客の開拓に注力しながら、一方でカタログ通販も続けていくと。

西口:そうですね。通販の主戦場がECになりつつあるとはいえ、当社ではカタログをメインに購入される方々も一定数いらっしゃるので、カタログをベースにしたビジネスは続けていきます。ネットで完結するお客様を増やしたいといっても、例えばこれまでカタログベースで購入していた金額と同じだけネットでも購入するのかというと、何とも読みづらいところがあります。そうした部分でも顧客分析を活かして、お客様それぞれのニーズに応えながら、市場での存在感を増していきたいと考えています。

MZ:最後に、顧客分析に関して今後の展望をお教えください。

西口:日々ビジネスに向き合っていると、どうしても直近の利益につながることや成果が上がりやすいことに優先的に着手しがちですが、中長期的な成長のために「将来に備えた今取り組むべきこと」を見過ごしてはいけないと感じています。

 例えばツールを使いこなして優良顧客の消費行動を分析したうえで、適切なアプローチでより強い関係を作っていくことなども、そのひとつだと思います。カタログ通販やECにおいて、まるで対面販売のようなきめ細かな対応がどうしたらできるのかも、探っていきたいですね。変化の激しい時代ですが、ツールでできることも格段に広がっています。マーケティングテクノロジーも勉強しながら、お客様との息の長い関係を築きたいと思います。

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この記事の著者

MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2015/07/15 20:23 https://markezine.jp/article/detail/22615