クライアント・カスタマー・メディアの課題を三位一体で解決
リクルート住まいカンパニーが運営する『SUUMO』は、全国に膨大な流通網を持つ情報誌と、月間PV2億5,350万、UU1,400万を誇るWebサイト、そしてスマートフォンアプリで構成される不動産に関するメディアである。
今回紹介する施策「SUUMOスコープ」は、情報誌『SUUMO新築マンション』の特別付録として、VRキットをつけたものだ。組み立て後、SUUMOのアプリを起動させたスマートフォンをVRキットに取り付け覗き込む。すると本当にモデルルームにいるかのような没入感で、物件を見ることができる。
施策のチームは、商品企画側が5名、ネット側が2名、そしてクライアントへ案内する営業部隊で構成された。その中で佐々木氏は、商品企画を流通も含めてプロデュースする形で携わった。普段はこういった広告商品の企画と、『SUUMO新築マンション』の巻頭特集などの編集を兼務している。一方、片山氏はSUUMOスコープのコンテンツの開発を担当。コンテンツ制作にも携わり、VRで使う映像も実際に撮影したという。
まず、どうしてVRを不動産探しに取り入れることにしたのか、そのきっかけを伺った。
「クライアント・カスタマー・リクルートそれぞれの課題解決に最適だったからですね。まずクライアントは、大型物件や大規模プロジェクトになるほど多くの集客を必要とし、その集客プランを練りに練っているという点です。次にカスタマーですが、マンションを買いたいと思ってモデルルームに行っても、1件あたり移動時間など含めると3、4時間も拘束されるため、多くの物件を回りにくいという課題がありました。
最後に当社ですが、紙メディアは、全国のコンビニや駅などをはじめとした巨大な流通網を持っていて、これが大きな競合優位です。しかし紙メディアの効果測定方法は、捕捉が比較的容易なネットと異なり、手書きのアンケートやハガキでの回答などカスタマーの自己申告による情報だけでしか測定できないという課題がありました。今回の取り組みで効果を“見える化”できたことは、当社としても大きな出来事でした」(佐々木氏)
それらの課題解決に、VRは最適のソリューションであった。VRであれば、紙では伝えきれなかった部屋の雰囲気などを没入感のあるビジュアルでより訴求できるようになり、現場に行かなくても10分程度あればモデルルームを閲覧できる。そして、オンライン上の施策のため、カスタマーの行動も把握できるのだ。
SUUMOが持つリソースとインタラクティブ性を最大限活用
また、VRならではのメリットを片山氏はこう語る。
「また、インタラクティブ性もメリットの一つです。今回追加した機能のひとつに、床を複数のカラーから選択できるというものがあります。新築マンションのモデルルームはあくまで“一例”であり、床のカラーひとつ変わるだけでも受ける印象の変化は思いのほか大きなものですが、モデルルームではこれを体験できません。その点VRであれば、簡単な操作でカラーを切り替えられるため、新しい体験を提供できると考えました」(片山氏)
またクライアントにとって、何よりSUUMOのカスタマーインフラは大きなメリットとなるという。
「どのクライアントさんも、VRを使った様々な提案は広告代理店を始めよく受けると聞いています。ただ、なぜ当社を選んでくださったかというと、SUUMOが情報誌・Web・アプリともに全国規模で浸透しているからなんです。VRのコンテンツを制作しても、広く閲覧されなければ意味が無い。しかし、SUUMOが持つ膨大なリーチをご利用いただけば、多くのカスタマーに閲覧される可能性は高く、その効果にご期待いただいているのです」(佐々木氏)
「基本的な課題として、VRコンテンツ専用の単体アプリは、インストールしていただくことのハードルが高く、VRを利用するためだけにアプリのダウンロードを促進することも難しい。ただ、当社の場合、SUUMOのアプリ内の一つの機能として搭載しているため、物件を探す目的で既にダウンロードして使っていただいている多くの方へ届けることができました」(片山氏)
本当にモデルルームにいるかのような、臨場感
同施策、実は今回が2回目の実施。初回と比べ対応物件数も増やし、コンテンツもクライアントや読者のニーズをもとに改良を加えた。具体的には、前回最も人気だったモデルルームのコンテンツを充実させたという。
