今年のテーマは「クラウドとビッグデータ」
10月30日、ANAインターコンチネンタルホテルを会場に「ウイングアークフォーラム2013」が開催された。ウイングアークは帳票システム「SVF」、BIツール「Dr.Sum EA」「MotionBoard」を提供し、前者は1万7500社、後者は3860社の採用実績を持つ。国内ベンダーとして日本企業のIT化・データ活用を支援してきたウイングアークが、今回のテーマに掲げたのは「クラウドとビッグデータ」。
基調講演で挨拶に立ったウイングアーク代表取締役社長の内野弘幸氏は、1995年以降の日米の民間IT投資額を比較したグラフを示し、日本は米国に大きく水をあけられていることを指摘。しかし、国内の情報活用への機運は高まっているとして、ウイングアークは価値あるソフトウェアを提供していくと語った。
トレンドの域を超えた広がりを見せる「クラウド」については、システム構築が目的化していたかつての状況と異なり、よりスピーディに「何ができるのか」に意識が変化してきたという。活用の対象となるのは基幹システムに格納されたデータだけではなく、現場主導でリアルタイムにデータを収集し、蓄積したデータをいかに引き出して活用するかが焦点となっている。
こうした状況を踏まえて、どのようなソリューションを提供するのか。内野氏の講演に続いて、ウイングアークの新たな取り組みの紹介が始まった。
進化を続ける帳票のクラウド化
続いて登壇したのは、1stホールディングスCTOの田中潤氏。同社製品のクラウド対応の一例として、ウェブブラウザ上で帳票設計からメンテナンスまで行える「SVF Web Designer」を紹介した。
「SVF Web Designer」では、ブラウザさえあれば、たとえユーザーが海外にいても帳票をつくることができる。また会社のロゴマークを一新した場合、大量の帳票を1枚ずつ修正するわけにはいかないが、帳票のテンプレートに配置しているロゴマークを差し替えれば一括修正も可能だ。
クラウドサービスを利用する際の課題にもウイングアークは取り組んでいる。データの大容量化が進む現在、データをアップロードしたり、ダウンロードするだけで思わぬ時間をとられることもある。そのやりとりを高速化するツール「CLOUD TRANSPORTER」は、FTPで1時間かかるファイル転送をわずか2分に短縮する。また、大規模データの処理はいったん始めてしまうとなかなか停止できないが、BIダッシュボード「MotionBoard」の次期バージョンではインメモリOLAPを可能にすることでそれに対処している。
さらに、データの可視化への取り組みとして同社オリジナルの地図データでのデモを紹介。ウイングアークのクラウドサービス「VarioCloud」のルーターを設置している地点をマッピングし、同社製品が活用されている地域を一目で把握することができる。
寿司皿にICタグ、回転寿司界の革命児「スシロー」
続いて、回転寿司チェーンを展開する、あきんどスシローの情報システム部長である田中覚氏が登壇。「我々は寿司屋であってIT屋ではない」という田中氏は、ネタの鮮度が問われる回転寿司の世界で、無駄なくおいしい寿司を安く提供するための仕組みづくりについて語った。
回転寿司を利用する人が店舗に入って感じるのは、「まわっているお寿司が古いのでは?」という不安。スシローでは時間が経過ものを排除するため、寿司皿の下にICタグをつけて鮮度管理を行っている。また、自分が食べたいものを注文したいというニーズにこたえるため、客席にタッチパネルを導入している。
こうして蓄積したデータをどう活用するか。スシローの情報システム部のメンバーは5人しかいない。「ネタにはお金をかけるが、システムにはお金をかけない」というポリシーのもと、システム構築への模索を始めた田中氏。繁忙期と閑散期の差がはげしい回転寿司特有の環境も考慮し、自社サーバの構築、データセンターの利用を検討した後、必要なときに必要な分だけ使えるクラウド環境に狙いを定めた。そしてクラウドでも活用できるウイングアークのBIツール「Dr.Sum EA」を選択した。
タッチパネルでの「おすすめ」は本当に効いているのか?
