CX設計に欠かせない4つの視点
それでは、CXはどのように設計していけば良いのだろうか。
まず川久保氏は、「顧客の体験について話をするとき、どうしても企業から体験を設計できる、全てを管理できると考えてしまうが、その考え方は間違っていると思う」と警告した。あくまで主体は顧客で、顧客自らがストーリーを創り、語るに足るものを用意するという姿勢が大切だという。
具体的なポイントとして、「体験の余白」「店舗のメディア化」「フィードバック」「組織」の4つから話した。
1.体験の余白
価値共創のためには「ともに作り上げていく体験の余地や余白を作ることが大切」だと、川久保氏は語る。そして、体験の余白を体現できている事例として銀座ソニーパークを挙げた。ソニー企業の代表取締役社長である永野大輔氏は「現代の消費者はとても賢いので、(企業からの押し付けではなく)余白を作り、来園者の解釈に任せることが必要」と語っているという。
2.店舗のメディア化
こちらは、店舗を持つ企業に対するアドバイス。川久保氏は『小売再生―リアル店舗はメディアになる』(プレジデント社、Doug Stephens)の中から、「店舗体験は舞台演出のようなもの」という表現を引用し、「商品が置いてあるというより、そこにきたお客様にどう楽しんでいただくかの脚本をもって店舗を作るべき」とした。
3.フィードバック
ここで重要なのは、フィードバックもとに顧客を理解し、体験の改善に活かすことだ。「企業が一方的に自分たちの価値観を押し付けない」ためにも、レビューや顧客とのやりとりの活用は非常に重要になる。すでにこちらに関しても、各企業が試行錯誤し始めているという。
4.組織
組織に関して川久保氏は「顧客と接する一部の部署がCX戦略を進めるのではなく、組織全体でCXの重要性を理解して取り組むことが大切だ」とした。川久保氏はMarkeZineが取材したレノボ・ジャパンの記事を例に出した。同社は全社でCXの考え方を導入し、全社員の評価にCXを組み込んでいるという。その理由として、「顧客満足度が高い企業ほど株価も高く、利益も増大している潮流があるから」と同社の代表取締役社長が述べている。
川久保氏は「CX向上のために投資を行うとあらゆる指標が向上することが数字から実証されている。CXは組織全体で取り組む課題」と語った。
セッションの最後に川久保氏は、自社のCXプラットフォーム「KARTE」にも触れ、製品の強みを「一人一人の顧客を徹底的に知る機能がある」と紹介した。これらの機能により、「顧客の目線から顧客中心の体験を創ることができる」という。このような機能が評価され、外部評価のITreview Grid Award 2020 Springでは4部門でLeaderを受賞したと胸を張った。
CXという言葉は、マーケティング領域では一種のバズワードとなりつつある。CXを構築するためのプラットフォームの選定を含めて、自社におけるCXのあり方を川久保氏の講演内容を通じて再考してみてはいかがだろうか。