記録的な伸びを見せているライブストリーミング市場
――はじめに、昨今のライブストリーミング市場の成長について、状況を教えて下さい。
2019年から2020年の1年間で、世界でのライブストリーミングのコンテンツは156億時間から279億時間に増え、78.5%の成長を遂げています。これは、世界的なロックダウンにより、ライブストリーミングコンテンツへのニーズが加速したことによる記録的な数字です。コミュニティに参加して、お互いに繋がり、交流するというライブストリーミングの価値が前面に押し出された結果であると捉えています。
また、Grand View Research社によると、APACのライブストリーミング市場規模は、2027年までに930億米ドル以上に成長すると予測されています。その中でも、ゲームがライブストリーミングの成長を大きく牽引しており、すでに音楽と映画を合わせた市場よりも巨大な世界的産業となっているのです。APACは世界のゲーム市場の約半分を占めており、日本は中国に次いで第2位の市場規模を誇っています。
――そうした流れの中で、ライブストリーミングの世界的リーダーであるTwitchの成長が著しいのは明白ですが、現在どのような状況でしょうか?
2011年に誕生して以来、Twitchは大規模な成長を遂げてきました。2020年の視聴者数は2011年の86倍以上になっており、視聴時間も670億時間を超えています。これは全人類が1人あたり8時間以上の動画を視聴するのに十分な量です。この視聴時間の背景には、巨大なストリーマーのコミュニティがあり、2020年だけで2,600万以上のチャンネルが公開されています。
Twitchとは
Amazonが提供する世界有数のインタラクティブ・ライブ・ストリーミング・サービス。多種多様なクリエイターが、ゲーム、スポーツ、エンターテインメント、音楽など多様なコンテンツを日々配信している。
――海外では、マーケティングコミュニケーションの場として、ライブストリーミングへの注目がすでに高まっているのでしょうか?
そうですね。ここまでのお話しでおわかりいただけたと思いますが、ライブストリーミング業界の成長は著しく、今後も市場の拡大が見込まれています。この勢いを新たなマーケティングの機会と捉え、多くのブランドがTwitchとの提携を開始しています。ライブストリーミングをマーケティングチャネルとして活用することに関しては、北米が最も進んでいる状況ですが、APAC含め他の地域でもライブストリーミングの可能性に多くのブランドが気づき始めている状況です。
人々がライブストリーミングに求めている体験価値
――Amazonプライムをはじめとする動画配信サービスやテレビ、ラジオなどのいずれにおいても「いつでも見られる」というニーズが強まっているように感じます。そのような中で、「ライブ配信」を視聴するユーザーは、どのような体験価値を求めているのでしょうか?
たしかに、視聴習慣の変化は、VODの増加や常時視聴できる昨今のサービスに反映されています。一方で、ライブストリーミングの驚異的な成長は、視聴体験に求める人々の期待が継続的に進化していることを示していると考えています。視聴者は、もはや受動的な視聴体験を求めていません。視聴者が求めているのは、自分のエンターテインメントを形にできる、寄り添ったインタラクティブな体験なのです。
そうなると、コンテンツは「見逃すと損をする」ものとなります。ライブであり、刹那的である。そして、視聴者がいることで形になるライブストリーミングは、視聴者によってコントロールされるカスタムテレビチャンネルのようなものです。
――そうしたニーズがある中で、ユーザーはどのようにTwitchを楽しんでいるのでしょうか?
Twitchは、単にストリーマーが何かをやっている様子を見るという一方向的なエンターテインメントではありません。誰もがリアルタイムに役割を果たすことができる、インタラクティブな体験を提供するマルチプレイヤーエンターテインメントです。ユーザーは、自身が興味関心のある分野で優れたクリエイターや面白いストリーマーを発見して、そういった体験を楽しんでいます。
Twitch最大の特徴は? 押さえておきたい潮流
――ここで改めて、Twitchのサービスについて特徴をご紹介いただけますか?
Twitchはゲーム、スポーツ、エンターテインメント、音楽などのコンテンツを提供する世界有数のインタラクティブ・ライブ・ストリーミング・サービスです。多様なコンテンツ、リアルタイムのインタラクション、強力なコミュニティの組み合わせで成り立っている点が最大の特徴です。
中でも、コミュニティは非常にユニークで、常時250万人以上の人々がお気に入りのストリーマーのコンテンツを見たり、新しいストリーマーを発見したりしています。多種多様なコンテンツとストリーマーで構成されている、巨大で強力なコミュニティとなっています。
――ここまでのお話しから、コミュニティの存在がTwitch全体を盛り上げている印象を受けました。
そうですね。APACでもTwitchの視聴時間は力強いペースで伸びており、2021年第1四半期には前年同期比51%の伸びを記録しています。このコンテンツ需要に応えているのが、増加しているストリーマーの大規模コミュニティです。APACにおけるアクティブなアフィリエイトとパートナーの総数は、2019年第1四半期から2021年第1四半期までの過去2年間で2.5倍に増加しています。
――日本にはどのようなオーディエンスがいるのでしょうか?
視聴者を国別に分類していませんが、日本のコミュニティも世界的な傾向と一致しており、2020年にはかつてないほどの成長を遂げたと言えます。この成長は、既存のユーザーだけでなく、新規のユーザーからもたらされました。また、Twitchの視聴者は多くの方が思っているよりも年齢層が高く、20~35歳のコミュニティが大半を占めています。
ゲームをDNAとしながらも進んできたコンテンツの多様化
――Twitchではどのようなコンテンツが人気があるのですか?
