ブランドマーケティングに起きている3つの変化
セッションの冒頭は、博報堂の生活者エクスペリエンスクリエイティブ局でエグゼクティブクリエイティブディレクター兼局長を務める茂呂氏の紹介から始まった。茂呂氏によれば、藤平氏はパーパス(ブランドの存在意義・目的)を起点としたメソッドを開発し、Twitter活用を含めたコミュニケーションプランからサービス開発まで多くのクライアントと取り組んできたという。
藤平氏も自己紹介で「戦略的にクリエイティブを作り、クリエイティブに戦略を作ることを目指している」と語っており、戦略からクリエイティブまで幅広い領域をディレクションできるクリエイターであることがわかる。
では、藤平氏が考える、戦略的かつクリエイティブなTwitter活用とは一体どのようなものなのだろうか。まず、藤平氏は「ブランドマーケティングのあり方が新型コロナウイルスの影響で大きく変化している」と、Twitter活用以前に認識しておくべきことについて解説した。
博報堂が2020年5月に生活者に行った調査によると、「ブランドは『自分たちにしかできないこと』に取り組んで欲しい」が85%、「ブランドは『具体的な行動・アクション』に投資をして欲しい」が81%など、生活者のブランドに対する期待が変わってきている。
藤平氏はこの変化を踏まえ、ブランドマーケティングにおける変化を「WHAT TO SAY(何を言うか)→WHAT TO DO(何をするか)」「NO1→ONLY1」「SOCIAL GOOD→OUR GOOD」の3つにまとめて解説した。
「1つ目は何を言うかから何をするかということへの転換を表しています。2つ目は、従来のマーケティングはいかに差別化するかが重要でしたが、最近は独自性を追求することが求められています。そして、3つ目はサステナビリティであることは当たり前で、私たち一人ひとりにとってどのような嬉しいことがあるかということにブランドは責任を持つ必要があるのです。一言でまとめるなら、ブランドらしい行動で、生活者一人ひとりの幸せを作っていくことがブランドに今求められていることと言えます」(藤平氏)
想いと愛嬌が求められるTwitter3.0の時代に
続けて、藤平氏は茂呂氏が冒頭紹介したパーパスを起点にしたメソッドである「PJMメソッド」の概要について紹介。藤平氏によれば、PJMはブランドの誠実な志を表すパーパス(PURPOSE)、そして生活者の気持ちの機微に寄り添う遊び心であるジョブ・モーメント(JOB/MOMENT)の頭文字をとったもので、この2つの掛け合わせによってコアアイデアを生み出すフレームワークになっているという。また、コアアイデアに関しては「動詞(体験)になっている方が望ましい」と同氏は語る。
「ここまでTwitterに関する解説がまったくないではないか」と思った読者の方は、安心していただきたい。というのも、ここまでの話がこれからのTwitter活用において非常に重要であるからだ。
藤平氏は、ここまでの話を踏まえて「Twitter活用は今3.0の時代に来ている。3.0においては、PJMメソッドでいう誠実な志と遊び心が重要になる」と解説した。
藤平氏によれば、Twitter活用の変遷を振り返ると3つのフェーズに分けることができる。最初のTwitter1.0の時代は、「公式アカウント」と呼ばれる企業アカウントが数多く誕生し、オウンドメディアに代わる新しいメディアとして、フォロワー数の獲得、最新情報の発信に各企業が注力していたという。
続いて登場したのが「カリスマ中の人」である。彼らのユーモアかつ機転の利いたコミュニケーション、各ブランドの小ネタの発信を通じてTwitterにおいてアカウントのプレゼンスを高める動きが起きた。藤平氏はこれをTwitter2.0の時代とした。
そして、現在突入しているTwitter3.0の時代。この時代にテーマとなっているのは「『法人格そのもの』へのエンゲージ・応援」だという。そして、企業のエンゲージメント・応援に欠かせない要素が「想い・愛嬌」である。
「これまでの最新情報や小ネタでもなく、各法人自体が持つ想いや愛嬌を発信していかないと、なかなかエンゲージメントや応援は勝ち取れないと思っております」(藤平氏)
この想いと愛嬌というのが、先述のパーパスとジョブ・モーメントに非常に共通しているという。誠実な志や遊び心をTwitterで発信する際には想い・愛嬌として、届けていくことが重要なのである。
ソフトバンク事例に学ぶ、Twitterを活用したパーパスの作り方
具体的にはどのようにしてTwitter上で想い・愛嬌を伝えていけばよいのか。藤平氏はソフトバンクと9人組ガールズグループのNiziUがコラボレーションしたプロジェクトである「NiziU LAB」をケーススタディに、Twitterをヒントに想いを作り、愛嬌を持って伝えていく方法を紹介した。
当初想定されていたのは、ソフトバンクのxRコンテンツ配信サービス「5G LAB」でのNiziUを起用したコンテンツ制作だった。しかし、藤平氏がクリエイティブディレクターとして最初に考えたのは、3つの懸念だった。
「1つ目はNiziU自体が大ブレイクして情報・バラエティ・音楽番組などに日々露出していた点。2つ目は既に5G LABではアイドルやIPに関するコンテンツが多数ラインナップされていた点。そして3つ目は、広告のキャスティングとしてはやや後発だった点。本当にコンテンツ制作だけでいいのかも含めて、これらの課題を解決するアイデアが必要でした」(藤平氏)
この3つも念頭に、パーパス、ジョブ/モーメントについて、藤平氏のチームはプランニングをスタート。まず、プロジェクトとしてどんな志を持つのかについて、本音が表れる「2ndクエリ」を駆使してソフトバンクとNiziUについて、Twitter上でリサーチを行い決めていったという。