スシローでは2週間に1回、新商品を展開している。定番のネタだけでなく、自社開発した新しいお寿司も楽しんでほしい。ウイングアークの協力のもとレポートを見ながら改善に取り組むなかで、タッチパネルに「おすすめ」タブを設けて商品をPRするアイデアが浮かんだ。
しかし、実施後のデータを分析すると、「おすすめ」タブ自体が見られていないうえ、マグロなどの魚種の人気が強いことがわかった。「ショックだった」という田中氏。しかし、タッチパネルのメニュー構成を見直すうち、いくつかの課題が見えてきた。
タブの中にある複数のページのうち、圧倒的に1ページ目が見られていること。複数ページがあっても、末尾のページは商品点数が少なく余白が多くなっている。こうした点を改善し、データの見方も変えてみると、「おすすめ」タブが商品力アップに貢献していることが明らかになった。とくに、来店して最初の注文では効果が絶大だったという。
「勘と経験は、データで裏付けするとインサイトに変わる」と述べる田中氏。鮮度が勝負の回転寿司の世界で、新たなデータ活用の世界を切り開いていく姿勢を示した。
トレジャーデータ、「クラウドから得られる3つのメリット」
続いて、日本人技術者が米国で創業し、日米でクラウドサービスを展開する米トレジャーデータのCTO太田一樹氏が登壇した。スーパーコンピュータの研究者で、大規模データの分散処理に欠かせないHadoopのコミュニティを立ち上げ、1500人もの規模に発展させたことで知られる太田氏。Hadoopが注目を集める一方で、初心者にとってはハードルが高く、運用スキルが必要であることにビジネスチャンスを見出し、起業に至った。現在では100社以上が採用し、1秒間に収集されるレコード数は15万件、解析クエリ600万件、合計レコード数は1.5兆件にも及ぶ。
トレジャーデータが提供するサービスの柱は「データ収集」「ストレージ&処理」「データ解析」の3つ。太田氏は、クラウドから得られるバリューとして次の3つを挙げる。ひとつは「Time to Value」。従来は結果を出すのに2年かかったプロジェクトが、クラウドによってわずか5日に短縮できたという事例もあるという。「Economy & Flexibility」では、月額課金で利用できる手軽さ。そして「Simple & Supported」では、長く使ってもらうクラウドを目指してサポートにも注力していることを強調した。
昨年トレジャーデータはウイングアークと提携を発表。ウイングアークのBIツール「Dr.Sum EA」「MotionBoard」と連携し、大規模データ処理をクラウドで可能にしている。さきほど登場したあきんどスシローの案件は、両社が連携して実現したもの。まだまだ、自社のデータをクラウドに上げることに抵抗を感じる会社は多いことから、トレジャーデータではデータの暗号化やデータ保全にも注力している。
また、日米でクラウド利用に差はないと語る太田氏は「日本の製造業も大きなデータをもっている」と指摘する。今後は、数千億のデータをバッチ処理することができるHadoopを使って、MotionBoardからも数十億件のデータを閲覧可能にするとして、今後も日本企業をさらに支援していくと語った。
ECビジネスに勝ち残る秘訣! 効果的なデータベースマーケティングとは?
