リアルタイムのチューニングの一方で、中長期的な顧客LTVを把握
「広告を見ている“人”をどう捉えるかが、まさに取り組むべきところ」。そう話すのは、CyberZ スマートデバイスアドテクノロジー事業部 プロダクトマネージャーの中村智武氏。「スマホ広告における効果測定テクノロジー」と題し、最先端の技術と注目テーマが語られた。
サイバーエージェントのグループ会社で、スマホに特化した広告事業を展開する同社は現在、広告効果測定ツール「Force Operation X」(以下F.O.X)の提供により、さまざまな広告の費用対効果を横断的に測定することを可能にしている。
2016年には2,000億円規模に成長する(※CyberZ、シード・プランニング調べ)といわれているスマホ広告市場だが、この9月に満を持してNTTドコモがiPhoneの取り扱いを開始したことで、この先数カ月でもスマホユーザーの伸長に勢いがつくことは想像に難くない。その状況下で広告効果を発揮するには、「CPAを追いながらも、獲得したユーザーのLTVがどの程度かを中長期的に見ていくことが求められる」と中村氏は話す。
「拡大市場だけに、プレーヤーの数も広告商品の種類もたくさん登場しているのが現状です。そこで我々エージェンシーに求められているのは、それらを横並びで評価し、本当に効果がある広告を見極めること。単に獲得コストだけで見てしまうと、優良顧客を逃してしまうことがあります」。
獲得したユーザーがいかに優良顧客か、を見る“ROAS”
例えばF.O.Xにてユーザー獲得単価のKPIを500円と設定すると、これを越える媒体社が検出され、そこへの配信停止を選択していくことでリアルタイムな配信最適化が行える。
「F.O.Xでは、現在170社以上のスマートフォンメディアとのワンタグ/ワンSDK連携を実現しているため、個別の作業をすることなく複数の広告の効果を比較し、細かいチューニングができる点は強みです。ただし、リアルタイムの判断が必ずしもいいかというと、そうではありません。投資に対する効果を探っていく視点が必要です」と中村氏は解説する。
具体的には、仮に媒体社CのCPAが全体で800円だった場合でも、同社が大きなネットワークを有しており、媒体ごとに細かく見ていくとCPAが400円の広告もあれば1200円のものもある、というケースは珍しくない。その際、すべてを一括で停止するのではなく、400円のものは残す選択をすることで、より最適な配信が可能になるというわけだ。
「加えて最近では、ROAS(Return on Advertising Spend)という指標を見ています。仮にCPAが高くても、そこで獲得できたユーザーが課金額の高い優良顧客であれば、投資対効果は高くなります。それを見るための指標です」。
F.O.Xで採用するWeb・アプリ横断リターゲティング技術「AdTruth」
さらに直近の提案として中村氏は、スマホアプリのユーザーのほとんどが無料ユーザーである点に触れ、「課金額だけでなく『30日後にもアプリを使っているか』といったリテンションコストにも注目している」という。F.O.Xでは流入経路別のアクセス解析も可能なため、経路ごとに一定日数後の継続ユーザー数に対する集客コストを求めれば、広告投資効果・CPR(Cost per Retention)として配信最適化の指標の一つとして活用することができる。
以上のように従来は"枠"の最適化がメインだったが、枠の最適化のみだと効果の合わない媒体を停止していくという運用が基本のため、広告効果は向上するが全体的な広告費用がシュリンクしていくことになる。従って、今後は「人に対する最適化が重要」と中村氏は強調する。
その点ではリターゲティング広告や、類似ターゲットにアプローチするオーディエンス拡張などの手法があるが、CyberZでこの先に注目しているテーマは「第三者配信とDMP」だという。
「広告主のデータと外部データを活用してDMPを構築し、媒体横断的にターゲティングしていくことが一つ有効な策としてあります。もう一つは、Webとアプリを横断するリターゲティングです。扱う媒体が多いとそれだけ困難にはなりますが、F.O.Xでは端末を識別するFingerprinting技術である『AdTruth』(米41st Parameter社)を採用しているので(参考記事)、それによる精度の高いターゲティングに注力していきたいと考えています」と、中村氏は展望を述べた。
“残り予算をスマホへ”という現状は今後どうなる?
