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第106号(2024年10月号)
特集「令和時代のシニアマーケティング」

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共通ゴールを持ち顧客との関係性の“質”を高める
競争力を高めるために企業が取るべき選択

 デジタル技術の進歩と、顧客がそれに順応するスピードが著しいことは、もはや言うまでもない。加えてスペックでの差別化が難しい中、「顧客との関係性の質が、企業の競争力そのものになっている」と、一橋大学 商学研究科の神岡太郎教授は語る。顧客により価値ある体験を提供するためには、デジタルマーケティングの位置付けを明確にし、部門間で連携して顧客に向き合う共通基盤を築くことが求められている。

デジタル化する顧客と社会への対応が不可欠

 今や私たちの生活は、24時間365日デジタルと切り離せない。最新のデバイスやクラウドサービスがいつでも利用可能で、リアルな環境もGPSやさまざまなセンサーによってデジタル領域に紐づけられている。「顧客だけでなく、社会そのものがデジタル化していると言っていい」と、一橋大学の神岡太郎教授は指摘する(写真左)。

 「従来、マスメディアの代表と思われていたテレビでさえ、スマートテレビのようにデジタル化し、双方向性を持とうとしています。ソーシャルメディアによって顧客と企業が、あるいは顧客同士がつながる“ソーシャライズ”も大きな変化の一つ。企業はそれらを敏感に察知し、マーケティング戦略を柔軟に最適化していく必要があります」

 技術が進歩し、顧客がそれに適応して変化する。また顧客の新たなニーズに技術が対応する、といった具合に技術と顧客の進化が複合的に発展しているのが現状だ。

 一方、企業の競争環境も変化している。商品やサービスのスペックで他社との差別化を図るのが難しくなった今、その代わりに顧客との関係性を強化したり、より豊かな体験を提供したりすることが差別化要因になっている。顧客とのコミュニケーションの質が、強力な武器になる時代を迎えているのだ。

従来のマーケティング活動では顧客が見えない

 顧客や社会がデジタル化している状況下で、顧客とのコミュニケーションの質を向上させるためには、当然ながら企業側もデジタル技術を活用することが不可欠になる。

 「すでに多くの企業が最新のデジタル技術を導入して、顧客との関係性を築こうとしています。調査の段階からアウトプットまで、かつてのマーケティングの仕方では、顧客が見えにくくなっているのは確かです。現代のマーケティングには、デジタルマーケティングが欠かせないのです」

 現代の生活者は、以前のようにマスメディアで大型キャンペーンを行って、購買を期待するような、単純なフレームワークでは捉えられなくなっている。企業の側でもこれを課題とし、効果の検証に積極的になってきている。

 現状に危機感を持ち、デジタルマーケティングに着手している企業は少なくない。だが、成果が得られている事例ばかりではないと神岡教授は語る。

 「ネックになっているのは、一つは日本企業の体質でしょう。かつてのやり方では通用しなくなっていることに気づいていても、企業全体で見るとそれを捨てて、新しい方向に舵を切ることがなかなかできない。CMOやCEOがよほど強いリーダーシップを発揮しない限り、従来の手法を一気に転換することは難しいと思います」

精度の高いマーケティングを阻むのは、部門間の連携不足

 こうした体質的な問題のほかに、マーケティング領域には構造的な課題がいくつもあるようだ。

 「例えば、どのような状況においても無批判に、まずマス広告や認知向上を第一義的にしたマーケティング。広告代理店への過剰な依存が構造的に染みついています。確かに一部の企業においては、デジタルマーケティングについて実際の経験や他企業との交流によって、広告代理店よりも詳しくなっている、というケースも発生しています。しかしそれでも、社内におけるマーケティング部門が企業活動の“下流”に位置づけられ、統合型の活動がしにくい状況です。また、事業や商品を縦割り構造で担当していることから、マーケティングの担当者同士のノウハウを共有したり、コミュニケーションを取ったりしづらいことも、大きな成果を得るのを阻んでいます」

 さらに、一つのマーケティング企画内のプロセスにおいても、認知向上に携わる人と最後の販促を手がける人が連携していないなど、各所での分断が課題になっている。

 「つまり、従来の手法を捨てられないことと並んで大きなハードルになっているのは、部門間の連携不足です。デジタルマーケティングに積極的な企業でも、デジタルの活用がインターネット広告の出稿や、ソーシャルメディアを活用したコミュニケーション領域に閉じているケースが多いです」と神岡教授は強調する。「大幅な転換は起こりにくくても、マス広告の予算が徐々にデジタル領域へと移る動きはあります。マーケティング活動において、確実にデジタルに重きが置かれつつあるのに、多くの企業で成果が上がりにくいのは、組織間・部門間の連携がうまくいっていないことが要因です」

IT、マーケ、デジタルマーケをどう位置付けるか

 「部門横断的に」「横串で」といったキーワードは円滑な組織運営に関してよく聞かれるが、神岡教授がデジタルとマーケティングがクロスする領域に関して指摘する、“連携の不十分”の背景には特殊な課題もあるようだ。

