人工知能と機械学習
前述の人間の学習能力をコンピュータで実現する手法は、機械学習(マシン・ラーニング)と呼ばれている。そのため、人工知能=機械学習と見なされることもあるが、あくまでも実現のための一つの手法でありイコールではない。今日世間一般で人工知能を冠したサービスや商品を目にした場合、実際には機械学習によって実現しているものが多いと認識してもらってよいだろう。
機械学習は収集した膨大なデータ(ビッグデータ)の解析を行い、規則性や判断基準などを抽出することで、洞察を得たり予測精度を発展させたりしていく手法だ。機械学習は一般的にデータ数の増加によって精度を向上させることが可能であり、昨今のビッグデータ活用の進展に伴って中心の手法となっている。
この機械学習は、大きく分けて以下の2つに分類することができる。
教師あり学習
事前に与えられた入出力データ(教師データ)を基に学習し、新しい入力データに対して出力データを予測することを目的としたもの。マーケティングにおける具体例としては、パネルデータからのユーザー属性の推定、過去実績からの売上予測、広告配信によるコンバージョン・クリック予測等がある。
教師なし学習
入力データのみ与えられるもの。出力すべきものは決まっていないため、出力データを最適化するために、何らかの規則性や判断基準を抽出することを目的としている。マーケティングにおける具体例としては、ユーザーのウェブサイト行動履歴からの、類似した嗜好性を持つユーザーのセグメンテーション等がある。
なお、ディープラーニングも機械学習の中の一つ手法であり、教師あり学習・教師なし学習どちらにも適用できる。
こうした機械学習によるビッグデータの活用は、当社でもオーディエンス分析や広告配信等で高い成果を上げている。手前みそながら、当社ビッグデータ解析部の連載と合わせてお読み頂くとよりお役立ていただけるだろう。
人工知能の活用可能性
EY総合研究所が2015年9月に発表した調査によると、人工知能を活用した関連産業における国内市場規模は、2015年で3兆7,450億円、2020年で23兆638億円、2030年には86兆9,620億円に拡大すると推計されている(出典:EY総合研究所、『人工知能が経営にもたらす『創造』と『破壊』』)。
また、矢野経済研究所が2015年11月に人工知能活用の中長期予測の調査結果を発表している。(出典:矢野経済研究所、『人工知能(AI)活用の中長期予測』)

短期的には、製薬、医療、バイオ、金融などの業界で人工知能の活用が進むと見込まれている。主に製薬分野での新薬開発、金融分野でのトレーディングや不正検知等が挙げられている。特に医療画像診断といった医療分野については、ディープラーニングでの画像認識精度の向上によって、インパクトが大きな分野とされている。
長期的には、自動車や製造業などの業界で活用が進むと見込まれている。日本政府は2020年までに自動運転車の公道利用を解禁することを目標として掲げており、主要な自動車メーカーが自動運転車の実現を目指している。最近ではトヨタ自動車が米国で人工知能技術の研究開発をおこなう新会社「トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)」を設立したことも話題となった。製造業においては、スマートファクトリー(産業ロボットの活用による工場の自動化)の実現に向けて活用が進むと予測されている。
マーケティング分野においては、ここ数年でビッグデータを管理し活用するためのDMPが大きく注目を浴びた。しかしビッグデータの活用に頭を悩ましている企業は多いのではないだろうか? 「人工知能」はこれらに対する一つの解決策となりうるかもしれない。もちろん、ここでいう「人工知能」とは弱い人工知能を指しており、またその多くは機械学習によって実現されるものだろう。
次回は、こうしたマーケティング分野における人工知能の活用可能性や検討状況、技術・手法について、国内外の動向も合わせて紹介していく。
(執筆:プロダクト開発本部 広告技術研究室長 永松範之)