SSP導入後の広告枠、「従来との大きな違い」とは?
RTB広告の仕組みが一般化する中、SSPに関心を持つ媒体社や、すでに導入している媒体社は少なくない。「ですが実際に導入後、収益が上がっているように見えても、本当に収益化が最大化されているかを検証している媒体社はあまりいないのではないでしょうか?」そう語るのは、Kauli株式会社の高田勝裕氏だ。
同社は2009年にアドネットワーク事業を軸として創業、翌2010年にSSPを日本で初めてサービスインした。さらに2011年、同じく国内で初めてSSPからRTB広告を配信し、現在ではSSP事業を中心に国内最大級の広告販売実績を誇っている。高田氏自身がデータサイエンティストであることもあり、システム開発を社内で手掛け、他社が提供するSSPにはないユニークな仕組みを持ち合わせていることで、右肩上がりの成長を続けている。また、Google AdSenseの認定パートナーとなっており、Googleによるプログラムを終了したコンサルタントが収益化につながる運用方法をアドバイスしていることも、成長の要因のひとつになっている。
高田氏は、これまでの広告枠とSSPを導入してRTBに対応した広告枠の考え方の違いを、媒体社側の視点で「SSPが提供するRTBによって表示される広告は『閲覧者一人ひとりに対応する』もの」と解説する。「同じ広告枠でも、見る人が違えば表示される広告が異なる。これが今までの広告配信とは大きく違う点です」。
ユニークユーザー数とアクセス数をチェック
SSPを導入する際の事前準備として、「自社の媒体にどのような特徴があるのかを確認していただきたい」と高田氏。具体的には、どのようなサイトからの流入が多いかによって、SSPが効果的に働くかどうかが変わってくるという。例えばトラフィックの内訳がTwitterなどのSNS経由が多い場合、常連というよりはその記事にたまたま関心を持ったユーザーが集まっている。つまり、ユニークユーザーが多いと考えられる。したがって、先の「RTB広告は見る人によって表示内容が異なる」点に照らし合わせると、表示される広告が多くなり、広告販売の件数が増えて収益性が上がる可能性が高い。
もうひとつ確認したいのは、ユーザーが利用するデバイスの特性だ。今、媒体社を問わずスマートフォンでアクセスするユーザーが増えてはいる。しかし、まだ過渡期の状況だ。「やはりPC閲覧ベースのほうが広告主が充実しているので、PCでアクセスするユーザーが多いサイトのほうが収益化しやすいと言えます」と高田氏。
つまり、ユニークユーザーが多く、かつアクセス数が多いメディアなら、SSPを導入することで早々に収益化を図れる可能性が高い。逆に言えば、このような特徴がありながらもSSPを導入していない場合は、かなりの機会損失が発生しているということだ。
まず運用、最適化はPDCAを回しながら
RTB広告の取引では、広告主側のプラットフォームであるDSPが閲覧者情報を参照して広告枠に対して入札し、最も高値を提示した広告主が落札してその枠に広告を表示できる。一方、これまで一般的だった広告販売の仕組みでは、媒体社は期間やインプレッションの保証をもとに枠ごとのパッケージで広告の買い付けを行っていた。RTB広告は、いわば広告主が閲覧者を選り好みしながら1インプレッションごとに購入することが可能になったと言える。
「広告主にとっては、都合のいいインプレッション枠だけを買える仕組みです。媒体社側からすると、もちろん広告主が1社だとインプレッションのほんの一部しか買ってもらえないことになりますが、そこはDSP各社がそれぞれのロジックで買っていくので、ある程度のインプレッションが売れていきます。ただし、フロアプライス(最低販売価格)を適切に設定しない限り、売買が成立しないインプレッションも出てきます」。
実際の取引では広告主ごとに複数のDSPを使っていることも多く、しかもインプレッションが発生するたびに瞬時に取引が行われるため、収益額を事前に予測したり実態を追跡しようとするには「複雑すぎる」と高田氏。「そのため、まずは運用を開始し、その結果を見ながらPDCAを回していくことこそ正攻法だと考えています」
