ブランディングECサイトを通じて、「バックピアス」という新たなオシャレ文化を醸成していく
2007年創業のChrysmela(以下、クリスメラ)。はずれにくいロック式のピアスキャッチを、国内800店舗と海外に卸し、その売り上げは累計約23万個にのぼる。ピアスは一般的に紛失率が高く、その原因はピアスを耳の後ろで止めるキャッチ(留め金)が外れやすいことにある。そのキャッチにロック機能をつけてはずれにくくしたのが、クリスメラのピアスキャッチだ。
「24歳のときに、お付き合いしていた彼からプレゼントしてもらったピアスをなくして、大げんかしたことがビジネスのきっかけです(笑)。“私が悪いんじゃない。ピアスのキャッチが悪いのよ!”なんて言って。そこで、それなら自分ではずれないキャッチをつくってしまおうと思いついたんです」と同社 代表取締役の菊永英里氏は語る。
はずれにくく、どんなサイズにも合うキャッチが欲しいと図面を描き始めてから3年後、2008年に完成して販売を開始した。「目指せ、ピアスキャッチ界のYKK」というスローガンのもと、ピアスを扱う様々なジュエリーショップに商品を卸し、各店がデザインしたピアスとともに販売してもらうというビジネスモデルで事業を拡大してきた。
そんな同社は、2014年末にピアスキャッチに次ぐ、新たなオリジナル商品を開発し、販売を開始した。それはピアスの裏側、すなわち耳の後ろ側にも装飾をつけられる“バックピアス”のパーツだ。これまでのピアスといえば、耳の前側に装飾があり、後ろ側はキャッチのみ。そこでキャッチ部分にも装飾をつけることで、オシャレ感をアップさせ、さらには前側の装飾と組み合わせることでバリエーションを増やすことができる。
「弊社のロック式ピアスキャッチに、バックピアス用の部品を装着すると、そこに装飾がつけられます。こうすると、例えば通常の前側のピアスを3種類持っていて、このバックピアスにつける装飾を3種類持っているとしたら、組み合わせれば3×3=9種類ものバリエーションが楽しめるようになります」(菊永氏)
例えば、会社には前側のピアスだけつけていき、会社帰りにバックピアスをつけて華やかにするといった、シーンにあわせたおしゃれをピアスで実現できる。「ピアスが外れにくくなる」「バックピアスで後ろ側も装飾することで、オシャレ感をアップさせてバリエーションを増やす」という2つの要素は、他社にはない、クリスメラ独自の特長だ。この新たなオシャレなピアス文化を世の中へ広めていく方法に菊永氏が選んだのが、ブランディングECサイト「Chrysmela Boutique(クリスメラ ブティック)」の構築だった。(参考ページはこちら)
商品の価値・魅力を伝えられる場所として、ECサイトを構築
クリスメラの商品は、アクセサリーを売るのとは勝手が違う。なぜなら、ロック式ピアスキャッチやバックピアスは、まだ世の中に十分に浸透した商品カテゴリーではなく、まずはその文化を創り、広めていくことから始めなければならないからだ。
「バックビアスとは何かを理解してもらうには、まずロック式ピアスキャッチの説明から始めて、そこの理解が得られてはじめてシーンにあわせておしゃれができるバックピアスの説明ができます。ここまでじっくり相手に伝えるのはすごく大変。その説明を、卸業でやっていくのは難しいと思い、商品の価値を伝えられる場所としてECサイトをつくることにしたんです。でも、ピアスキャッチ自体を売ることが目的ではありません。あくまでバックピアスをまず認知していただき、魅力を伝えたい。さらに共感していただいた卸先のジュエリーショップなどには、バックピアスを自由につくってみようかなと思っていただくことが狙いです」(菊永氏)
実は菊永氏は、以前から料理愛好家の平野レミ氏のオフィシャルサイト「remy」のファンだったという。(参考ページはこちら)
「Facebookのタイムラインに流れてきた平野さんのサイトが、すごく素敵で。シンプルなECサイトなのに、すごくよく世界観を表現しているサイトだなと思いました。シンプルに彼女をフィーチャーして、レシピを紹介して、それに付随する商品を売っている。Facebookからサイトに遷移したときに違和感がなく、シームレスで美しかった。このサイトが気になりつつ、制作会社を探していたところ、たまたま開いたページでフラクタさんがその平野レミさんのサイト制作に携わっていることを知りました。他にも私が気になっていたECサイトをいくつも作っていたことがわかって。これは!と思ってすぐ問い合わせました」(菊永氏)
まずはブランドの徹底的な理解から/ブランディングECサイト構築までの道のり
