避けられない、「Cookieレスな世界」の到来
セッションの冒頭で杉山氏は、Cookie規制の今までの流れについて触れた。EUで施行されたGDPRや2022年ほどから日本でも動き始めた改正個人情報保護法など「各国でオンライン上の個人情報をどうやって保護していくかという法整備が活発だ」と指摘。
直近では、AppleやGoogleなどのメガプラットフォーマーも、個人情報の活用方法について見直しを図っている。またSimilarWebの調べによると、現在、日本のユーザーが使うブラウザは、ChromeとSafariの2強となっている。だからこそ、GoogleとAppleの個人情報の取り扱い動向が非常に重要な論点だ。
特にAppleは、2017年と早い段階から個人情報保護に対して取り組んでおり、様々なデータの保持場所に対して規制を入れ始めた。以降2018年・2019年と、加速度的に規制の範囲を広げてきている。
2024年において注目すべきポイントはGoogleの動向だ。段階的に3rd party Cookieを使えなくし、2024年下半期には完了する予定であったが、2024年4月23日に延期を発表。実際、2024年1月4日からCookieの廃止が一部始まっている。
「今後、どこまでの規制になるかはまだ読めない部分ですが、全てが規制対象になる想定でチェックしておいた方がいいでしょう」(杉山氏)
Appleの規制に関しては、アドテクノロジーベンダーがデータの保持場所を変更し使える計測環境を構築。それに対しAppleがどんどん規制をかける、という連鎖が続いている。「おそらく、かなりの部分は規制され、使えなくなると思います」と杉山氏は予測した。
合わせて両社は、Cookie計測に代わる新しい計測手法を用意。AppleはPrivate Click Measurement(PCM)、 GoogleはPrivacy Sandboxという、広告クリックアトリビューション技術を開発している。
「このようにメガプラットフォーマーの2社は、Cookieがなくても問題ない状況を目指す動きが見えます。いずれにせよCookieレスな世界の到来は不可避でしょう」(杉山氏)
74%のCVR、2.4倍の最適化効果を失う危機
Cookie規制によって、企業に対しどのような影響が出てくるのだろうか。一般的には、「リターゲティングに活用するマーク数の減少によるリターゲティング広告の悪化」「コンバージョンの計測欠損」「機械学習精度の低下」といわれている。実際、Meta広告においてはどのような影響が出てくるのだろうか。Metaのボーウェン氏は、具体的な数値を用いて解説した。
「現在のMetaピクセルを用いたCVイベントで最適化した場合、広告のクリック最適化と比較して、CVRは74%。CPA効率は 2.4倍の改善があります。Cookie規制が進み、Metaピクセルでシグナルが取得できなければ、これらの効果が得られなくなる可能性が高く、かなり深刻な状況になると見込まれます」(ボーウェン氏)
そこでサイバーエースは、Metaと協業することで、このCookie規制によるシグナルの欠損と効率悪化について、2つの打ち手を用意した。1つは、シグナル取得環境の補完と強化。もう1つは3rd partyデータの活用だ。
シグナル欠損への対策としてMeta社は、コンバージョンAPI(以下、CAPI)を提供。クライアントが所有するマーケティングデータとシステムを直接つなぎ、今までWeb上で送信されていたデータをサーバートゥサーバーでそのまま送信してくる仕組みだ。
「CAPIでは広告ターゲットの最適化や顧客獲得単価の削減、CVの計測ができます。Metaピクセルよりもブラウザ技術への依存度が低いのも特徴です」(ボーウェン氏)
CAPIを導入するならCAPIゲートウェイが手軽
セッションの中盤では、Meta社が提供するコンバージョンAPI(以下、CAPI)のベネフィットについて解説した。
CAPIを導入することで、広告パフォーマンスの向上、効果測定の機能の向上が見込める。この2点についてボーウェン氏は「弊社のグローバルデータでは、CAPIの実装後には平均13%の広告パフォーマンス向上が見られ、平均で19%計測精度が上がっている」と話した。加えて、プライバシーを尊重するための革新的な機能もあるという。
CAPIを活用するために、連携する方法は3つある。1つ目は、Meta社が開発したCAPIゲートウェイでの連携だ。Metaと直接イベントを共有できるクラウドサーバーとMetaピクセルとを接続することで連携することができる。
2つ目は、広告主が自らプログラミングを開発・カスタマイズを行い、直接連携する方法。そして3つ目は、Shopify、Googleタグマネージャー、Salesforceなど、50を超えるMetaのビジネスパートナーからサポートを受け、パートナーのソリューションを活用した連携方法だ。
方法としては前述の3つがあるものの、「弊社としては1つ目のCAPIゲートウェイでの連携をお勧めします」とボーウェン氏は追加した。
そのメリットはまず、圧倒的なスピードがある。実装自体はおよそ1時間以内で完結。しかも月々の基本料金はサーバーコストのみなため、コストが安く済む。また技術的な専門知識が不要だ。さらに同ツールはMeta社が開発しているので、アップデートがあった際には自動で反映。メンテナンスコストが削減できる。
CAPIの導入障壁を打破する一手とは