本イベントでは、2つのパネルディスカッションが開催された。1つ目は、「PCからスマホへの転換で独自に進化したテクノロジー、運用型メディアの未来」。CRITEO 天野耕太氏をモデレーターに、ユナイテッド 山下優司氏、広告主サイドのマーケターの立場からセレゴ・ジャパン 鈴木知行氏、adingo 小澤(こざわ)昇歩氏、AMoAd 加藤英也氏を迎えた。
議論は、今年はじめからスマホ広告市場に進出し、この9月にもスマホアドネットワークにおいてAMoAdとパートナーシップを締結したCRITEO 天野氏の、広告主の出稿に関する所感から開始した(※以下、モデレーター天野氏の発言は傍線)。
―― アプリなどスマホに特化したサービスの広告出稿では、リスティングが向いていればリスティング、そうでないものはアドネットワークを含めたディスプレイに予算を割いているイメージがあります。一方、スマホ限定のサービス以外は、PCのリスティングなどに予算を割いた上で、残った5~10%をスマホ広告に振り分けている印象です。この状況は今後どうなるのか、スマホ特化型のアドネットワークを展開するAMoAdではどう見ていますか?
加藤: 確かに、全体の予算はPC分とスマホ分に割り振られ、その中で「どうするか?」という発想になっている印象はあります。一方で、PC分の予算が流れてくることで市場が伸びている、というわけでもないと認識しています。スマホのネットワーク自体、プレイアブルアドやゲームに特化したものなどで活性化させ、その市場自体を伸ばしていく努力が必要だと感じています。
ユーザーが使っているデバイスに予算を投じるのは当然
―― 実際に広告主サイドに対峙しているユナイテッド山下さん、またDMP「cosmi」を広告主に提供するadingo小澤さんはどうお感じですか?
山下:スマホ内のアクションでコンバージョンが得られるECなどは別ですが、ほとんどのサービスはスマホだけでは完結しないので、スマホだけ見るとまったくKPIが合わないケースが多いです。そうなると、3月の余り予算で着手したり、試したが今はやめておこう、という判断になったりします。社内理解も難しいので、PCとスマホの横断的なユーザートラッキングがやはり必要ですね。
小澤:スマホだとPCと違う切り口でデータが取れるので、それを使って“何かしたい”という広告主のニーズは強く感じます。ただ、確かにまだ一歩踏み出せない状態なので、課題を洗い出し、データベースの整備やフィンガープリンティングなどの技術によってそれらを解決していくことが急務だと思います。
―― 今日ご参加の中では広告主の立場になる、セレゴ・ジャパン鈴木さんはいかがですか?
鈴木:当社は英語学習アプリ「iKnow!」を提供していますが、元々PCでのサービスからスタートしたものを、今スマホやタブレットに軸足をぐっとかけているところです。ユーザーの環境が変わった以上、そこに踏み込まないという選択肢はありえない。極端な話ですが、当社では広告予算の9割をスマホに投じた時期もあります。
昨年秋ごろ、当社からのメールの開封デバイスを調べたら、スマホが6割に達しており、しかもすぐに開封されていた。学習自体もかなりスマホで進められていたので、それならばスマホで集客しない理由はない、というのが背景でした。いろいろ試した結果、現在でも予算の半分以上をスマホに割いています。
統合的な視点でスマホを捉え、200%、500%の伸びを狙う
―― 自社のマーケティングストーリーをひも解いたら、踏み込まない選択肢がなかった、という経緯は説得力がありますね。そこまで振り切れる広告主は多くないと思いますが、サプライヤーやエージェンシーサイドはどうですか?
