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バンダイナムコとColorful Paletteに聞く!アプリゲームマーケティングの新定石

 2022年10月、AdjustとLiftofftは独自調査の結果をまとめた「モバイルアプリトレンド 2022:日本版」をリリース。リリースにともない「Japan App Summit 2022」を開催した。「アプリゲームマーケティングの『新定石』〜トップマーケターが共有する、今理解すべき本当のマーケティングトレンド〜」と題されたセッションには、2022年のアプリゲーム市場を大きく盛り上げているバンダイナムコエンターテインメントとColorful Paletteの2社が登壇。長年モバイル業界に携わるMOTTOの佐藤基氏がモデレーターを務め、アプリゲームでヒット作を生み出すための新定石を共有した。本稿ではその内容をレポートする。

売れるものをつくるための「WHO」と「WHAT」

佐藤(MOTTO):「アプリゲームマーケティングの新定石〜トップマーケターが共有する、今理解すべき本当のマーケティングトレンド〜」というテーマで議論を進めて参ります。モデレーターを務める佐藤です。普段はアプリゲームのマーケティング支援を行っています。

MOTTO 代表取締役 佐藤基氏
MOTTO 代表取締役 佐藤基氏

宮本(バンダイナムコ):私は元々バンダイネットワークスで、フィーチャー・フォン用コンテンツの企画運営をしばらく担当していました。その後バンダイに出向し、男児向けのおもちゃの開発を経てバンダイナムコエンターテインメントにジョインしました。以来ずっとアプリゲームに携わっています。現在は「開発マーケティング」という職掌で「より売れるものづくり」の体系化や仕組み化を推進する立場です。

バンダイナムコエンターテインメント CX戦略室 データマーケティング部 ゼネラルマネージャー 宮本奈津子氏
バンダイナムコエンターテインメント CX戦略室 データマーケティング部 ゼネラルマネージャー 宮本奈津子氏

近藤(Colorful Palette):僕は「プロジェクトセカイ」というアプリゲームのプロデューサー兼ディレクターを務めています。セッションのタイトルに「トップマーケター」と冠されていますが、僕はマーケターではありません。あくまでプロデューサーとしてマーケティング活動に携わっています。

Colorful Palette 代表取締役社長 近藤裕⼀郎氏
Colorful Palette 代表取締役社長 近藤裕⼀郎氏

佐藤(MOTTO):最初の議題は「ヒットを生み出すための新定石」です。ご自身の考える新定石を二つずつ考えて来ていただきました。まずは宮本さんから教えてください。

宮本(バンダイナムコ):私が考える新定石の一つ目は「売れるものをつくる」です。当社ではマンガやアニメなどのIP(キャラクターなどの知的財産)とコラボしたタイトルを多く展開しています。売れるものをつくるにあたっては「そもそもお客様はなぜそのIPが好きなのか」「そのIPのどんなところに魅力を感じているのか」という原点に立ち戻り、企画の初期段階で「WHO」と「WHAT」をクリアに描くことが重要なんです。

 WHOとWHATを詰める際は、プロデューサーが頭の中に思い描いているイメージを共有してもらい、一緒に言語化します。言語化したものを今度はビジュアル化して、関係者全員が見てわかる形に落とし込むんです。その上でターゲットを定めるステップに進むのですが、市場調査はそれなりに時間を要します。特に海外の国や地域を調査の範囲に含めるとなるとなおさらです。仮説をスピーディーに検証するため、当社では必要に応じて社内のIPファンを探してインタビューする方法も採っています。

KPI予測で事業のリスクを正しく把握する

近藤(Colorful Palette):ファンの声を集めるプロセスは非常に大事ですよね。一方で、意見をプロデューサーが素直に聞き入れるのかどうかが気になります。

宮本(バンダイナムコ):「こんなゲームが欲しい」という主観は別として、ファンの行動や思考回路は貴重な参考情報として客観的に受け止めていますね。

近藤(Colorful Palette):ゲームのプロデューサーやディレクターは顧客に対して真摯な方が多い印象です。市場調査の結果だけを伝えてもなかなか受け入れてもらえないため、「あなたが大事にしている顧客がこう言っていますよ」というアプローチは確かに大切だと感じます。

佐藤(MOTTO):「売れるもの」についてもう少し深掘りさせてください。プロダクトが売れるかどうかは前もって判断できるものなのでしょうか。できるとしたら、お二人はどのように判断されていますか。

近藤(Colorful Palette):正直確信はできないです。企画を生み出す際は、当然戦略を立てますし調査もします。市場規模から事業目標の到達が見込めて、僕たち自身も「面白いものができる」と思えた時に企画が始まります。ただ、ゲームをつくる過程は「もうダメだ」と「すごいものができそうだ」の繰り返しです。

