1年で半数以上が非アクティブユーザーに CRMが注目の理由
CRM(Customer Relationship Management)とは、コミュニケーションを通じて顧客から長期的に選ばれる企業となることを目指す思想や取り組みのこと。20年近く前から使われている言葉だが、シナジーマーケティングの古賀裕人氏は「今改めてCRMへの注目が高まっている」と主張する。
その理由として古賀氏が指摘するのは、ユーザーの非アクティブ率の高さだ。ある健康食品ECでは、1年間何もアクションを起こさなかったユーザーが全体の66%、某コスメECでは83%も存在したという。投資して獲得したユーザーであっても、1年後には半数以上が非アクティブユーザーと化しているケースは少なくない。
「壊れたバケツのように、新たなユーザーが入ってはどんどん出ていってしまっている状態です。この状態だからこそ、獲得したユーザーと長期的な関係を構築するCRMのアプローチが効果的なのです。そしてCRMデータは売上拡大に活用できる資産だと理解されている企業が多いからこそ、CRMというキーワードが継続して注目されているのだと思います」(古賀氏)
またコストの面でも、新規顧客の獲得以上に既存顧客の維持を重視するCRMの考え方は有効だ。古賀氏はこれを、新規顧客獲得には既存顧客獲得の5倍ほどのコストが必要だという「1:5の法則」から説明した。企業に対してのロイヤルティーが高い顧客ほど、時間の経過とともに大きな利益をもたらす可能性が高いと考えられることからも、既存顧客の維持にはメリットがあるといえる。
“メール×デジタル広告”はすぐに実践できる!
では、企業は具体的にどうCRMに取り掛かればよいのか。古賀氏は「チャネル」にフォーカスした取り組みが重要だと話す。
「生活の多様化、デバイスの変化にともない、ユーザーが情報を受け取る場所とチャネルは増加しています。この結果、One to Oneのコミュニケーション志向はこれまでになく重要度を増しています。これまでのOne to Oneマーケティングでは、ターゲット・コンテンツ・タイミングにフォーカスすることが多かった。しかし今後は、これに加えて最適なチャネルで情報を発信することがかなり重要になります」(古賀氏)
さらに古賀氏は、多くの企業のCRM施策がメール単独でのコミュニケーションを中心に設計されている現状を指摘する。
「もちろんメールマーケティング自体の効果は理解していますが、一般的にメルマガ受信を許可しているのは会員全体の30%で、開封するのはさらにその中の10%だといわれています。これは総会員数が10万件の場合、9万人の人には情報が届いてすらいないということです。この数字から適切なチャネルで情報を発信することがいかに重要か、よくわかると思います。
最適なチャネルでできるだけ多くの人へ情報を届けるためには、チャネルを1つだけ使うのではなく、掛け合わせていくことがポイントです」(古賀氏)
そして実はこれまでメール中心だった企業も、デジタル広告を掛け合わせることはすぐにできるという。
デジタル広告の代表的な媒体、Yahoo! JAPANやGoogle、Facebook、Instagram、Twitterではメールアドレスを活用して広告を配信、コミュニケーションを実施するメニューが用意されている。広告主が保有しているメールアドレスと媒体側で保有しているデータを掛け合わせ、最適なターゲット層を抽出して媒体内でコミュニケーションをとることができるというものだ。この手法であれば、これまでのメールマーケティングで使用していたデータを活用し、より適切にユーザーへのアプローチを図ることができる。
講演でご紹介した事例の詳細は以下よりご覧ください!
