「Amazon Go」と「Amazon Dash Button」の衝撃
押久保 皆さんご存知だと思いますが、リアルでのワンクリックを実現する「Amazon Dash Button」が日本に上陸しました。また、アマゾンは、AIやセンサーなどを使ったレジがないリアル店舗「Amazon Go」の動画も公開しました。その動画を見て僕はびっくりしたのですが、おふたりは率直にどう思いましたか。

奥谷 僕にとってはこういうのが理想ですね。顧客を知って店舗をやるということが、結局リアルの会社にはできない。顧客を知った人がどう店舗を作っていくか。「Amazon Dash Button」にしても、メーカーが直接やればいいという感じはします。「MUJI passport」を作ったのも、デジタルを使えば顧客とダイレクトにつながれるのに、やらないのはもったいないという発想からでした。アマゾンはそれをどんどん実践している。こういうのが真のオムニチャネルで、顧客データを持っていることの価値だと思います。ネット企業がオムニチャネルを推進することの最先端だと思うし、こういうことを目指したい。
西井 「Amazon Dash Button」は、社内ではずっと話題になっていました。ワンクリックでキャンセルされたとしても、ユーザーのことを考えるとこういう体験はいいねと。化粧品の会社はすぐできると思います。「化粧水Dash」とか作ればいい。月イチで定期配送をやるより、その商品が欲しいタイミングでやったほうがユーザー体験が良くなり、結果的に長く使ってもらえるからです。そのボタンを作ることにマーケティング費用を使ったほうがいいかもしれない。

「Amazon Go」は、昨日動画を見て衝撃だったというか、面白いな、さすがアマゾンだなと思いました。日本では、今ある店舗をちょっと便利にするといったアプローチをしてしまうけれど、そもそもの体験自体をガラっと変えてしまう「Amazon Go」はすごい素敵だなと思う。
奥谷 絶対この発想は小売業から出ない。動画を見て思ったけれど、完全にこれってECの物流センターのピッカーの作業ですよ。
西井 間違いない。ピッカーをユーザーにやらせている。
奥谷 完全に物流発想。自販機じゃないんです。店舗空間があって選べるということがちゃんと実現できていて、余計なプロセスをいかに短くするかということをやっている。商品を選び、考える。検討の時間の先にある、食べておいしいということがお客さんにとっては大事で。マーケターはすぐに購入、購入と言うけれど、そんなんどうでもええという話。お客さんに「これを買う」と決めさせれば、来店前に決めさせればそれで決まる。
西井 アマゾンのマーケティングは、配送が速い、商品がすぐ届くというユーザー体験にこだわってきました。そこがブランド体験になり、購入するときに価格調査をしなくても、まぁまぁ安いということで買っていく。アマゾンのブランドはあまり広告で作られていない。
オイシックスの「定期ボックス」の品ぞろえの自動化も、体験から生まれるユーザーの信頼感がすごく大きいと思っています。ネット企業はそういうことをやっていかないといけない。単純に他社より値段が安いとか、写真がキレイとかだけではできない経験というのを作らないと。アマゾンのこの取り組みは本当にかっこいいですよね。見習わなければいけないなと。
奥谷 もうアマゾンに入社しようかな(笑)。

押久保 USに行きますか(笑)。では最後に今後の展望についてお願いします。
西井 EC業界の話で言うと、ブランドは大事だなと思っています。いかにブランドを作っていくかをやっていきたい。オイシックスのマーケティングで実現したいのは、業績をちゃんと上げながらブランドを作っていくこと。そして、個人としてはデジタルマーケティングを今までやってきていたので、デジタルでの事業化の成功をたくさん作っていきたい。自分で設立した会社が日本将棋連盟と業務提携したのも、そのひとつです。将棋って人気はあるのにデジタルでなかなかマネタイズできていない。プロ野球などのスポーツもウェブにそこまでうまくはシフトできていないと思うのですが、そうなると従来の事業モデルでは成り立たない事業もたくさんあると思う。今後はECだけじゃなくてデジタルの中でのマーケティングを確立して事業を作り、横展開していきたいと思います。
奥谷 純粋なECの世界に身を置いてまだ1年生ですが、この1年で僕の確信が間違ってなかったと思うことがひとつある。それは、やはりEC業界からオムニチャネルを考えるべきだということです。お客さんのことを知っているのは誰なのか。EC業界はもっとオフラインに出るべきです。しかし、それはただ店をやればいいということではない。オイシックスのマーケティングで実現したいのは、食の体験を広げていくこと。サイトを見ていてもおなかは一杯にならない。口にするまでのプロセスが必要です。体験の場を実現していくことがブランディングになると思っているので、さまざまなオイシックスの体験を量産していきます。すべてオフラインで。それが今後やりたいことです。