AIアシスタントは社会にどのような変化をもたらすのか?
AIアシスタントが世の中に与えるインパクトとして、最も大きなものは「会話型インターフェース」の普及が挙げられるだろう。これまでユーザーとコンピュータとの間を仲介するインターフェースとしては、キーボードによるCUI(キャラクターユーザーインターフェース)から始まり、マウス等によるGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)、現在ではスマートフォン等のタッチパネルによるTUI(タッチパネルユーザーインターフェース)へと進化している。
いずれも指先の動作によるものであり、言葉の発声によりコミュニケーションを行う人間にとって自然な形とは言えないものだった。「会話型インターフェース」の普及は、人とコンピュータがようやく自然なコミュニケーションを行うことができるようになるとも言えるだろう。
人々の生活に与えるインパクトとしては、スマートフォンにおけるAIアシスタントの搭載が挙げられるだろう。人々はスマートフォン上のアプリやサービスを使いこなすことで、生活における様々な情報を取得し意思決定を行っている。さらにAIアシスタントが人とサービスをシームレスに繋ぐインターフェースとして存在することによって、人々は何のサービスを使うか意識せずに、情報を取得することが可能となる。近い将来、スマートフォン上の画面には、AIアシスタントを呼び出すためのアイコンだけがあれば十分といった世界が来るかもしれない。
スマートフォン以外のデバイスにおいてもAIアシスタントの搭載が進んでいる。日本ではAmazon EchoやGoogle Homeといったスマートスピーカーはまだ登場していないが、いずれ販売が開始されるだろう。一方で日本特有の動きとして、ウェアラブルデバイスやスマートロボットの登場が先行している。日本の文化の1つとして世界共通語となっている「Kawaii(かわいい)」に代表されるように、もしかしたら日本では、かわいい外見を持つスマートロボットやホログラムコミュニケーションロボットGateboxのようなものを中心にAIアシスタントの普及が進むことも考えられる。
またIoTの側面についての影響も挙げられる。すでに様々なIoTデバイスが登場しつつあるが、まだ大きな普及には至っていない。理由の1つとして、インターネットに接続されたデバイスの利便性が実感できない点が挙げられるだろう。特に家庭内といった近距離にあるデバイスについては、PCやスマートフォンで操作するよりは直接操作したほうが手軽で早いというのが現実だ。AIアシスタントによって、音声を通じてより手軽にIoTデバイスを操作することが出来るようになれば、IoTの普及にも繋がっていく可能性があるだろう。
コラム:ドラえもんに見る”現在のAIアシスタントに足りないもの”
余談ではあるが、こうしたAIアシスタントは、ドラえもんのような存在になりうるのだろうか?
ここでは、人間同様に滑らかに動くロボットの筺体や4次元ポケット、未来の道具等の超科学的なものの存在は一旦無視して考えてみよう。のび太のニーズに対して、状況に合ったソリューションを提供し、そこからのフィードバックを得ることによって代替案や改善策を提供することができるかどうかがポイントだ。
ドラえもんの第2巻の『ハイキングに出かけよう』を見てみよう。この回は初めて「どこでもドア」が登場した回である。のび太はドラえもんにハイキングに行きたいとおねだりをするが、ドラえもんは調子が悪いらしい。するとここでドラミちゃんが登場する。実はこの回、初めてドラミちゃんが登場した話でもあった。ドラミちゃんが代わりに道具を出すが、旅行に行けるような道具は出ずなかなか上手くいかない。何度目かの道具で「どこでもドア」が登場し、四苦八苦しながらようやく目的地にたどり着く。その後は、ハイキングに来た人が捨てたごみを見つけたドラミちゃんが、ごみ掃除を始めたり……と話が続いていく。
こうして見ると、現在のAIアシスタントにおいて大きく足りない点としては、自律行動(認知→判断・予測→行動といったサイクル)が可能かどうかであると言えそうだ。ドラミちゃんは、調子が悪いドラえもんを見て自分が対応した方が良いと判断して行動したり、ごみを見つけて本来の目的と異なるがごみ掃除をした方が良いと判断して行動したりしている。
こうした自律行動が可能なAIアシスタントの実現が今後の課題となってくるかもしれない。
AIアシスタントによるマーケティングの変化
情報収集を行うためのサービスとして登場した検索エンジンは、生活に不可欠なものとなり広告メディアとして巨大な市場に成長した。企業のマーケティング活動においても、SEM(検索エンジンマーケティング)は自社のプロダクトに興味のある見込み顧客にアプローチするための手法としても必要不可欠なものとなっている。またインターネット広告市場において、リスティング広告は約36%を占める市場となっている(「D2C インターネット広告市場規模推計調査」参照)。
対話によって人々の日々の生活を支援するAIアシスタントは、検索エンジンに変わる新たなサービス、そして次世代の広告メディアとなる可能性を秘めている。各社がこぞってAIアシスタントを開発しているのも、一つには、こうした次なる市場を狙ってのことかもしれない。検索エンジンによってリスティング広告が発明されたように、AIアシスタントによって新たな広告手法が誕生する可能性もあるだろう。対話型インターフェースであることから、音声を活用した広告が中心となるのかもしれない。AIアシスタントと連携できないサービスは利用されにくくなるため、AIアシスタント最適化といった自社のサービスを勧めてもらうためのマーケティング手法も登場するのかもしれない。
またAIアシスタントを利用する人は、そこから得られる情報に対してより利便性の高いものを求める可能性が高い。利便性の低いAIアシスタントを利用したいと思う人はいないからだ。そのため、AIアシスタント上での広告は、より個人のニーズを元にパーソナライズされていたり、今の状況に対して邪魔をしないようにユーザビリティが考慮されていたりといったように、人が違和感なく接することができるような高いネイティブ性を持ったものになる必要があるだろう。
そのためにはAIアシスタントと連携したIoTデバイスのデータをいかに活用するかといった点もカギとなる。データを活用したマーケティングは、オンラインの行動データに加えてオフラインの行動データも統合されることで、人の興味関心をより捕捉できるようになってきている。さらにIoTデバイスからのデータも加わることによって、日常の生活空間における具体的な状況や環境を理解でき、企業はより最適化されたサービスを提供されるようになるかもしれない。
またIoTデバイスへの指示の履歴も、人がある状況や環境下で何を望むのか推測するデータとして有用なものとなるだろう。AIアシスタントを中心として、イン・アウトされるあらゆるデータが有効に活用されることによって、生活者に提供可能な体験がますます洗練されていくことになるだろう。

(執筆:D.A.コンソーシアムホールディングス株式会社 広告技術研究室長 永松範之)