RTB広告+複数商材の運用で収益を引き上げる
各広告主が都合よくインプレッションを買っていくRTB広告では、発生するすべてのインプレッションが売れることはない。媒体社側の視点だと、収益を最大化するには、できる限りインプレッションの売れ残りを少なくしたいところだ。
そのためには、こうした点までカバーするSSPを導入することが重要になる。高田氏は、収益化を最大化する具体的な策として、ひとつは複数の商材の運用を挙げる。「例えば各社アドネットワーク、Googleアドセンス/アドエクスチェンジ、それから自社広告などを併用することで、確実に収益が上がります」
細やかに配信を埋めていきながら、収益を最大化するために意外と見落とされているのが、広告配信の順番だと高田氏。Kauliでは、たとえば媒体社が複数のアドネットワークを運用している場合、広告単価に応じて表示の順番まで自動で最適化している。実際に、同じアドネットワークから配信される広告を表示し続けるとクリック率は下がる傾向がある。となると、広告単価が高いアドネットワークを優先的に早い段階で表示させる方が、収益が高くなる。Kauliでは各社の何回目の表示がいくらの期待収益になるかを自動計算し、最適化することができる。
空いたインプレッションの収益化こそ重要
高田氏は複数商材を運用することについて「RTB広告のみを運用するときに比べて、RTB広告の収益性を結果的に高める効果がある」と解説する。Kauliが提供するSSPは、アドネットワークから提示される単価よりも高い取引が見込める場合のみRTB広告が配信される。複数商材を運用するとフロアプライスが押し上げられ、おのずとRTB広告で取引される単価も押し上げられることになるからだ。これはKauli独自の仕組みであり、同社のデータ分析力の表れとも言えるだろう。
「よく媒体社側からRTB広告だけでの収益ではダメなのか、SSP導入=RTB広告の収益ではないのか、と聞かれます。ですが、やはりRTB広告だけでは収益を最大化したことにはならないと考えています。冒頭に説明した通り、RTB広告では広告主が都合のいいインプレッションしか買わない。だから、RTB広告でインプレッションを高く売ることはもちろん大事ですが、“それ以外のインプレッションもしっかり収益化できていますか?”という点を考えていただきたいのです」
そのためには、コンサルタントが入って緻密な運用計画を立てるもよし、Kauliのようなテクノロジーベースで管理できるシステムを導入するもよし、と高田氏。空いたインプレッションのマネタイズこそ重要だと強調する。
媒体社とともに、広告の価値の向上に取り組む
また、継続的な収益化のポイントのひとつとして、高田氏は運用リソースへの注目を挙げる。いくら広告販売量が増えても、タグの貼り替えなどの手間や制作会社への費用がそれを上回れば、総合的な収益は下がってしまう。
「したがって、収益を上げることだけに熱心にならずに、手間や運用を最小限にすることにも注力して、上がった収益をいかに確保するかを考えていただきたい。広告販売量を増やしながら手間を減らして、浮いた時間をほかのクリエイティブなことに使えるようにするのが重要です」
RTB広告は媒体社のインプレッションを自動かつ高単価に販売できる仕組みだが、「価格決定の主導権が広告主側にあるので、必ず値崩れが起きます。そのため、当社では媒体社側の視点で、それを回避する仕組みづくりに取り組んでいます」と高田氏は語る。例えば同社で実験的に行っている取り組みとして、入札状況に応じてフロアプライスを上げる試みが紹介された。広告主の入札が多い枠のフロアプライスを引き上げたところ、販売価格が徐々に上向いてきたという。
「SSPをまだ導入していない媒体社は、自社にとって好条件のインプレッションだけを買っていく広告主に対する策として、すぐにSSPを導入する必要があると思います。手間を減らし、媒体社の皆さんとともに広告の価値を向上させたいと考えています」と、高田氏は講演を結んだ。