クリスメラの本社は岡山県倉敷市。菊永氏も倉敷在住のため、基本的に遠隔でECサイト構築を進めていったという。「こちらの要望通りに枠だけ作って、その後のECサイトの運営や売上を向上させる方法、またECサイトを通してお客様に何を伝えていくかといった相談は担当外なので受けない制作会社もあると思うのですが、フラクタさんは違いました。詳細なヒアリングを通して、ECサイトでのブランディングを実現するために、まずはブランドを徹底的に理解するところからはじまります」と菊永氏は当時を振り返る。
「また、私はECについて素人なので、気軽に『●●のサイトみたいにしたい』『シネマグラフがかっこいいからやりたい』とかリクエストするわけです。でもフラクタさんは、それがうちの商品に本当に合っているかどうか、チームで一つひとつ議論してくださって。『御社は御社のサイトをつくるので、誰々のサイト“みたいな”というのはやめましょう』『シネマグラフは画質を落とさなければならないので、ジュエリーを綺麗に見せるべき御社のサイトには合いません。スマートフォンからのアクセスも多いので、画像サイズが大きくなるという点でもシネマグラフは良くないです』とか、真面目に検討した上で意見をしてくれます。お金さえ出せば何でもつくってくれる制作会社よりも、サイトのことを真剣に考えてくださっていることが日々のやり取りから実感でき、とても信頼しています」(菊永氏)
デザインがキレイに見えるだけのサイトはいらない/体験を伝えるECサイトを構築
そして最も議論を重ねたところは、ピアスキャッチとバックピアスの説明部分だったという。「それっぽくキレイに見せるだけでは、他のジュエリーを販売しているサイトとの比較になってしまいます。私たちは、機能を理解していただいた上でデザインを選んでいただかないといけません」と菊永氏。
「そもそも、クリスメラのピアスキャッチは約4,000円。機能を知らない人にとっては『え?そんなに高価なの?』とびっくりしますよね。そうじゃない。私たちはただピアスキャッチを売っているのではなく、ピアスをなくしてしまうかもしれないという不安から解放し、気兼ねなくピアスを楽しむための体験を売っているのです。そこにさらに、バックピアスがあります。
これらの商品に込められた意図をきちんと伝えていくために、商品ページはもちろん、別途ブログ機能もつけて情報を発信できるようにしました。また、ピアスキャッチについては、目で見た方がわかりやすいこともあり、動画コンテンツも設置しています」(菊永氏)
このような制作過程を経て、去年11月の発注から5か月、今年の4月末にクリスメラのブランディングECサイト『Chrysmela Boutique』がオープンした。その後も、フラクタのコンサルは続いている。
「広告提案も、広告のクリエイティブも、全部まとめてお願いしています。販促とクリエイティブを別の会社にお願いするとややこしいんですよね。販売促進のために広告を出す、でもクリエイティブは別会社でつくった場合、効果が出なかったときに、原因は広告なのかクリエイティブなのか、わかりづらくなる。フラクタさんなら、そこをまとめてお願いできるのと、他社さんのコンサルで培われた知識も活用させていただけるのもメリットです」(菊永氏)
その結果、ユーザーは広告やFacebookなどSNSからの流入が多く、既存顧客だけでなく新規顧客からの売り上げも上がっているという。
「しかし、基本的には卸売であるというスタンスは変えていません。だからこそ『Chrysmela Boutique』では、外部のデザイナーさんがうちのバックピアスを使ってデザインして、他のサイトでも販売しているピアスを紹介させていただいています。でも、『バックピアスはどこで買えますか?』というお問い合わせが多いこともあり、『Chrysmela Boutique』をお店の一つとして案内できるようになったのは良かったですね」(菊永氏)
事業とECサイトの、今後の課題や展望についてたずねたところ、「ピアスキャッチについては、世界中どこのジュエリーショップに行っても、クリスメラのピアスキャッチが売られているようにしたいですね。バックピアスはここ2~3年、ハイブランドの間でも流行りがきていますが、いろんなものに組み合わせられ、ロック機能付きなのはクリスメラのバックピアスだけなので、それが新たなジュエリーのジャンルとして認められるようにしたいです」と菊永氏。
「『Chrysmela Boutique』に関しては、新たな文化を切り開いていく場として、メッセージを伝えるコンテンツをもっと増やしていきたいです。今は私が更新を担当していて、撮影から執筆まで全て一人なので歩みが遅いのですが、いずれは記事を社内で量産する体制を整えるだけでなく、ユーザーの声をひろって伝えていく仕組みをつくっていきたいと考えています。ECは、サイトをつくって終わりではなく、そこから育てていかなければいけません。これからが大事な時期なので、頑張っていきたいですね」(菊永氏)