 企業におけるデジタル領域の業務は、組織構成の上でIT部門に紐づいている、あるいはIT部門から派生したケースが多かった。だが、前述の環境変化を踏まえると、マーケティングでのデジタル活用においては、それを利用して業務を行う(デジタル)マーケティング部門が主体となる方が、スムーズに活動できるケースが増えている。長期的な見通しを立てる点でも、「IT部門に紐づいていることが、必ずしも得策とは言えない」と神岡教授。

 社内のデジタル関連業務をIT部門だけが担っていると、デジタル関連業務を実行するのに、要求仕様などをきっちり固めて、IT部門を通して発注するやり方だけが選択肢となる。だが今や、そんなことではスピードが追い付かない。そのため、例えばアプリなどの発注や、市場の声を受けての改善などは、デジタルマーケティングを扱う現場が直接進めてしまっている状況も見受けられるという。

 「ただ、(デジタル)マーケティング部門は、ITをトータルとして設計するノウハウやスキルが十分ではないので、短期的で収集がつかなくなり全社的な視野に欠けることも多い。それを解消するためにも、企業全体として顧客に向き合える最適な体制をよく考え、整備することがポイントになります。その中でIT部門の新たな位置づけというものも考えられると思います」

デジタルマーケティング部門が“出島化”する? 

 時代に応じて、機能する組織体制は異なる。冒頭に掲げた、顧客へ提供する体験やコミュニケーションの質が企業の競争力そのものになるような状況下では、とりわけIT、マーケティング、デジタルマーケティングの3部門をどう整理し、連携させるかが大きな決め手になる。本来デジタルマーケティングはマーケティングの一部と考えるのが自然だが、多くの企業ではトラディショナルなマーケティングとの間でその収まりがつきにくくなっている。

 実際に、非常に限られているが、先進的な企業はいち早く組織構成の改革に取り組み、進化する技術や顧客の変化に最大限に対応できる体制を整えている。これらの企業は、顧客との接点をデジタル化するだけではなく、部門間の連携や場合によっては組織の変革を通して、自社のマーケティング活動全体をうまくデジタル化することを意識しているのだ。

 さらなる議論として、神岡教授は“デジタルマーケティング”に掛けて「デジタルマーケティング部門をマーケティング部門から突出した組織として“出島化”するのか、あるいはデジタルマーケティングがもはやマーケティングを包括するような体制とするのか、自社に合った位置付けを考える」ことを示唆する。

 「マーケティング全般において、あえてデジタルマーケティングと言う必要がなくなる時代が来るのもそう遠くないかもしれない。だが、それまでの過渡期をどう乗り越えるのかという問題に直面します。“出島”として社内をリードするのも策ですが、マーケティングにおけるデジタルの重要性を鑑みると、もはやマスマーケもデジタルマーケの一部とも考えられますし、IT領域をも取り込むかもしれない。リアルの対面セールスですらタブレットを多用するとなると、デジタルと無関係ではありません。自社のスタンスを見極めることが肝心です」

インターオペラビリティ/相互運用性を発揮して共通基盤を築く

 加えて、デジタルの発展と並ぶ環境変化とも言えるグローバル化への対応にも、「マーケティングのプラットフォームを整備して、企業としてぶれずに取り組める体制が必要です」と神岡教授は展望を語る。

 また、人材に関する課題もある。これまでマーケティングのノウハウはマスメディア中心に蓄積され、マネジメントもマスメディアを経験してきた人が担っている。「しかし、変化が激しいデジタルに対応するためには、10代や20代からデジタル領域に自然に親しんでいる若い人が主導できる環境が必要でしょう」

 社内で局所的にデジタル化しても、それをつなぐ基盤がなければ結局は点と点の動きにしかならない。神岡教授はさまざまなマーケティング機能をモジュールと捉えて、その間をつなぐ考え方として、「インターオペラビリティ/相互運用性」というキーワードを挙げる。「異なるものを接続したときに機能する、という意味のシステム用語ですが、部門間や各担当者同士の連携においても、この概念がカギになると思います」

 商品やサービスのスペックではなく、それらを通した顧客との関係性が企業の競争力そのものになる時代、社内がばらばらに動いていては生き残れないのは想像に難くない。向き合う顧客が同じである以上、部門単位ではなく企業としてのゴールを見据えた上で、顧客に何を提供するかのシナリオを描いて共通の施策に落とし込む。それが、組織の壁を越えて協業するきっかけになるはずだ。

※編集部コメント

 記事内でも触れていますが、顧客中心のマーケティングを企業全体で実行していくためには部署間を越えた共通ゴールの共有が必要となります。IBMでは、ゴールの明確化~ペルソナ設定~シナリオ構築~フレームワークの実現までを一気通貫で支援するサービスを提供中とのことなので、この機会にぜひ検討してみてはいかがでしょうか。ダウンロードはこちらから。

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この記事の著者

MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2014/02/20 12:32 https://markezine.jp/article/detail/19018