アクティブユーザー増加を狙った「ラ ロッシュ ポゼ」の事例
セッションの後半で古賀氏は、実際に企業で行われたCRM施策の成功事例を2つ共有した。
1つ目は、日本ロレアルグループの敏感肌向けスキンケアブランド「ラ ロッシュ ポゼ」の事例。これは、売上の拡大に向けてアクティブユーザーを増やすことからアプローチをかけた例だ。同社はECサイトを運営する中で、総会員数は年々増加しているもののアクティブユーザーが横ばいのため、非アクティブ率が上がり続けるという課題を抱えていた。
そこで同社が初めに打ち出したのはメール配信。同社の場合はそれまで一斉配信のメール配信しか行っていなかったため、まずはセグメント別のメール配信からも十分な効果が期待できたのだという。配信するコンテンツの内容で意識したことは「アクティブユーザーの購買データをもとに非アクティブユーザーへのおすすめ商品をピックアップして紹介」「特別オファーでお買い得感を演出」の2点だ。
以上を3ヵ月実施したところ、メール開封率は約21%、CVRは約5%と、開封率もCVRも通常配信のメールと同等のスコアだった。
とはいえ、この段階では8割近くがメールを閲覧していない。そこで次に行ったのがデジタル広告だ。メールを閲覧していない非アクティブユーザーに向けデジタル広告を配信したところ、クリック率約3.5%、CVR約5%という結果となった。
「メールを読んでいない非アクティブユーザーから狙い通り、広告を通して購入してもらえました。また、通常のリターゲティング広告よりも、10%低いCPAで獲得できたので、効率という面でも良い結果が出ました」(古賀氏)
メールとデジタル広告の2つの施策を実施した結果、2016年7月~2017年7月にかけ、アクティブ率は2%改善した。「会員数が伸びている中での2%という数値は、売上に換算するとインパクトある結果となりました。クライアントからは、チャネルを重複させることなく、セグメント別にコミュニケーションできた点もご評価いただいたポイントです」(古賀氏)
ユーザー購入頻度の向上から売上拡大 「ダブルエー」の事例
2つ目の事例は、「Oriental Traffic」をはじめとするレディースシューズの製造販売を行うダブルエーが、ECにおける購入頻度の増加に向け実施した取り組みだ。
同社では、メール経由の売上が全体の約20%を占め、開封率は平均30%ほどと、メールは既に売上貢献度の高いコミュニケーションチャネルであった。そこで売上をさらに高めていくための施策を考える。
CRMデータを活用する方向性で考察するが、ダブルエーが保有しているCRMデータは、EC会員(約6万件)と店舗会員(約15万件)の2つ。これらのデータはオンラインとオフラインで分断されており、多くのデータをもっていても活用しきれていないという問題点があった。
そこで購入頻度を増やしていくために取り組んだのが、夏のセール時期に合わせ、EC会員・店舗会員に対し、セール情報という強いコンテンツをメールと広告を使って配信するというもの。EC会員へはECでの再購入を促進、店舗会員にはECへの送客を促す施策に取り組んだ。
施策の要となったのは、「Facebookコレクション広告」の活用。メインビジュアルとその下に関連する商品画像4枚が組み合わさった広告フォーマットになっていて、クリックするとFacebook内で商品の説明と価格が確認できるというものだ。
「コレクション広告で訴求したのは、CRMデータからオンラインでアプローチできるECサイトのユーザーです。Facebook内をウィンドウショッピングのような感覚で回覧できるよう、コミュニケーションを展開しました。バナーから直接サイトに遷移しサイト内を回覧してもらうよりも、ページ遷移数を減らし、離脱を避けられると考えたのです」(古賀氏)
約1ヵ月の間施策を実施し、EC会員からは213件の購買数、ROAS(費用対効果)は807%と他の広告比べてとても高い結果に。店舗会員に関しては、33件の購買数、ROASは396%となり、ECでの夏セール施策は昨年比で売上160%を達成した。
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まずはできることから始めてみよう
施策を通して古賀氏は「CRMデータを活用した広告施策にはプラスアルファの価値として、施策の結果から新たな仮説をつくりだせるという発見があった」と話す。
「ダブルエーさんのEC会員には、“本会員”と“ゲスト会員”の種別があり、それぞれ最終購買日を基点にセグメントをかけて広告を配信しました。その結果を見ると、本会員は1年未満までは高いROASで獲得できているのですが、ゲスト会員だと半年以内でROASがぐっと下がっています。こうした数値から、非アクティブ化を防ぐためのタイミングは、会員種別でも異なっているのではという分析ができるようになりました。
これまでこうした分析はなかなかできていなかったのですが、施策を経る中でこういった仮説をつくりだすことができた点も、担当者さまからの評価をいただきました」(古賀氏)
なおダブルエーのケースでは、施策の支援を一貫してシナジーマーケティングが担うことで、企画から配信までを約1週間という早さで実施できたという。
「やろうと思えば来週からでも始められるような施策です。CRMを始めようとするとどうしてもシステムの導入だ、組織整備だ、と大きな話になってしまいがちですが、中国のことわざ『隗(かい)より始めよ』のように、まず取り掛かれることから始めていくことが重要ではないでしょうか」とのメッセージで、古賀氏は講演を締めくくった。
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