デジタルマーケティングは進化が早いからこそエコシステムが重要
押久保:約半年前に一度お話を伺いましたが、取材時からマーケットの環境に変化などはありましたか(以前のインタビュー記事はこちら)。
福田:2014年6月時点でも予想以上にお客様の関心が高いと申し上げましたが、関心がさらに増してきていると感じます。
押久保:エコシステム構築を推進すると仰っていたのが印象に残っています。進捗状況はいかがですか。
福田:連携パートナーはマルケト全体では400社まで増えています。米国で連携実績のあるパートナーの日本展開に加えて、日本のパートナー企業様とも連携を進めています。詳細を2015年の早いうちには発表できるかと思います。
押久保:スピード感のある展開ですね。
福田:エコシステム構築は以前から重要だと感じていましたが、この半年で必要性をさらに強く感じるようになりました。というのも、デジタルマーケティングの全体をカバーしている製品が少ないことや、テクノロジーの進化によってそれぞれのソリューションの専門性が高くなっているからです。そのため、デジタルマーケティングの全体を把握することが難しくなってきていて、製品のベンダーもコンサルタントも、ほんの少し担当領域がずれると隣のことがわからない場合が多いです。
デジタルマーケティングの世界では一社単独でイノベーションを起こすことは不可能です。そのため、我々もいろいろなプレイヤーと連携し、お客様に最適なソリューションを提供できる環境作りが非常に大事だと感じています。
押久保:確かに、今は分断されている状態だと感じます。各領域のツールがそれぞれに進化している。しかし、個別最適に陥りがちで各領域を横軸的に把握することが難しい状態です。その結果、全体的な視点での投資対効果が見えにくい状況です。
福田:各ポイントでの効果測定はできてもマーケティングフロー全体の評価や分析ができなければ、どこがボトルネックになっているか、どのようなマーケティング施策には効果があるのかを判断できません。ですから、そこをつなげて俯瞰して見られるようになれば、企業にとっては非常に大きなメリットが得られると思います。そして、マルケトのようなマーケティングオートメーションがそのためのプラットフォームになると考えています。
米国との「違い」ではなく、「共通点」に目を向ける
福田:実は分断された状況は、米国でも同様です。
押久保:米国は多少日本よりもデジタルマーケティングが浸透して、活用が進んでいると一般的には言われています。しかし、実はそうではないということでしょうか。
福田:確かに米国には先進的な取り組みを進めている企業や、興味深いキャンペーン施策の事例がたくさんあります。ただ、いたずらに両者の差異ばかりが強調されているようにも感じます。個人的には、むしろ共通点のほうが多いと感じています。
例えば「マーケティング部門に比べて、営業部門が強い」というのは日本と同じ傾向です。一般論として、米国IT業界でのデジタルマーケティングの取り組みは進んでいると言えると思います。しかし、テクノロジーの導入は進んでいても、それを活用できるだけの人材が整っていない、CMOにマーケティング戦略を実行する権限が付与されていない、といった問題はやはり存在するものです。営業とマーケティング間での連携といった課題は万国共通だと思います。
違いにばかり目を向けるのではなく共通の課題に着目することにより、国や業界の壁を超えてそれぞれの取り組みからヒントを得ることができますし、お互いの取り組みや解決策を共有することには相互にメリットがあると思います。「自分たちは遅れている」と思い込んで、従来のマーケティングの常識の枠の中に留まってしまっている日本企業のマーケターの背中を押したり、道案内をしていくことが、私の重大な責務だと感じています。
マーケティングオートメーションはBtoCでも価値を発揮する
福田:認識の違いという観点だと、日本のマーケティングオートメーションの捉えられ方は、非常に狭く理解されているように感じます。具体的にはBtoB向けの新規顧客を獲得するためのツールだという印象を持たれている方が多いように感じます。しかし、それはマーケティングオートメーションのわかりやすい一つの側面でしかないことを強く認識しました。これもこの6か月間での大きな発見の一つです。マルケトのマーケティングオートメーションの設計は、マーケティングの普遍的なプロセスをサポートしているもので、活用の範囲が非常に広いことを日本のマーケターにも伝えていきたいと思います。
例えば、「認知→MQL→SQL→商談→受注」というように、新規のリードから落とし込んでいくプロセスはBtoBマーケティングの典型的なファネル(漏斗)モデルとして広く知られています。ファネルの前半をマーケティング部門が担当し、ファネルの後半は営業が業務を担当します。一方、新規だけではなく既存のお客様に対して様々なマーケティング活動を実行しながら追加の購買を促し、購買頻度を上げるといった顧客のロイヤリティ向上をマネジメントする観点もあります。これはBtoBはもちろん、営業プロセスの存在しない小売や消費財などのBtoCでも当てはまるケースです。
そして、2つのモデルは対照的に見えますが、突き詰めると「顧客を正しく理解し、適切なメッセージを適切なタイミングで行なう」というマーケティングの基本は共通しています。この基本を素早く確実に実行するために、マーケティングオートメーションは非常に有効だということです。今後、双方の事例を増やしていきたいと考えています。
押久保:米国ではこの認識に変化は見られますか?
