バーチャル空間を活用して認知度の向上を図る
――女子プロ野球は2010年春から活動を開始しているとのことですが、現在のリーグの状況や競技人口について教えていただけますか。
背尾 2010年4月23日に、わかさスタジアム京都で開幕し、当時は、京都アストドリームスと兵庫スイングスマイリーズの2チームからスタートしました。昨年には、新たに大阪ブレイビーハニーズが誕生し3チーム体制になったことで、関西では徐々に認知度が上がってきましたが、全国的にみるとまだまだです。
ただ、プロという頂点ができたことで、高校の女子硬式野球部は、プロ創設当時は5校しかなかったのですが、この3年間で17校まで増えていますし、競技人口も、当時の約600人から1500~1600人まで増えています。そこでこの春、より多くの方に女子プロ野球、女子野球を知ってもらうために体制を見直し、全国を東西南北の4チームに分ける形でリーグ内を再編成しました(ウエスト フローラ(西日本球団)・サウス ディオーネ(南日本球団)・イースト アストライア(東日本球団)・ノース レイア(北日本球団))。
――プロのリーグがあると、アマチュアの選手の目標にもなりますね。
背尾 そうですね。やはり目標ができたことで“夢”を持つ女子野球選手が増えたなと思います。少し前までは「女子が野球?それは無理」と言われていた時代。でも、女子が野球をしてはいけないなんてルールはどこにもないですし、今では将来の夢を聞かれると「女子プロ野球選手」と応える子供たちも増えました。しかし、よりメジャーなプロスポーツになるためには、もっと多くの人に女子プロ野球の存在を知ってもらう必要があると思っていました。もちろん、これまでも野球教室や交流会などのイベントを通して普及を進めてきましたが、リアルな場での接触にも限りがあります。
――それが、今回のアメーバピグとの企画につながっているわけですね。
背尾 私たちのリーグでは球場にお越しになる方の6割が男性なので、もっと女性ファンを増やしたいという想いもありました。やはり女性が活躍する場所なので女性から1番応援されるリーグにしたいですしね。その点も、アメーバピグの利用者層と合致していました。
アメーバピグの中で遊んでもらいながら興味関心を喚起
――今回、女子プロ野球のプロモーションを「アメーバピグ」で展開されたわけですが、アメーバピグというサービスとユーザーの特徴というのは、どういったところにあるのでしょうか。
高盛 アメーバピグは、会員数約1490万を超える日本最大の仮想空間コミュニティです。コミュニケーションプラットフォームである「Ameba」の中でも、特にアクティブユーザーが集まるサービスとなっています。自分そっくりのアバター「ピグ」をつくって他のユーザーとのコミュニケーションしたり、アイテムを使って自分を表現することができます。現在、ユーザーは女性6割、男性4割。年代別では16歳以上の10代が17%、20代は33%となっています。
――アメーバピグ上では、これまでも企業など外部パートナーといろいろな企画が展開されていますが、今回の企画はかなり大規模なものだそうですね。
高盛 そうですね。スタジアムという場の構築を軸に、実際の4チームのユニフォームなどのオリジナルアイテムをアメゴールド(Ameba内の仮想通貨)で販売したり、宝探しやミニゲームを設置したりと、この世界観に親しめるような道筋をいろいろと設けています。アメーバピグは若い女性ユーザーも多いので、しっかり認知を獲得するために、インパクトのある企画をしたいという意向は背尾さんと共有していました。
――企画への参加性や注目度を高めるPR施策などは?
高盛 アメーバピグのコラボ企画は元々、遊んでもらいながら興味関心の喚起につなげることを意識しているので、アメーバピグ内で企画が自然に目に留まるようにはしていますが、外部の媒体のバナー広告を使うなどはしていません。ただ、今回は女子プロ野球の認知向上キャンペーンの一環として、アメーバピグとのコラボレーションCMを渋谷駅前のスクランブル交差点の街頭ビジョンで配信しています。
背尾 同時に、普段から球場に来ていただいている方には、アメーバピグで遊ぶことでより親しんでもらえればと思い、球場でのアナウンスや液晶ビジョンなどでの告知も行っています。
レアアイテム「スタジアム風の床」で球場へ誘引するO2O施策
――世界観の構築にあたり、特にどんな点にこだわりましたか?
高盛 アメーバで女子プロ野球の存在を知って興味を持ち、最終的には球場に足を運んでもらえればと思っているので、実際のスタジアムの雰囲気やユニフォームなどのアイテムに忠実に、かつアメーバピグユーザーが好むかわいらしさとバランスを取れるように留意しました。企業とのコラボ企画の際にはいつも配慮する点ですが、今回は背尾さんから「ユーザーに喜んでもらえるものを」と承っていたので、僕らなりに最適だと考えるデザインで提案させてもらいました。
背尾 出来上がったスタジアムを見てビックリしましたね。ここまでリアルな球場がアメーバピグ内に誕生したという印象で、かなり満足しました。
――具体的に、球場へ誘引するO2O(Online to Offline)施策はあるのですか?