 「これはいけるかもしれない」と実感できるタイミングは後期。ゲームとしてある程度形になり、自分がプレイして楽しめるようになった時と、ユーザーさんの反応が自分の想定を上回った時です。それでも、100%の自信を持って「売れる」と判断することはないですね。

宮本(バンダイナムコ):当社では、グループ会社のバンダイナムコネクサスとともに「KPI予測」という取り組みを進めています。過去の実績と今の市場のトレンドを掛け合わせて分析を行い、ダウンロード数やお客様のLTVをある程度予測値として出すものです。予測の目的は売れるかどうかを判断することではなく、事業のリスクを正しく把握することにあります。

佐藤(MOTTO):作り手の主観を信じる近藤さんのアプローチと、データドリブンに予測する宮本さんのアプローチが対照的で興味深いです。

マーケター必見!ベンチマークとインサイトを提供するレポート「モバイルアプリトレンド 2022:日本版」

ゲーム、Eコマース、フィンテック、マッチングアプリ、コネクテッドテレビに関する詳細かつ実用的な分析調査の結果を解説しています。レポートはAdjustのWebサイトからダウンロードしてご確認ください。

ゲーマーの心を真に理解できるのはゲーマー

佐藤(MOTTO):続いて、近藤さんが考える「ヒットを生み出すための新定石」を教えてください。

近藤(Colorful Palette):「真の顧客理解」です。新定石というより、ずっと重要視され続けている鉄板とも言えます。中途半端に理解した“ふり”をするのではなく、徹底的に取り組むことが何よりも大事ですし、そこまでできている人はあまりいません。

 定量調査やN1分析を実施して、数十名のユーザーに話を聞けばそれっぽい答えは出てきます。ただ、たった1時間のインタビューで「なぜそのゲームに熱狂しているのか」「ゲームのどこに強い魅力を感じているのか」を理解することはできない気がします。

 ユーザーは徹底的にゲームをやり込んでいるので、たとえ自身がゲーマーでなくてもアプリゲーム領域でビジネスに挑戦するのであれば、プロとして同じレベルにならなければいけないと思っています。

 僕は根っからのゲーマーですが、チームメンバーも多くは何かしらのコンテンツに没頭してきた当事者が構成しています。毎日ゲームやアニメに何時間も没頭してきた人たちとの差を、一から勉強して埋めるのは非常に難しいからです。

佐藤(MOTTO):個人ではなくチーム単位で徹底的な顧客理解に取り組むハードルは相当高いですが、Colorful Paletteさんの場合はそれができる前提でチームメンバーを採用しているからスムーズに回っているわけですね。

近藤(Colorful Palette):そうなんです。マーケターの知人と話していても「結局人事から変えないとダメだよね」という話に帰着します。本当に価値のあるマーケティング活動をするためには、チームの力が必要です。チームで活動の価値を高めたいのであれば、「そこに誰を入れるのか」「どういう役割を担ってもらうのか」から考えないと、徹底できない気がします。

ヒットの可能性をリリース前に把握できるかが鍵

宮本(バンダイナムコ):ちなみに「コンテンツに没頭する人」の具体的な定義は設けているんですか。

近藤(Colorful Palette):「アニメやサブカルが好きかどうか」という物差しではなく「何かを突き詰めて人生を消費した経験があるかどうか」を見ています。実利の先にある「好き」に対して常軌を逸した経験がある人だと、僕たちがお客様としている方々の気持ちを理解しやすいからです。

宮本(バンダイナムコ):当社の場合も、過去にIPにハマった原体験を持つメンバーは多いです。大事なのは、その原体験をきちんと思い出して、言葉にする力ではないでしょうか。何かに熱狂したことがある人の発想は、やはり強いと思います。

佐藤(MOTTO):今お二人にうかがった「売れるものをつくる」「真の顧客理解」という新定石はリンクしていますよね。顧客を真に理解できていればこそ、売れるものがわかる。この本質は恐らくゲーム以外のジャンルにもあてはまると思います。続いて宮本さん、二つ目の新定石を教えてください。

宮本(バンダイナムコ):「出す前にわかる」です。「出す前にわかりたい」という表現の方が正しいかもしれません。数多くのIPとコラボしたタイトルを提供する中で、実績をしっかり見ることが重要だと考えています。

 たとえば、同じIPで過去に2作のタイトルを提供している場合、3作目を出す時に最も参考となるKPIは過去の実績です。プラスアルファで、そのIPのマーケットトレンドをチェックし、今の盛り上がりと今後盛り上がる可能性を加味してダウンロード数とLTVを予測しています。