ここからは、当日行われた2つの注目セッションをお届けする。まず、データ活用がビジネスに直結する「eコマース(EC)」のセッションをのぞいてみよう。分析力で企業のマーケティングを支援する、ALBERT代表取締役社長 上村崇氏は「ECビジネスに勝ち残る秘訣!効果的なデータベースマーケティングとは?」と題し、データ活用のカギとなる「DMP(Data Management Platform)」について解説した。
「ビッグデータ」がトレンドワードになり、企業に蓄積される大量のデータを分析してマーケティングに活用する機運が高まる中、プライベートDMPを構築しようとする企業が急速に増えている。しかし、サイト解析ツールで蓄積される「アクセスログ」、POSシステムやECシステムに蓄積される「購買データ」、メール配信システムで取得している「配信履歴データ」、広告のオーディエンスデータ、ポイントカードの利用履歴、コンタクトセンターの対応履歴など多様なデータが散在しており、それらを統合管理することがハードルとなっている。
このようなデータを統合管理し、分析してマーケティング施策に活用するためのプラットフォームがプライベートDMPであり、ビッグデータ時代のマーケティングに必要不可欠なシステムとなっている。
ALBERTは上記の4つのソリューションを組み合わせることで、企業内のさまざまなデータを分析可能なデータウエアハウスに蓄積し、データマイニングエンジンを通じてデータを自動解析。その結果をもとに、キャンペーンマネンジメントシステムを使って、メールや広告などさまざまなチャネルを通して、顧客一人一人にパーソナライズした情報を発信している。そして、実行された施策ごとにKPIを確認し次のアクションにつなげるため、ウイングアークのBIツール「Dr.Sum EA」を活用している。
DMPを選ぶときに大切なポイント
上村氏はプライベートDMP導入にあたって、重要な視点は3つあると語る。
- カスタマイズ可能で、システム内部がブラックボックス化していないこと。
- スモールスタート、スケーラブルであること。
- 必要なツールだけ導入できるセミオーダーカフェテリア方式で無駄をなくす。
これらを踏まえたうえで、プライベートDMP選定の注意点を次のように説明する。
「まず最初にツールを選ぶことから始めるのではなく、“何をやりたいか”を決めてから構造を考えるのが重要。まず、上流の要件を決めてマーケティング戦略を決定する。その結果をもとに既存のデータを集めて分析してみる。その分析結果から、自社にあるデータでどんな打ち手ができるのかを見極め、その打ち手を設計する。その上で、やっとツールを選定することができる。このプロセスによって失敗を減らし、劇的に成功率を上げることができるのです。」
ALBERTでは、このプロセスを「アドバイザリーフェーズ」と位置づけ、従来のCRMプラットフォーム構築支援のノウハウをもとに、プライベートDMP構築のためのアドバイザリープロジェクトの提案も行っている。
DMPとBIツールの組み合わせもポイントに
続いて登壇したウイングアークの中土井 利行氏は、「ECビジネスに勝ち残る秘訣!効果的なデータベースマーケティングとは?」と題して、EC分野における同社の取り組みを紹介した。
「CRMデータを収益に結びつけるには、ウイングアークの『Dr.Sum EA』『MotionBoard』といった、BIダッシュボードを利用したプライベートDMPの可視化分析ソリューションが有益」と語る中土井氏。実際に、DMP導入の際に併せてBIソリューションも導入する企業が増えているという。DMP導入後に最も大切なことは、データを分析しながらしっかりPDCAサイクルを回していくこと。その際にBIツールがあると、簡単なユーザーインターフェイスでダッシュボード的にKPIを追いかけることができる。
ビッグデータの活用、DMPの導入も、すべては売上げを増やすためのツール。それらを活用するために、「Dr.Sum EA」「MotionBoard」といったウイングアークのBIツールが威力を発揮する。DMPとBIツールをうまく使いこなすことが、競争の激しいECの世界で生き残るための重要な要素となりそうだ。
素早いデータ活用で過剰在庫を限りなくゼロに
最後にお届けするのは、企業におけるデータの中でもこれまで活用が遅れがちだった「テキストデータ」に焦点を当てたセッション。「これまでのデータ活用を変える!Dr.Sum EA TextOLAPとは」と題して、1stネクスパイアのシニアストラテジスト 大畠 幸男氏が講演を行った。
