2009年4月から導入されることとなった教員免許更新制について調査を実施した、京都大学の教育学研究科研究生・佐藤利幸氏は、静岡県立浜北西高等学校の教諭でもある。今回の調査では、政策立案者である文部科学省、免許管理者である教育委員会、講習開設者である大学、受講対象者の教員(高校教員に限定)、教員免許取得予定者の大学生に対して、アンケート・聞き取りを実施、その結果を研究成果としてまとめている。
高校教員・大学生に対するアンケート調査は、昨年10月~11月にかけて実施され、高校教員は26道府県67校から教員(管理職・講師含む)計1,643名分、大学生は教員養成系2大学を含む関西の5大学から491名分の回答が得られた。
教員免許失効=失職、根強い不安と反発
「教員免許更新制」では、教員として必要な能力を維持するために、教員免許の有効期間を10年間とし、最新の知識や技能の習得のために行われる講習の修了者などに対して免許の更新を行う。制度が施行される2009年4月前に免許を取得した教員も、10年ごとに免許状更新講習の修了が必要となる。
今回調査対象となった高校教員へのアンケートからは、年齢とともに失職などの不安傾向は下がっているものの、40歳代の学校の中核となる教員に最も反対傾向が強いことが明らかになった。また、管理職(校長・副校長・教頭)の50%が更新制に反対、失職などの不安がまったくない教員にも、政策に対する不信感から強く反対する人が31.2%存在している。
教員を目指す大学生へのアンケートからは、教員になる意志が未定の場合に、不安傾向、反対傾向がともに強く、「更新制導入により、教員志望者の減少に拍車が掛かる」という懸念が現実になることを示していると佐藤氏は指摘している。また、高校教員・大学生ともに講習の費用負担率が賛否に関わる大きな問題であることも明らかになったことから、同氏は、大学における免許状更新講習にバウチャー制度を導入することを提案。受講者の数に応じた予算を国が補助金として配分する方法が適当だとしている。
文部科学省のもうひとつのねらい
レポートでは、更新制導入のもうひとつの側面である「政略」にも踏み込んで分析。2006年の答申の際に、更新制導入と教職大学院創設が同時期に検討・提言されたことなどから、2020年以降に予想される教員採用減の時に、文部科学省は「教員養成6年制(修士課程)」へ移行しようと考えているのではないか分析している。
しかし、教育委員会・文部科学省・大学に対する調査結果からは、全国的な免許管理システム構築が漏れなく完璧に行われるのかといった課題も浮かびあがっており、制度の周知活動とともに制度自体の根本的な問題にも早急な対応が必要となりそうだ。
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