加藤:鈴木さんのお話を伺うと、テクノロジーのサプライヤーとしては、効率化を追及するあまり、本当のマーケティングニーズから広がるストーリーを提案できていないのでは? という危機感を覚えます。良くも悪くも、PCで培ってきたノウハウが一気にスマホに持ち込まれ、まだ市場が広がる可能性があるのに効率化などの細かい話に終始しているところは、変えていかなければと思います。
山下:そうですね。自戒も込めて、エージェンシー側でも「ユーザー環境がそうだから一気にスマホに」といった話はあまり出ません。現場担当者同士だと、どうしてもKPIに捉われて、110%には伸ばせるかもしれませんが、200%、500%と大当たりを狙うことはできないのが現状です。
それを突破するには、「とりあえずリスティングに7割」のような前提を壊して、PCも含めたWebの予算をトータルで、あるいはマーケティング全般をトータルで見たときにスマホをどう活用するか、という視点で戦略を立てていくことが必要ですね。
鈴木:今やっと、CMOと呼ばれる人たちがデジタルが分からないなんてありえない、という状況になりつつあります。と思ったら、今度はPCの経験に捉われてスマホに舵を切れない。その思考が偏っていることに気づくことが、まず大事です。
広告主とエージェンシー、ベンダーが一体になり先例を
小澤:ただ、ほとんどの会社で事例はないかと聞かれるので、その最初の例をどこかが作るのが突破口になりそうです。今、媒体側もさまざまなソリューションベンダーとデータを安全に連結させて多様な取り組みをしているので、信頼できるパートナーを見つけて、効果の得られる施策を一緒に探る姿勢がカギになると思います。
山下:メディアで共通IDを持っているなら、例えばクッキーを多く有しているプラットフォーマーと組んで、PCでのアプローチがスマホ上のアクションにどう影響するかを見るなどもできそうです。
加藤:何か目的があって開いているPCと違い、スマホのほうがより一般生活に溶け込んでいます。そういうユーザーの状況に合った出し分けにも、データを活用してもっと取り組んでいきたいですね。
鈴木:生活に密着している点、また即時性に強みがある点で、私はスマホはOOHとの結びつきに可能性があると思っています。セグメントされているからこそできる広告クリエイティブも追求してみたいです。
―― ミクロな視点に偏らずに、プランニング自体にPCとスマホの横断を組み込んでいくことが今後の飛躍のポイントになりそうですね。我々もスマホ事業には乗り出して間もないので、PCでのノウハウを活かしてさらなる提案につなげたいと思います。
広告主の業種の偏りを解消し、広げていくことが課題
2つ目のパネルディスカッションは、題して「スマホ×アドテク業界予測 2013 to 2014」。mediba菅原健一氏をモデレーターに、CyberZ市川陽氏、ファンコミュニケーションズ加藤正人氏、Twitter Japan味澤将宏氏、ヤフー友澤大輔氏が参加した。
「細かい技術というよりは、今後何が変わっていくのか、パネリストの皆さんが何に注目しているのかを語ってほしい」と菅原氏。議論は各社のスマホ広告事業の現状から、テレビとツイッターの関係、動画広告の展望など多岐に及んだ(※以下、モデレーター菅原氏の発言は傍線)。
―― まずは自己紹介を兼ねて、各社の現在のスマートフォン広告事業についてお話しいただけますか?
加藤:当社、ファンコミュニケーションズはPCとフィーチャーフォン、スマホの領域でアドネットワークを展開しています。スマホ向けではCPC課金の「nend(ネンド)」とCMP課金の「Re:cord(リ・コード)」の2つのアフィリエイトを運用し、私はnendを担当しています。
現在、稼働広告主とメディア数は順調に推移していますが、広告主はデジタルコンテンツのプロバイダに偏っているため、より幅広い広告主が使えるサービスにしていくのが課題だと感じています。
市川:本イベントの前半で当社の中村からも講演させていただきましたが、CyberZはスマホ専業の広告代理業を展開しており、私はF.O.Xという効果測定ツールの担当部門役員を務めています。当社でも広告主の偏りは感じていますが、主にPCサイトへの広告出稿を中心にしている広告主の大半がまだスマホへの投下を躊躇しており、我々も適したサービスを提供しきれていないという思いはあります。
広告主がよりスマホ広告市場に予算投下できるフォローを
味澤:私はツイッタージャパンで広告事業を統括しています。ジブリ映画「天空の城ラピュタ」の「バルス」同時ツイートに象徴されるように、今スマホ画面はテレビに対するセカンドスクリーンとして使われています。そうした状況を受けて、テレビとツイッターとを関連させた広告ソリューションをアメリカではすでにローンチしており、日本でも試し始めています。
友澤:私の所属するマーケティングイノベーション室では、広告主やエージェンシー、サプライヤーに当社の商品を使いこなした事例を展開することがミッションです。今、スマホからのヤフーへの流入がとても増えていますが、集客しても例えばランディングページがPC用だと結局CPAが低く「効果がない」と判断されてしまうので、LPの整備やアプリ制作ツールの無料提供など、広告主へのフォローをしながらスマホの広告市場の拡大に注力しています。
―― ユーザーが拡大する勢いに対して、まだ広告主の新規参入や市場拡大には大きな余地があるといった状況ですね。参考までにカオスマップを持ってきましたが、プレーヤー同士の統合などこの先の展望についてはいかがですか?
