企業を取り巻く環境の変化
総合印刷会社の共同印刷は、2017年に創業120周年を迎えたことを機に、コーポレートブランド「TOMOWEL(トモウェル)」を導入。ブランドメッセージである「共にある、未来へ」のもと、デジタル領域のソリューション開発を強化している。
MarkeZine Day 2020 Springの講演で田邉氏がテーマに選んだのはOMO。スマートフォンがもはや単なる通信手段ではなく、買い物、情報収集、エンターテインメントなど消費者の生活のハブとなっている今、顧客行動をログ解析から理解し、客数、客単価、LTV向上を目指すことが求められている。
こうした背景から同社は、環境の変化に企業が適応するのを支援するため、スマートフォンとの連携に焦点を当て、人材不足や業務効率化の改善に役立つ様々なソリューションを提供している。
デジタルとリアルの境目がない顧客体験を実現
同社のOMOソリューションの基盤となるのが、最新のデジタル技術を活用した「MY SHOPPING CONCIERGE(マイ・ショッピング・コンシェルジュ)」である。
これは、デジタルとリアルの接点から得たデータを一元的に管理し、楽しく便利に買い物できる店舗空間を提供するもの。顧客データベースや購買データベースをもとに、店頭のサイネージや接客タブレットの表示、顧客のスマートフォンへのコンテンツ配信などを可能にする仕組みで、より良い顧客体験を実現する。
具体的な店舗イメージとして田邉氏が紹介したのが下の図。これは2015年ごろから構想されていたものだという。
中央にあるタッチパネル式のデジタルサイネージは、商品を検索したり、情報を収集するためのもの。選んだ商品はスマートフォンで購入および決済が可能で、重い商品などは自宅へ配送することもできる。また、右手奥には、有人レジ、イートインコーナー、生鮮品のコーナーも設置されている。
2020年3月に開業した高輪ゲートウェイ駅では、駅中に無人コンビニ「TOUCH TO GO」がオープンするなど、ここ数年で日本の小売業にもデジタル化の大きな波が押し寄せている。「MY SHOPPING CONCIERGE」では、ECと店舗でのソリューションを共に提供しているため、ワンストップでのOMO施策が可能だ。
当日の講演資料はこちらからダウンロード可能です。
※共同印刷のWebサイトに移動します。
5Gで普及するか、ブラウザベースのVRコマース
次に紹介されたのは、VRを使ったユーザーインターフェースをECに組み込ませたソリューション。
ここ数年、同社はゴーグルレスで直接ブラウザを見てVRショッピングができる仕組みの実用化を進めてきた。5Gが普及すれば、PCはもちろん、スマートフォンからでも快適なVRコマースを体験できる。そんな未来が目前に迫っている。
田邉氏が紹介したVRコマース用のWebサイト例が次の2つだ。
ショッピングモールをCGでゼロから構築?! スマホで楽しむショッピング
1つ目は、フルCGでゼロからバーチャルモールを構築する例。田邉氏はデモで実際のVR画面を動かしながら、利用のイメージを説明した。
イメージのバーチャルモールは、こちらから実際に体験できます。
バーチャルモールから入りたい店舗を選び、【店舗の中に入る】をクリックすると、VR店舗の中に入ることができる。【外に出る】をクリックすると、再びバーチャルモールに出ることができるなど、ショッピングモールを歩いているような感覚でショッピングを楽しむことができる。
また、現実にはあり得ないが、店内に雪を降らせるなどユーザーを楽しませるサプライズ演出も可能。「特にこだわったのは、空間のリアルさを損なわないようにすることで、画質は4,000倍まで拡大することができます」と田邉氏。画面を拡大して見てみると、たしかに路面もリアルな質感になっている。
さらに、VR空間の建物の外壁に動画を組み込み広告出稿のスペースを作ることもできれば、道路に特定メーカーの自動車を配置しWebやリアル店舗に誘引したり、バーチャルモールから広告収入を得ることもできる。モールへの出店で賃料収入を得ることもできるだろう。
いつものお店のあの棚をスマホでチェック
2つ目は、リアル店舗を持っている企業が基幹店舗の売り場を撮影したものをベースにVR店舗を作成する例。
ユーザーにとっては「いつもの店のあの棚に並んでいる商品」を自宅にいながらチェックすることができるわけだ。店頭の商品は、パッケージの文字を読み取るところまでズームして確認できてしまう。
