この記事は、日本マーケティング学会発行の『マーケティングジャーナル』Vol.45, No.3の巻頭言を、加筆・修正したものです。
変わるオンライン・コミュニティ
オンライン・コミュニティとは「会話、情報などの資源交換、学習、遊び、ただ一緒に過ごすといった目的のためにオンライン上で人々が集まる場」として定義されます(Kraut et al., 2012)。
近年の情報技術の進歩による端末やコンテンツの進化と多様化、無償のデジタル財の普及などにともない、オンライン・コミュニティはその姿を変化させています。インターネット黎明期においては、テキストベースの情報交換を、掲示板やメーリングリスト、SNSで行うことが主流でした。現在の交換の在り方は、従来から存在するテキストベースの情報交換に加えて金銭的・非金銭的応援、売買、観戦、対戦など多岐にわたり、参加主体も人間、2D、3Dのアバターなど多様です。
また、従来のコミュニティにおいては対面のオフライン・コミュニティとオンライン・コミュニティを個別に検討していましたが、現在は複合現実(mixed reality)などの技術によってオンラインとオフラインの境界が曖昧になりつつあります。さらに、法人向けSNSやB2Bコミュニティの普及により、B2C、C2C以外のオンライン・コミュニティも多く生まれています。

本稿では、こうした現代のメディア環境におけるオンライン・コミュニティの最前線を、日本マーケティング学会の学術誌『マーケティングジャーナル』(QJM Vol.45 No.3)に掲載された最新の研究成果をもとに紐解いていきます。
この特集号では、4つの異なるオンライン・コミュニティ(オンライン・ゲーム、メタバース、動画共有サイト、B2Bコミュニティ)が取り上げられています。それぞれが持つユニークな特徴と、そこに共通する普遍的なメカニズムを理解することは、これからのマーケティング戦略を考える上で不可欠と考えます。
オンライン・ゲームから多様化するコミュニティの現在を探る
冒頭のオンライン・コミュニティの定義の事例の一つは、オンライン・ゲームです。一橋大学の六嶋俊太特任講師と松井剛教授の論文「オンライン空間において多様化する消費者の実践 ― 消費者の異質性を考慮したオンライン・ブランド・コミュニティの考察 ―」は、オンライン対戦ゲームのコミュニティを分析事例としています。
本研究の重要な特徴は、オンライン・コミュニティの在り方を現代の情報環境下で再検討している点です。オンライン・コミュニティはMuniz and O'Guinnが2001年に提唱した「ブランド・コミュニティ(BC)」が長らく理論的基盤でした。
しかし、時代の変化とともに人々が使用する端末やオンライン上の人々の交流の形は変わっていき、BCでは説明しきれない現象が登場します。こうした環境の変化にともない、新たな概念としてArvidsson and Caliandroが2016年に「ブランド・パブリック(BP:SNSにおいて『ハッシュタグ(#)』などのインターネット機能を媒介して発生する、ブランドに関する個人の感情的表現によって形成される消費集団)」という概念を紹介しました。
本研究は、2025年現在においてはBCとBPの両者が想定する消費者が共存し、それぞれの実践およびその相互作用によってコミュニティ活動が発展・変化しているという見解を問題提起として提示し、そうしたオンライン上の集団を指して「現代のOBC(オンライン・ブランド・コミュニティ)」と表記し考察しています。
また、本研究は世界的に人気が高まっているオンライン・ゲームを対象にしているという点においても、読者は興味深く読めると思います。