「今回は部屋間の移動が可能になりました。前回は1つの場所から360度見回すのみでしたが、部屋を移動する体験が加わることで、没入感というVRのメリットをより高めることができました。モデルルームを実際に内見するときに近い感覚をユーザーには持ってもらえると思います」(片山氏)
また、VRを使いエンターテイメント性を持たせた内覧は、「『SUUMO新築マンション』のメイン読者層との相性が良い」と佐々木氏は語る。
「情報誌を手に取るカスタマーの皆さんの検討段階は様々です。賃貸や戸建など選択肢もいくつかある中で、“新築マンションってどんな感じなんだろう?”とライトな感覚で楽しく見ていただくということを特に気を意識しました」(佐々木氏)
満足度の高い商品にするために、質と効率を両立する
VRという最新技術を使うとなると、企画から開発、実装までのコストがとてもかかるのではないか。佐々木氏に聞いたところ、社内リソースとスケジュールの効率化を意識したという。
「沢山の物件に参画いただくためには、1物件あたりにかかる労力を過度に大きくはできません。2回目の実施ということもあり、1回目のコンテンツのコストや、カスタマーの反響・インサイトなどをもとに、制作するコンテンツをぐっと絞り込んだことで、品質と利益を同時に確保できました。スケジュールも、クライアントと当社の双方の負担が最も少なくなるよう、商品企画・営業・制作で情報共有を密に行い、最適化を図りながら進めていきました」(佐々木)
また、コンテンツの質に関しては、できるだけリアルな体感にこだわったという。
「例えば、キッズルームは子供の目線を考えて少し低い位置から撮影するといったの工夫をしています。また、SUUMOスコープ本体を傾けた時の映像の動きのなめらかさなども、前回に比べグレードアップしました」(片山氏)
その他、画質も単に高画質にせず、読み込み時間とのバランスを取り、Webブラウザでも見られる基盤で制作してクライアントとの確認作業をしやすくするなど、前回比でも様々な工夫を行った。
今後はVRであることの優位性をさらに高める
施策から数週間、結果的にVRコンテンツを掲載した物件への問い合わせや資料請求が増えるとともに、ユーザーからの反響も様々なところであったという。
「Twitter上でもSUUMOスコープに対する投稿がとても多く寄せられていて、反響の大きさを感じました」(片山氏)
「街角でも、SUUMO配布用のラックから、通常より雑誌がなくなっていたのは驚きでした。またクライアントからも、今回制作したVRコンテンツを別の集客施策で使いたいという声も出てきています」(佐々木氏)
2回目の実施で掲載物件の数を増やし、集客効果も高めたSUUMOスコープ。「次回は質の部分をより追求していきたい」と佐々木氏は語る。
「SUUMOスコープにしかできないことを今後も追及していきたいですね。最終的には、SUUMOスコープで気軽に自宅でモデルルームを体感できる、という新しい家探しのカタチがスタンダードになっていくといいなと思います」(佐々木氏)
Webと雑誌の良いところをミックスしていく
最後に、SUUMOの媒体を通しての展望を聞いた。
「技術が日々進歩しているので、提供できるサービスの範囲が拡大しています。そのため、顧客ニーズや世間のトレンドを見極めて、カスタマーの家探しをサポートする新しいサービスを提供したいと思っています。
また、雑誌とネットの連携を強めていきたいですね。ここまで大掛かりにWebと雑誌を組み合わせた施策は今回が初めてで、当社としてもとても画期的な取り組みでした。Webは、自分の興味に合った情報を探しやすく、雑誌はページをめくる中で意外な出会いを提供できる。このそれぞれの魅力を掛け合わせた施策を、今後行って行きたいです」(片山氏)
「新築マンションの広告物では、カスタマーがまず知りたい価格や間取りなどの情報を開示せず、モデルルームに行って初めてわかるといったケースが多い。つまり、広告を通じて提供できている情報が充分でないところがまだまだあります。カスタマーが求めている情報を私たちメディアが察知し、その情報を届けることで、クライアントや業界が変わっていくきっかけを作っていきたい、と思っています」(佐々木氏)