 KPI予測自体は約4年前から取り組んでいますが、ようやく予測値と実績を比較できるようになってきました。両者のずれはあまり見られず、予測精度の高さを社内で証明できています。

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Adjust「Datascape」に新たに追加されたアシスト管理画面では、マーケティングキャンペーンのファネル全体を確認することができます。詳細はAdjustのWebサイトからお問い合わせください。また、アシスト管理画面の無料トライアルをご希望の方はjapan-sales@adjust.comまでお気軽にお申し込みください。

離反していくユーザーにばかり目を向けていないか

佐藤(MOTTO):アプリゲームジャンルではヒット作が多数生まれている一方、うまく軌道に乗らなかったタイトルは早ければリリースから1ヵ月でサービスが終了してしまいます。要は、PDCAを回す暇もなく失敗が決まってしまうわけです。宮本さんの新定石の背景には「出してみないとわからない」では済まないゲームジャンルの特性があるのかもしれません。

宮本(バンダイナムコ):データをリアルタイムに追える点もアプリゲームジャンルの特性であり、強みでもあると思います。当社ではアプリゲーム事業のほかに家庭用ゲームなどの別事業も展開しているのですが、アプリゲーム事業で取り組んでいるKPI予測に別事業でもトライしようとしているところです。

佐藤(MOTTO):近藤さんの二つ目の新定石も教えていただけますか。

近藤(Colorful Palette):「ロイヤルユーザーファースト」です。一般ユーザーよりコアファンの売上が占める割合の方が圧倒的に大きいことは、今さら僕が言うまでもありません。ロイヤルユーザーの方々に、よりロイヤルになってもらう方法を考える作業に、費用や思考コスト、人的リソースを割く必要があります。

 言うのは簡単ですが、実行するのはやはり難しいです。ロイヤルユーザー以外は「離反しやすいユーザー」と言えます。人はどうしても恐怖心が勝って、自分が手塩にかけて育てたプロダクトやブランドから離れていく人たちにばかり意識が向いてしまうんです。

 目の前に離れていく人がいても「僕たちが大事にしなきゃいけないのはロイヤルユーザーだ」と強い意志を持ち、その意思をチームに伝播していくことは大変です。

ユーザーの「面白い」が最強の広告

宮本(バンダイナムコ):ロイヤルユーザーをどう特定しているのかが気に知りたいです。たとえば、ファンミーティングにいらっしゃるお客様や、大会を実施してその上位にいらっしゃるお客様のことなどでしょうか。

近藤(Colorful Palette):カテゴライズは必要なので、最終的にはKPIに落とし込むのですが、究極のロイヤルユーザーは自社のサービスやプロダクトが本当に好きで、長期的にお金を払ってくれる人ですよね。お金を払っていただけないと、僕たちもサービスを継続できません。

 ただ、ロイヤルユーザーの中にも様々な性質を持つ方がいます。たとえお金を払ってゲームを長時間プレイしてくれていても、コミュニティに悪影響を及ぼすユーザーを僕はロイヤルユーザーと定義できないと思います。そういうイレギュラーはありつつ、大事なのは相手と対峙してすこし話しただけで「この人はロイヤルユーザーだ」とわかるようになるまでイメージを固めることです。

佐藤(MOTTO):ロイヤルユーザーファーストの方針でありながら、なぜプロジェクトセカイは新規ユーザーが非常に多いのでしょうか。

近藤(Colorful Palette):前提として、プロジェクトセカイのお客様の多くはデジタルネイティブの若い世代です。ネットリテラシーの高い若年層は、自分がシンパシーを感じる人や友人のコメントをきっかけに購買行動へと至ります。つまり「面白い」「すごい」と言ってもらうことが一番の広告になるわけです。

 ゲームを提供する人たちも、自分たちが顧客として消費活動する際は、広告より口コミを信用していると思います。しかしながら、いざ自分たちがサービスを提供する側に回ると、その考え方が抜け落ちてしまう。「面白い」「すごい」と言ってもらうための仕掛けはありません。そう思ってもらえるプロダクトをつくるのみです。

佐藤(MOTTO):今日紹介いただいた四つの新定石は、マーケティングの本質でありながら“ちゃんと”実行するのは相当大変だと理解しました。アプリゲームのマーケターはもちろん、それ以外のマーケターの方にも今日の内容を参考にしていただけると嬉しいです。お二人とも、貴重なお話をありがとうございました。

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この記事の著者

MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2022/12/19 10:30 https://markezine.jp/article/detail/40668