「たとえば、『ソフトバンク+最高』『NiziU+楽しみ』のような、2つ目の検索ワードの組み合わせを変えてツイートを検索していくと、本音となるキーワードが浮かび上がってきます」(藤平氏)
そして、リサーチの結果見えてきたのが、ソフトバンクが提供するWOWへの「期待感」、そしてコロナ禍も相まって起こっているNiziUに対する「渇望感」だった。そして、藤平氏は「期待感」と「渇望感」を掛け合わせて、「NiziUとWithU(NiziUファンの総称)の“関係”を応援できるプロジェクトにする」というパーパスを設定した。
このパーパスを起点に、NiziU初のxRプラットフォーム「NiziU LAB」というコアアイデアを生み出し、タグライン「さぁ、NiziUを楽しみつくそう。」をはじめ、テレビCM・xRコンテンツ・キャンペーンなど、企画の全体像を設計していった。
コアファンのTwitterリサーチでジョブ/モーメントを探る
続いて、藤平氏はジョブ/モーメントの視点から、愛嬌をもって、どのようにこのプロジェクトを盛り上げてきたか解説した。
「NiziUとWithUの関係を応援する」というパーパスのもと、どのように遊び心を発信するのか。これに対し、藤平氏はNiziUに限らずディープなファンの発信内容と会話内容の徹底リサーチをTwitter上で行った。アイドルやアーティスト、スポーツチームなどのコアファンが普段どのような会話しているかを探ることで、何かにハマる人の行動原理をつかもうとした。
この結果、見えてきたのは「感謝」「ツッコみ」「認め合い」というキーワード。アイドルなどの各種情報を1人で集めるのは難しい。その中で「こんなニュースがあったよ」などとお互いが情報をシェアし合い、認め合い感謝する。そして、アイドルに対してファンが、もしくはファン同士がツッコんで盛り上がるカルチャーがあることもわかった。
また、NiziUならではのモーメントも見えてきた。それは、20日や20時など、NiziUの名前にあやかって盛り上がる文化。そのため、藤平氏は当初予定していた日付から2月10日(≒NiziU LABの日)にローンチ日を変更することを、ソフトバンクと一緒に決定した。
そして、これらのジョブやモーメントの探索から、藤平氏は「ソフトバンク=初心者WithU」というTwitterでの情報発信におけるキャラを設定した。
「2月10日、20時というモーメントを活かしつつ、WithUの皆さんの文化に初心者アカウントとしてお邪魔させていただく。そのような関わり方でNiziU LABを盛り上げていきたいと考えていました」(藤平氏)
パーパスとジョブ/モーメントを反映したTwitter運用
藤平氏は、「NiziUとWithUの関係を応援する」というパーパス、「ソフトバンク=初心者WithU」というジョブ・モーメントを踏まえたキャラ設定、Twitter上でどのような取り組みを行っていたのかも明らかにした。
まず、ソフトバンクのロゴにNiziUのメンバーが乗っているキービジュアルをTwitterのアイコンに期間限定で設定。さらに、NiziU LABオリジナルの絵文字(虹の絵文字+スマホの絵文字)も決めることで、日々の情報発信と組み合わせて、会話のきっかけを生み出していた。
また、NiziU LABの情報発信(≒広告)にとどまらず、0時ピッタリにメンバーの誕生日をお祝いしたり、ツイートに誤りがあったらきちんと訂正したり、Twitter上のリアクションを見ながらファンと対話したりと、丁寧にTwitterで発信を行ってきた。
「WithU初心者のアカウントであることを念頭に置いて25の投稿を行った結果、24.4万いいね、そしてフォロワー数も2万増加しました。そして、これだけの成果が出たのも、Twitterの世界に深くダイブして、ジョブやモーメントを研究し、語尾から絵文字まであらゆるものにこだわれたからだと考えています」(藤平氏)
今回のNiziU LABの取り組みは、ソフトバンクがこれまでに行ってきたキャンペーンの中でも、過去有数のレベルの成果につながったという。
Twitterを使って想いや愛嬌をオープンにしよう
そして、藤平氏はセッションのまとめとして、マーケティングにおけるTwitterのこれからの役割を明らかにした。
「Twitterは何かを発信してバズらせるためのメディアではなく、マーケティングとクリエイティブを一気通貫させる接着剤のような役割を果たすと思っています」(藤平氏)
そして、セッションが終わった後、茂呂氏から2つの質問が藤平氏に投げかけられた。1つ目は「パーパスをマーケティングに活かすために、何から始めればいいのか」という質問だ。これに対し藤平氏は以下のように解説した。
「パーパスとは、そのブランドらしさと社会の期待に応えることの掛け算だと思っています。そのために、先述した2ndクエリでインサイトを探るエクササイズを30分でもやることをおすすめします。Twitterだからこそ得られる生々しい声はパーパスを考える上で非常に参考になります」(藤平氏)
2つ目の質問は「Twitterのパーパスとは何だと思うか」という内容。これに藤平氏は「Twitter3.0に関する説明が、Twitterのパーパスを表している」とし、今後のTwitter活用のポイントを語ってセッションを締めくくった。
「各企業・ブランドにパーソナリティやキャラクターがあると思いますが、通常の情報発信がオフィシャルなものになって、生活者との心の距離が遠くなってブランドのキャラクターがわかりにくくなっているのが現状です。そのため、Twitterを活用して、なるべく等身大に想いや愛嬌をオープンにしていけると、Twitterでブランドがもっとよく見えてくると思っています」(藤平氏)