福田:2013年までは米国のマルケトユーザーも約7~8割が、BtoBでの利用でした。ですが、2014年に入ってBtoCのユーザーがかなり増えてきています。最近だとMyFitnessPalで導入され、約6,500万会員の嗜好や活動の情報に合わせて、フィットネスに関する情報や食事のレシピをパーソナライズして配信するということが実践されています。
押久保:ロイヤリティの向上を目的にしたキャンペーンに使われているんですね。
福田:もちろん、入会までのプロセスをフォローするリードナーチャリングのためにも活用できます。そして、入会後は来店の促進や、各ユーザーの志向に合わせたメッセージの発信によってロイヤリティを高めていく。このようなリード育成とロイヤリティ向上までを俯瞰できるマーケティング・ソリューションへの需要が、今後非常に大きいなものになると考えています。
重要なのはスピード感、まずやってみること
押久保:先程、共通軸でマーケティングを見る動きはまだできていないと指摘されていました。では、マーケティングオートメーションツールを活用することで、どのようにマーケティングの質を上げることができると思いますか?
福田:最初に全てを考えてからスタートする、という認識を変える必要があると思います。多くの場合、まずは見込み客や市場全体のセグメンテーションを行い、ぞれぞれに対するマーケティングプロセスを決めましょう、となります。もちろん、間違っているわけではありません。しかし、検討に時間を費やしたのに次のアクションにつなげることができなかった、という話をよく聞きます。
お客様に「現在保有している見込み客のデータ件数は何件ぐらいありますか」「その見込み客をフェーズ分けすると、各フェーズにどれくらい存在しますか」という類の質問をしても、答えが返ってこないケースが多い。つまり、現状を把握するだけのデータがそもそもないのです。その状態で仮説を一生懸命考えるよりは、まず小さくても運用を開始して、データを取ってみて、それを基に仮説検証のプロセスを回す方が結果的に速くゴールに到達すると思います。
ですから、確実に効果を上げていくためには、まずデータ収集を目的にマーケティングオートメーションの運用を始めて、そこから得られたデータを基に仮説を作成してさらに運用してみる。そのなかで想定していた仮説と何か違うな、と思ったら最適化する。テスト→最適化→テスト→最適化というサイクルを素早く回すことですね。こちらのほうが早く効果も結果も出やすい。
これからのマーケティングの成功のキーはスピードだと思います。それにはマーケティングオートメーションが最強の武器になります。このことを多くの方々に知っていただくために、弊社ではこれから成功事例をたくさん作って公開していきたいと考えています。
今は、一緒に学んでいくフェーズ
押久保:人材の点に関してはどのようにお考えですか?
福田:まだ市場が新しいので決まった方法を教えるというよりは、お客様やパートナー様と一緒にプロジェクトを進めながら一緒に学んでいく意識が大切だと思います。各分野のエキスパートを集めて課題に取り組み、そこから得られた経験や知見を広く共有していく。このサイクルが大事かと思います。
普遍的なマーケティングの理論を実践する上での様々なテクノロジーの活用方法は、これからのマーケターにとって重要なスキルとなってくるでしょう。今後は大学に特別講座などを持つといった試みを通して、デジタル時代に即したマーケターの育成も支援していきたいと考えています。実際に豪州や米国では、マルケトが大学と一緒に講座を開設している例があります。また、マルケトの共同創業者ジョン・ミラーが「Marketo Institute」という研究機関を作りました。ここでは、世界中のデジタルマーケティングのベストプラクティスやマーケティングに関するデータを蓄積し、世の中のマーケターに公開する試みを始めています。
押久保:それはすごく面白いですね。デジタルマーケティング分野は、IT業界の資格のような、マーケティングレベルを判定する指標があまりないのが現状です。講義の修了証明みたいなものが、一つの指標になると良いと思います。ちなみに、どのような人材を育てることが目的ですか? やはり、CMO的な人材でしょうか。
福田:肩書に例えるならばCMOに当たるかもしれません。しかし、本質としてはマーケティングファーストでデジタルマーケティングを推進できる人材を育成できればと考えています。中長期的にそういったデジタルネイティブ世代のマーケター育成に貢献することは、大変価値があることだと考えています。
必要なのはマーケティング組織の役割で考えること
押久保:マーケティングオートメーションを活用すると高い効果を出せる業界や、企業規模などはあるのでしょうか?