CAPIゲートウェイでの導入は、2種類の導入方法がある。1つは単一アカウントで、顧客単一で実装し、同一のビジネスIDに属するMetaピクセルの1つまたは複数のインスタンスに対応する。
もう1つは、複数アカウントで、こちらは代理店向けのもの。代理店が1つのアカウントを実装すると、その代理店が担当するクライアントの全てにCAPIゲートウェイが導入できる仕組みだ。
サイバーエージェントでは、CAPIを導入する方法として、代理店専用の新機能「コンバージョンAPI ゲートウェイ マルチプル アカウント(以下、CAPIマルチプルアカウント)を導入している。その理由に関して杉山氏は、次のように話した。
「CAPIの導入時には、エンジニアリソースなどの導入障壁があると想定していました。弊社の担当するクライアント様にもそのような企業様が多くいらっしゃったからです。そこで今回、このCAPIマルチプルアカウントを用意し、クライアント様が簡単に導入できるような仕組みにしました」(杉山氏)
同社はCAPIがリリースした2020年末から、「データソリューションG」と呼ばれる専門組織を結成。かなり早いタイミングから取り組んでいる。サイバーエージェントグループ全体としてCAPIの導入支援をMetaと協業で推進してきた。実際にサイバーエースでも20件程度のCAPIの導入実績がすでにある。
杉山氏は、サイバーエージェントのパートナー企業であるファストノットの事例を紹介した。同社はレギンスや着圧スリムタイツブランドのBELMISEを運営する会社だ。
広告実施手順としてまず、元々のマスターピクセルを、Pixel Forkingにかけてコピーを2つ作成。片方は何もしていない状態で一般的なシグナルデータを送る。もう1 つは、今回導入するCAPI ゲートウェイのデータを加えた状態にして、A/B テスト を実施した。
結果、CPAは約30%超と大きく改善した。また、購入数も1.4倍増加。CPMに関しても、導入前より安くなり、機械学習がかなりワークしたと杉山氏は分析。特筆すべき点として、各年齢セグメント全てでCPMが改善していたことを挙げた。
CAPIのその他のメリット
ボーウェン氏は「コンバージョンAPIは導入して終わりではありません」と話し、4つの例を挙げた。
1つ目は、オフラインストアのCVデータの可視化だ。オフラインセールスのデータは基本的にサーバーにしか存在していないが、CAPIを導入することでサーバーから送信できる。広告効果の可視化ができるようになり、実店舗を持つクライアントにとっては効果的な手段といえるだろう。
2つ目は、ディープファネルの最適化だ。サイト上で発生しないイベントも、基本的にサーバー内で管理しているため、CAPIを実装すると最適化が可能となりKPI達成に貢献できる。
3つ目は、アプリに関して。アプリのキャンペーンは、計測の仕様上、基本的にはAd to APPでしか配信ができない。しかしCAPI を実装することでAd to Web to APPの導線でWeb広告としてキャンペーンの配信・計測・最適化が可能だ。
4つ目は、LTVの最適化だ。ユーザーのLTVは基本的にサーバーにしか存在しておらず、計算も時間がかかることが多い。CAPIを導入すると、サーバーに連携し最適化。ビジネスのKPIに貢献できるようになる。
「今までは、メディアからアプローチとして、オンライン上のデータを活用してCV を増やすための打ち手が多かったですが、直近はクライアント様のLTV など、きちんとした収益構造に対してソリューションが増えている印象です。Metaは特に活発ですが、CAPIのようなソリューションを使わなければそもそもできないことが増えてきました。弊社もCAPI導入と合わせて、一緒に推進できればと思います」(杉山氏)
3rd partyソリューションの強みと活用
前述の通り、Cookie規制前後にかけて、いわゆるデータ、シグナル数の減少に伴い、CPAが高くなることは、一般的にいわれていた。今回紹介したCAPIを導入しても、Cookie規制前の状態に戻るわけではない点には注意が必要だ。
つまりシグナルの欠損によって、ターゲティング精度の低下は、一定数は発生してしまう。そこに対しては、今までとは異なるターゲティングアプローチが模索されている。
その一環として、サイバーエージェントはクレディセゾンと合弁で、株式会社CASM(キャズム)を設立。クレディセゾンが持つセゾンカード会員2,700万人の金融および行動データを分析し、独自のAI需要予測モデルで対象の各プロダクトに応じた、購入見込みの高いユーザーデータを抽出、広告配信に用いるサービスを提供する。
データには、性別はもちろん、年収や居住地、決済情報なども含まれている。
「決済情報から過去に何を購入したかがわかる、精度の高い見込み客データをターゲティングに活用できると考えています」(杉山氏)
連携はクレディセゾンだけにとどまらない。楽天のクレジットカードの決済データ、Sansanの名刺データや企業データなど、多彩なパートナーと連携することで、細やかに配信できる環境を構築。Cookieレスの世界に対応しようとしている。
こうしたことからも改めてCookie 規制によるシグナルの欠損と効率悪化への対策として、シグナル取得環境の補完が必須となりそうだ。「CAPIを導入すること。加えて3rd partyデータの利活用をお勧めします。今後はあらゆる場所にあるデータというアセットを使い、クライアント様そしてクライアント様のエンドユーザーとより良い環境を作っていければ」と杉山氏は述べ、同セッションを締めくくった。