高盛 キャンペーン期間中に球場に来てくれた人に、自分のアバターの部屋に設置できる限定ピグアイテム「女子プロ野球スタジアム風の床」を提供しています。アメーバピグではいろいろとレアなコラボアイテムを展開していますが、希少価値が高いので、コアなユーザーは強く反応してくれます。今回も、お部屋の床がスタジアム風になるというシュールさが面白く、興味を持ってもらえたようです。
バーチャル→リアル、リアル→バーチャルの相互送客
――「床」をプレゼントするというアイディアはどういうところから生まれたのですか?
高盛 これは、女子プロ野球機構さんとのブレストからです。野球コンテンツとタイアップすること自体、アメーバピグでは初めてだったので、ユニフォームやキャップなどのアイテムと組み合わせたときにアメーバピグとして一番野球を表現できて、かつレアなものは何かと話す中で挙がりました。
――それはどのような仕組みでもらえるのですか?
背尾 今年から「エイエイオー・カード」という、好きな写真を野球カードにできるオリジナルサービスを開始しました。選手やスタッフも名刺代わりにもっていたり、試合当日は選手とファンの方との交換会なども実施しています。今回は、来場者の方へキャンペーンカードをプレゼントし、そこに記載したシリアルナンバーをピグ上で入力するとアイテムがもらえるという流れになっています。
――そうすると、球場に来た人からアメーバピグへの送客、つまりO2Oの流れも起こるわけですね。
背尾 ええ、それも今回の狙いの一つです。先ほど球場でも企画を告知しているとお話ししましたが、選手たちにも実際にアメーバピグに登場してもらって交流するイベントなども今後予定しており、8月19日のキャンペーン終了までにもっと相互の送客を強化できればと思っています。アメーバピグ内のスタジアムにはインタビューコーナー(お立ち台)もあるので、活用したいですね。
約2カ月で70万人のユーザーがスタジアムを訪問
――今年の開幕に先駆けた3月19日にローンチされましたが、実際に運営されてみていかがですか?
背尾 約2か月で、終了時までに目標としていた利用者数の70万人を大きく超えて、更なる可能性を感じています。F1層が多いというユーザー属性、バーチャル空間を通して日本中から世界へも発信できることに加えて、アメーバピグに魅力を感じたのはユーザー同士でコミュニケーションを取れることでした。私も本名でアバターをつくり、スタジアムに行ってユーザーと話をしたりするのですが、「実は女子プロ野球のスタッフなんです」というとすごく驚かれたり、球場で実際に顔を合わせているファンの方から「背尾さんですか?!」と言われたこともありますよ(笑)。
高盛 これはピグユーザーの特徴でもあるのですが、ある程度の場を提供すると、そこで自分たちで自由に遊びを考えて楽しんでくれることがよく見られます。今回も、ヒーローインタビューコーナーで選手になりきってインタビューに答える様子をブログにアップしたり、スタジアムにユーザー同士で「私、ピッチャー」「私、一塁」と実際に並んだりするケースがありました。僕らが用意したものを受け入れるだけでなく、発展的に楽しんでもらえていることがよかったですね。
特別な思い出に残る、体験価値を提供できるプロスポーツへ
――ちなみに、実際に野球ゲームをプレイすることも技術的には可能なのですか?
高盛 技術検証をした結果、可能そうなので、アメーバピグ初の試みとしても実現できるとおもしろいですね。
――これからキャンペーンクローズまで、またその後の展開などは?
高盛 これから夏にかけてシーズンも盛り上がるので、クローズまでにもっと利用者数を増やして、女子野球の思いを実現するプラットフォームとして引き続き活用できればと考えています。一度スタジアムに来た人や、アイテム交換した人のIDは把握できるので、クローズ後は継続的にDMを送ったり別の企画を案内したりすることも可能です。
――最後に、今後の女子プロ野球発展へのお考えをお聞かせください。
背尾 日本にはいろいろなプロスポーツ団体がありますが、何らかの施策を実施する上で「今までにないこと」「女子プロ野球だからできること」という視点は常に重視しています。アメーバピグの企画もその一つでした。まだまだ発展途上だからこそ、いろいろなチャレンジができるので、今後も世の中に女子プロ野球をもっと浸透させていくためにも注目度の高い企画を実施したいですね。
長期的には、女子プロ野球の試合だけを楽しんでもらうだけでなく、選手との交流や球場で思い出に残るような独自のサービスなど、女子プロ野球に接することで生まれる価値をもっと提供していきたいと考えています。私たちのスローガンは「夢、実現!」。まずは日本全国に女子野球の素晴らしさを伝え、そして日本から世界に発信し、多くの方に応援されるスポーツにしたいですね。
皆さんもぜひ一度、球場で選手たちのプレーをご覧になってください! きっと、女子野球の大きな可能性を肌で感じてもらえると思います。