福田:マーケティングオートメーションは、見込み客や顧客を特性ごとに分類し、それぞれにどのようなフォローアップをするのかというタスクを事前に設定し、処理を自動化する仕組みです。この点を考察していく際に、マーケティングオートメーション活用の適性を判断するセグメント軸が見えてきました。
押久保:どんなものですか?
福田:見込み客と既存顧客を含めた顧客データベースの件数の軸と、企業の成長の速度の軸です。例えば、中小企業と一口に言っても、数の限られた取引先に対してビジネスをしており、規模を拡大せず堅実に事業を続ける成熟した企業もあれば、ケタ違いの成長率でビジネスが拡大し、それに伴って扱う顧客データベースが爆発的に増加する企業もあります。後者の場合、顧客データベースの件数が増える過程で顧客セグメントは多様化していき、人的フォローでは追いつかなくなり加速度的にマーケティングオートメーションの重要度が高まると思います。ですから、企業規模に関わらず、スタートアップで小規模ではあっても急速に拡大している成長企業から、グローバルに展開している大手企業まで幅広い企業で導入が進んでいます。
これはつまり、大企業や中小企業という観点ではなくて、マーケティング組織の役割で考えた方がいいということです。
押久保:ベンダーを中心に、これまでは企業規模でのセグメントをしてきたかと思います。ですが、マーケティング領域を考える際は、マーケティング組織の役割に注目すべきだということでしょうか。
福田:その通りです。営業部門と異なりマーケティング部門は、売上規模に比例して拡大されることは少ないです。そのため、事業が拡大していくとマーケティング担当者の役割も変化します。だからこそ、マーケティング部門の役割の変化にも柔軟に対応できるマーケティングオートメーションを、マーケターは求めています。
押久保:確かに、マーケティング部門は施策を考えることに集中すべきで、他の部分はなるべく道具の力に頼ることが必要だと思います。
福田:売上20%成長という目標を掲げた企業が、そのためにマーケティング予算を20%増加させることは稀です。少ないコストでより大きな成果を求められるのは当たり前のことになっています。マーケターはアートとサイエンスの両方に重きを置かなければなりません。そして、大きく効果を上げるためにサイエンスの点でマーケティングオートメーションのようなツールを活用し、マーケターの持つ能力を何倍にも増幅させることが求められている時代なのではないでしょうか。
2015年のマルケトの取り組みについて
押久保:最後に、これからの取り組みについて教えていただけますか?
福田:2015年上半期に2回、マルケトの方向性や情報を市場にアピールするイベントがあります。一つ目は、2015年2月17日に開催する「Marketo Summit Japan 2015」という初の国内開催のカンファレンスです。当日は1,000名規模の来場者をお迎えする予定です。会場にお越しになれない皆様には、バーチャルイベントの開催も準備しています。このイベントには本社のCEOが来日する予定です。また、世界のマーケティングをリードするビッグ3の一人であり、IMC(統合マーケテイングキャンペーン)を提唱してきた、ドンシュルツ氏をスピーカーとしてお招きします。もちろん、日本国内での先進事例も紹介していきたいと思っています。そして4月13日~15日には米国で「Marketo Summit 2015」という年次のカンファレンスも開催します。米国でもマーケティング業界のイベントとしては最大規模のカンファレンスで、サンフランシスコのモスコーンセンターで3日間に渡って開催します。
自社の体制については、日本のお客様に安心して使っていただくための体制づくりに集中します。これまでも、“まずはきちんと導入して成功してもらうこと”を主眼に置いて、ポストセールスやコンサルタントの採用を進めてきました。12月1日には日本法人で最初のカスタマーサポート担当者も入社し、引き続き、サポート体制の強化に注力します。
押久保:機能の面ではいかがですか?
福田:詳細は4月のカンファレンスでの発表となりますが、従来マルケトが強みとしてきたBtoB向けの機能強化をはじめ、BtoCに向けた新しい機能にも注力しています。この点はぜひ、来年のカンファレンスに注目していただきたいと思います。
さらに私たちの強みは、自社でマルケトのマーケティングオートメーションを活用して、ビジネスを成長させている点です。自らユーザーとしマルケトを利用する経験から様々な知見を得ることができます。このナレッジをマルケトユーザーの共有財産として、すべてのマルケトユーザーが活用できるようマルケトユーザー会・マーケティング勉強会・ワークショップなど様々な方法を準備していますので、ご期待ください。