ウイングアークが顧客を対象に行ったアンケートによると、「BIツールに求めるもの」の1位は「レポート」機能。さらに、活用したいデータとして「販売・会計データ」を挙げる企業が圧倒的に多いという
そうした声に応える事例として、大畠氏は「Dr.Sum EA」を導入している神戸物産の事例を紹介した。神戸物産は、業務スーパーを直営・フランチャイズ含めて全国に530店を展開。主に食品を扱っているため、在庫管理には非常にシビアである。しかし、神戸物産は売上高販売管理費率が4.3%と非常に低い。これは全上場小売り企業のトップであり、神戸物産は1位を6年連続で維持している(出典:日経情報ストラテジー 2013年6月号)。
神戸物産では、食品を販売している地域別・取引形態別のデータを蓄積し、「Dr.Sum EA」を使って素早く見たいデータを引き出して在庫管理を行っている。これによって、過剰在庫を減らすことに成功。1か月あたり220人が1日に働く分の人件費と同じコストを削減することが可能になったという。
テキストデータからビジネス価値を引き出す「Dr.Sum EA TextOLAP」
こうした成果を出しつつも、大畠氏は近年、企業のデータ活用のニーズに変化がみられると指摘する。販売・会計データだけでなく、ソーシャルメディアや問い合わせの記録からも新たなビジネス価値を引き出したいと考える担当者が増えている。
データには数値(定量データ)とテキスト(定性データ)の2つがある。数値は活用できていても、テキストデータの活用はまだ着手していない企業も多い。大畠氏は、テキストデータを集計し、新たな知見を得るためにウイングアークが9月に発表した「Dr.Sum EA TextOLAP」を紹介した。
たとえば、ある食肉加工品メーカーに、メールで「ハムにこくがあっておいしかった。燻製の商品はありますか?」と問い合わせがあったとする。Excelなどを使ってこうした問い合わせ内容を管理するとき、必ずそれを分類する必要が出てくる。しかし、この問い合わせが「要望」なのか、「クレーム」なのか。担当者に任せていると分析の粒度、方向性が変わってしまう。
「Dr.Sum EA TextOLAP」では、メール本文のデータを入れると、テキストを単語単位に分割してグルーピングし、「不満が6件」「満足が1件」のように分類・集計する。問い合わせメールだけでなく、ツイッター上の顧客の声やトレンドを知ることもできる。売上データとそうした情報を結びつけることで、売上変動の理由を知ることも可能になる。
大畠氏は、「『Dr.Sum EA TextOLAP』は、売上データと同様に、テキストデータをツールに取り込むだけで簡単に気づきが得られる。これまでテキストデータを捨てていた企業に、活用のきっかけを与えるもの」と説明。「テキストマイニングツールは敷居が高い」と感じている担当者におすすめのツールと言える。今年の12月には、タブレット向けのインターフェイスも提供することが決まっており、「Dr.Sum EA」の利用シーンはさらに増えそうだ。
2020年に向けて、ウイングアークは挑戦を続ける
広い会場内には展示ブースも設けられ、ウイングアークはもちろん、パートナー企業が自社製品・サービスを紹介。多くの参加者が訪れ、活気にあふれる1日となった。
ウイングアークの多様な取り組みを紹介する一大イベント「ウイングアークフォーラム2013」のレポートの最後に、ウイングアーク代表取締役社長の内野氏の言葉を紹介しよう。
内野氏は基調講演の最後に、2020年に東京での開催が決まったオリンピックについて触れ、「オリンピックまであと7年ある。我々も何かチャレンジしたい」と述べ、ITの世界で圧倒的なスピードとパワー、技の美しさ、チームワークを追求し、進化を止めない製品を生み出し続けると力強く語った。日本企業とともに歩んできたウイングアークの「挑戦」はこれからも続きそうだ。
基調講演・セッションの模様を動画でご覧いただけます!
本記事で紹介した「ウイングアークフォーラム 2013 東京」の基調講演やセッションの模様を、動画で視聴できる「ウイングアークフォーラム 2013 on the Web」を公開中。
事前申し込み制となりますので、視聴ご希望の方は下記サイトよりお申込みください。
「ウイングアークフォーラム 2013 on the Web」
・公開期間:2013年11月20日~12月27日
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