上の図は、あるドラッグストアの店舗をVR化した時の商品棚のイメージ。
VRコマースの長年の課題として、数多くの商品の登録、棚替えに応じた更新の煩雑さがあった。しかし、同社が独自に開発した2次元コード「Full-Scan-Code」を用いれば、VR上の商品が一括で自動認識され、商品の位置特定や商品情報のリンク作業も自動かつ瞬時に行われる。
田邉氏はこの画期的なソリューションについて、実証実験段階のため、企業がVRコマースを本格導入できるよう準備を進めていると話した。
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長年の実績が活かされている、ポップアップブース
OMO施策として、期間限定で小スペースに出店する「ポップアップブース」も普及してきている。同社は、大手家電メーカーや化粧品メーカー向けの店頭什器を長年手掛けてきた実績があり、その強みを活かしたポップアップブースを提供している。
定借型の商業施設への出店はどうしてもコストがかさむが、ポップアップブースであれば、お客様の反応を見て規模の拡大を検討できるというメリットがある。
同社では、ポップアップ用に様々なタイプの什器を展開しており、中には実際の商品棚とデジタルサイネージを組み合わせたものもある。
タッチパネル式のデジタルサイネージの場合、検索機能から商品を探し、気に入ったものがあればQRコードを発行、そこからECサイトへ誘導または近隣の在庫のある店舗へ誘導するところまで無人のブースでできてしまう。タッチパネルだけでなく実際の商品サンプルも展示できる什器なら、商品が届いた後の「なんかちょっと違う」というECの弱点をなくすこともできる。
リアル店舗の一角にサイネージを設置すれば、多言語対応や簡単なFAQの提供をサイネージ上で行えるため、人材不足の問題にも役立つ。サイネージから商品をECで購入し、自宅あるいは店頭で受け取る「クリック&コレクト」の普及に一役買う存在になりそうだ。
OMO施策としてのポップアップブースの実証実験結果
田邉氏は、実証実験の成果も共有し、OMO施策の有効性を示した。
ある空港では、デジタルサイネージのポップアップブースを設置したところ、「通常のECのみの場合と比べてサイネージ経由の場合はコンバージョンが高かった」と田邉氏。
さらに京成上野駅のリニューアルオープン企画では、駅構内にキャラクター商品の無人スポットを展開。サイネージと実際の商品を組み合わせたポップアップブースを設置し、リアル店舗に誘導したところ、当該店舗への来店客数増につながったという。
また同社は、パーソナルアプローチを実現するOMOツールとして、会員管理システム「CRooM+(クルームプラス)」を提供している。これは、電子マネーやポイントシステムと連携し、チラシやキャンペーン、会員証などをスマートフォンアプリやマイページに表示させるもの。現在スーパーマーケットを中心に小売店舗で導入されており、ハウス型電子マネーのデポジット入金による再来店促進などの効果を狙っているという。
近年注目のICT接客 変なホテル ハウステンボスでの導入事例
最後に、OMO施策としては少し毛色が異なるが、人材不足の問題解決をデジタルで支援するソリューションとしてホテル業界向けに提供しているクラウドサービス「Travel Manager(トラベルマネージャー)」も紹介された。
「Travel Manager」は、顔認証によるキーレス入室と二次元コードを利用したスマートチェックインなどの機能を組み合わせたもので、顔認証によるキーレス入室は「変なホテル ハウステンボス」で採用されている。
ホテルでは、昨今のインバウンド旅行者の増加により、外国人宿泊者に対応する機会が増えており、混雑するチェックインとチェックアウトの時間帯は特に業務負荷が大きい。この問題解決にテクノロジーを活用すれば、スタッフの負担の軽減とお客様へのサービス品質の向上を共に期待できる。田邉氏によれば、ホテルの特性もあるが、「1年間の運用でクレームはほぼゼロ」だという。
同社は、「Travel Manager」の仕組みをスマート個人認証として、ホテル業界以外のオフィスビルやマンションの入退管理システムへの適用に拡大させていく計画だ。
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