前提として、TwitchのDNAにはゲームが組み込まれています。APAC全域に強力なゲームコミュニティがあることを我々は誇りに思っています。そうは言っても、今では非常にコンテンツの内容が多様化しており、誰もが楽しめるプラットフォームになっています。実際、ゲーム以外のコンテンツが、過去3年で4倍に増加しているのです。ゲーム以外で大別すると、次の4つのカテゴリがあります。
1.Just Chatting(雑談)
ストリーミング開始時のウォーミングアップ、Q&A、ライブブログなど、ストリーマーと視聴者の間で交わされる会話。Twitchの非ゲームカテゴリの中で最も人気がある。
2.音楽・舞台芸術
音楽ライブやフェスティバルの開催のほか、ダンス、歌、作曲、楽器演奏などを楽しむコンテンツカテゴリ。
3.アート
絵画、イラスト、アニメーション、コミック、写真など、様々な手法や技術を駆使して創作活動を行っているすべてのアーティストのためのカテゴリ。
4.スポーツ&フィットネス
NFLやF1などのプロ部門のチームスポーツから、初心者や1人でのトレーニングまで、あらゆる人がスポーツとフィットネスを楽しむコンテンツカテゴリ。
押さえておきたい、Twitch広告の基本知識
――Twitchをマーケティングチャネルとして活用する際、どのような方法がありますか?
Twitch内での広告運用に加え、ストリーマーと連携してキャンペーンを開催したり、Twitch主催のイベントへ協賛いただいたり、ゲームパブリッシャーと提携したりと様々な方法があります。
広告に関しては、ゲームのジャンルや視聴デバイス、地理的な地域などを基にしたコンテクストターゲティングのほか、過去の視聴行動に基づく行動ターゲティングも提供しており、ブランドとマッチするTwitchユーザーへアプローチすることが可能です。今回は、主な広告仕様として次の4種類をご紹介します。
【1】プレミアムインストリーム動画広告
PCとスマートデバイス、テレビ用アプリ(OTT)に表示する基本的なインストリーム動画広告。動画広告はフルスクリーンかつノンスキップの仕様となっている。視聴開始率と完全視聴率が高い点が特徴で、予約型と運用型の両方での出稿が可能。
【2】ディスプレイ広告(3種類)
1.ホームページヘッドライナー:Twitchのトップページをジャック。訪問するPCユーザーのファーストビューで商品やキャンペーンを訴求できる。
2.レクタングル:ユーザーが新しいストリーマーやゲームを探す時に使用する「コンテンツを探す」というディレクトリーページに掲載されるバナー広告。
3.リーダーボード:ユーザーが新しいストリーマーやゲームを探す時に使用する「コンテンツを探す」というディレクトリーページに掲載されるバナー広告。
【3】運用型広告(2種類)
1.Amazon DSP:Amazon DSPを介し、オーディエンスターゲティング機能を用いて、Twitch内の適切なユーザーに広告を配信する。Amazon DSPのすべての視聴者にアクセスでき、ボックスにチェックを入れるだけでTwitchへの配信を選択できる。
2.サードパーティDSP:広告主の利用している第三者のDSPと繋ぎ、Twitchのアドサーバーで直接買い付けることができる。
【4】インフルエンサー&カスタム配信
ストリーマーとコラボレーションして、キャンペーン企画を実施することも可能。TwitchにはBPS(Brand Partnership Studio)と呼ばれる社内のクリエイティブチームがあり、BPSのサポートのもと、ブランドとTwitch視聴者とのエンゲージメントを高めるためのクリエイティブを企画することもできる。
ライブストリーミングをマーケで取り入れる際の3つのポイント
――視聴者の心を掴むために重要なポイントを教えて下さい。
まずは、Twitchやコミュニティのカルチャーに忠実であることです。オーディエンスを理解していることを示し、真摯に語り掛ける姿勢が重要です。ブランドに適した要素に焦点を当て、ブランドボイスを広げすぎないように注意しましょう。
次に、コミュニティに投資をするという意識を持つことが大切です。コミュニティは一夜にして形成されるものではありません。コミュニティやインフルエンサーの体験に価値を与えることで、信頼を得て、形成されていきます。インフルエンサーとコラボレーションする際は、活発なライブコミュニティと、コミュニティ内におけるインフルエンサーの存在を尊重することが大事です。
最後に、ライブならではの“リアル”を受け入れる姿勢も必要になります。Twitchのコンテンツは、リアルタイムで、台本もない、よりリアルに近いコミュニケーションから生まれます。マーケティングでTwitchを取り入れる際は、ぜひこのライブ感を受け入れてください。
――これから日本のマーケティング業界で、どのようにライブストリーミングの活用が広がっていくことを期待されていますか?
先に述べたように、APACのライブストリーミング市場規模は、2027年までに930億米ドル以上の成長が予測されています。このような成長の兆しを受けて、日本だけでなくAPAC全体でのライブストリーミングのさらなる成長が期待されています。日本では、ライブストリーミングの楽しみ方が多様化しており、ライブストリーミングはより身近なものになっていくと思います。
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