友澤:今はまだ市場が成熟していないので、かなり入り組んでいますね。カオスマップのようにテクノロジーありきで分類し可視化していくのも大事ですが、それよりもテレビやリッチアドとスマホとの関係を考えたりすることのほうが、重要だと思っています。
API化が進まなければテクノロジーの進化・導入も活かせない
味澤:ツイッターはツイッター内での広告になりますが、まさに9月に米ツイッターがモバイル広告ネットワークのMoPubの買収を発表しました(参考:Twitter、モバイル広告企業のMoPubを買収,ITmediaニュース)。同社はアプリのSSPで最も規模が大きいので、この買収によりRTBでの広告流通を開始することは、我々にとって非常に大きな意味があります。自前で運用している広告は、グローバルではすでにAPIをパートナーに渡しており、今後はローカルでも展開する予定です。
友澤:日本の場合、API化がクライアントサイドでもパブリッシャーサイドでも遅れていますよね。我々が買収などで新たなテクノロジーを得ても、どうやって連携するのかという点で進捗が止まってしまう。そこが課題であり、今後の可能性でもあると思います。
―― 連携が進むと、効果指標や効果測定の話も課題として挙がってきますよね。
加藤:まさにその議論は、ますます重要になってくると思います。スマホ内で完結するビジネスならCPAなどを見て効率化を求める方向でいいのですが、例えばリッチアドはどちらかというと認知や理解を促すものなので、成功かどうかの判断がつきにくい。それに加えて、単に枠の売買ではなくターゲティングによる成果をどう見るかという課題もあります。主にリターゲティングの話になりますが、その精度を上げる必要がありますね。
市川:リッチアドのスマホの事例は、特に国内だとほとんどない状況ですね。スマホに特化したサービス以外で、主にPCでの広告に軸足を置いている広告主がなかなかスマホに踏み込めない状況も、効果指標の整備に伴って変わるのではないかと思います。
動画広告の市場拡大はエンゲージメントの議論がカギ
―― リッチアドの話が少し出ましたが、最後に動画広告の展望について伺えますか? しばらく前から期待されながらも、日本では未だに弾みがつかない印象がありますが。
加藤:広告主にもメディアにも高いパフォーマンスを返せると思うので、動画広告の活用が進んでほしいですし、取り組んでいきたいと思います。ただ、海外のアドネットワークやSSPなどから話は聞きますが、実際にあまり流れているのを見たことがないので、まだ課題が多いという印象です。
市川:海外の案件では、動画広告が増えて効果もいいという話を聞きます。ゲーム事業を展開する広告主などは、動画トレーラーを持っているところも多いので、そのまま使える仕組みがあればいいのでは、と思います。
味澤:ツイッターでは動画広告という感覚があまりないのですが、今年リリースした6秒の動画を共有できるアプリ「Vine」とツイッターとを連携させれば、広告プロモーションとして活用できます。
アメリカでは動画広告やビデオ広告は非常に伸びているのですが、日本はなぜか勢いがないですね。ビデオの方だと、プリロール型として付随させるコンテンツが乏しいという問題があると思います。
友澤:そうですね。広告在庫と、あとはゴール設定が課題でしょうか。それこそCPAではなくエンゲージメントがどうかといった議論が起きてしかるべきなのですが、クリックで語るから市場が伸びない。本来の動画の効果を評価できる指標をつくることが必要だと感じています。
――― 動画広告の市場でも、CPAだけではない指標の定義が市場拡大のカギを握っていると言えそうですね。パネリストの皆さん、ありがとうございました。