広告効果測定の考え方がリアルにも浸透
デジタルサイネージは店頭や街頭のポスターや看板、サインの代わりに薄型ディスプレーを利用したもので、ディスプレーの価格が低下し始めたことから新しい広告媒体としての実用性が高まり米国で広告主の注目を集め始めている。
特に店頭の広告とPOSデータの相関関係をリアルタイムで把握できることから、リアルな店舗での販売という最終目的へのコンバージョン効果を測定できる広告として期待が高まっている。オンライン広告の分野で広まった結果重視の考え方やそれをサポートする技術が、リアルの店舗にまで波及しようとしているわけだ。
オンライン広告の分野での覇権をめぐる米IT大手の攻防戦が続く中で、デジタルサイネージの分野は今後どのように変化していくのだろうか。世界の4大広告会社グループの1つ、Publicis Groupe傘下のデジタルサイネージ関連のテクノロジー企業MarketForwardの最高技術責任者Manolo Almagro氏に、技術的側面から見たデジタルサイネージ事業の今後について話を聞いた。
デジタルサイネージの設置場所の目安は目の高さ
─Marketforwardとはどんな会社?
デジタルサイネージを専門にした研究開発会社です。親会社はPublicis Groupeで、世界の4大広告会社グループの1つです。Publicis Groupeの傘下には、米メディア・バイイング最大手のStarcomがあります。われわれは1998年、まだ世間がそれほどデジタルサイネージには関心を持っていないころからマグドナルトなどの大手企業のメニューボードなどのデジタルサイネージ事業を手掛けてきました。21世紀間近ということで大手企業は、新しいことにチャレンジしたかったのだと思います。費用対効果が思わしくない中、辛抱強くわれわれによく付き合ってくれたものだと感謝しています。
デジタルサイネージが注目を集めるようになったのは、ここ2、3年でしょうか。最大の要因は、スクリーン価格の低下です。費用対効果が大幅に改良されたので、デジタルサイネージ事業に乗りだす企業が急増したのです。われわれは早くからこの領域に特化してきたので、既に多くのことを学んでこれました。われわれが学んだことの1つは、デジタルサイネージは消費者に合ったメッセージを出せるし、出さなければならない媒体だということです。
例えば、マグドナルドの場合は、朝、昼、深夜でメニューが異なります。すべての時間帯のメニューを表示して顧客を混乱させるより、朝なら朝のメニューだけを表示したほうがいいわけです。またある時間帯はシニア向け価格があるのですが、その時間帯にシニア向けメニューを表示したりします。
銀行は、地域によって異なる商品のプロモーションを行っています。デジタルサイネージで地域ごとに異なる表示をすることができます。銀行は、目に見える形の商品を売っているわけではないので、店頭でどのようなサインを表示するかが重要になってきます。そういう意味で、デジタルサイネージは銀行向きだといえます。
銀行のATMでコンピューターが処理中に広告を流したところ、消費者から苦情が寄せられました。「自分のお金をおろすのに、広告を見せるとは何ごとか」と。そこで処理中は、映画の宣伝動画など娯楽性の高い広告を出すようにしました。
また同じ店の中でも、場所によって表示する内容を変える必要があります。スーパーマーケットや大型店舗では、それぞれの売り場でその売り場にある商品カテゴリーの広告を出すのはもちろんですが、レジの前で待っている人に商品広告を表示してもほとんど効果はありません。顧客は既に購入を済ませているからです。レジでは代わりに映画の宣伝ビデオなどを流すのがいいでしょう。動画もテレビCMのような30秒、15秒のものは好まれません。長くてもせいぜい5秒でしょう。
デジタルサイネージをどこに表示すると効果があるのかも、これまでの調査で明らかになっています。人間は、常に心地よい姿勢を保っていたい生き物なんです。よく天井からスクリーンをぶら下げているのを見かけますが、高い位置にあるデジタルサイネージは見上げなければならないので、あまり見られないことが分かっています。設置場所で理想的なのは、目の高さより少し高いぐらいのところです。