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ASEAN進出の要はタイクーンとの提携――東南アジア最大規模のサリム・グループとは

 人口6億人超、2050年には8億人に迫ると予測されているASEANは代表的な新興市場です。日本企業の多くが東南アジアへの進出を次なる戦略に組み込んでいますが、では実際にその市場はどうなっているのでしょうか。翔泳社から発売中の『ASEAN企業地図 第2版』から、ASEAN最大のコングロマリットであるインドネシアのサリム・グループを紹介します。

本記事は『ASEAN企業地図 第2版』からの抜粋です。掲載にあたり、一部を編集しています。

相関図の見方

 最初に、今回紹介する企業間相関図の見方を紹介します。相関図は『ASEAN企業地図 第2版』を通じて登場します。

相関図の見方

サリム・グループ――圧倒的な事業の広がりを持つASEAN最大のコングロマリット

サリム・グループ1

国の成長に歩調を合わせて飛躍

 サリム・グループの創業者は、スドノ・サリム。1916年に中国福建省海口に生まれ、1938年に雑貨店を営む叔父を頼ってインドネシアに移住した。第2次世界大戦後、インドネシアはオランダと独立を懸けて武力闘争を行ったが、その際スドノは、衣類、食料、たばこ等をインドネシア軍に供給し、一財産を成したという。

 しかしその財産より大切なものをスドノは得ることに成功した。人脈である。後に大統領になるスハルトが、当時中佐としてインドネシア国軍に在籍していた。スハルトをはじめ多くの軍幹部と知遇を得たことが、サリム・グループ成長の大きな起点になったのである。

 スハルトは1968年に第2代大統領に就任するが、アジア通貨危機で失脚するまでの30年の間に、国民経済を大きく成長させた。汚職・腐敗などへの批判も多くあるが、「開発経済」を推し進め、国家と2億人以上の国民の生活を豊かにしてきたのも事実である。

 その間にサリムが手掛けた事業は、セメント、自動車、社会インフラ、資源、農業、食料、食品、小売り、金融と、インドネシア財閥の中でも圧倒的な広がりを持つ。スハルトをはじめ国の中枢内の多くの人脈により、国家建設のさまざまな事業の請負などで独占的な権益を掌中にし、圧倒的な財力を築く基盤になったのである。まさにスハルトと、二人三脚で成長してきたのである。

 アジア通貨危機では、多くのサリム・グループ企業の財務体質が悪化し、中核銀行のバンク・セントラル・アジア(BCA)を含むかなりの資産売却を余儀なくされた。反政府デモで国が混乱する中、スドノはインドネシアを出国してシンガポールに移住。三男のアンソニーが事業を継承した。スドノは後にアメリカに移住し、2012年に逝去した。

 アンソニーは食品事業を強化し、パームプランテーション、精油、砂糖、製粉、パスタ・麺、菓子と、川上から川下まで網羅した強力なサプライチェーンを構築した。食品事業の中核企業はインドフード・サクセス・マクムールで、即席麺85%、スナック菓子60%、ベビーフード40%など、圧倒的なシェアを誇る。即席麺のブランドであるインドミーは、世界で最も認知され、流通している即席麺と言われている。このセグメントにおいては、日清オイリオやアンデルセンなど複数の日系企業との提携を行っている。

サリム・グループ2

 また小売り・流通部門では、KFCのフランチャイズ、パスコと組んだ製パン、インドマレットというブランドでのコンビニエンスストア事業などを展開。2013年に持ち株会社のインドリテール・マクムール・インターナショナルを頂点に体制を変更し、本セグメントの強化姿勢が顕著になっている。インドマレットの店舗数は、小規模店舗まで含めると約1万7000店舗あり、ファミリーマートの101店、ローソンの37店を大きく引き離している。

 近年Eコマースに注力しており、2017年に電子マネーのライセンスを取得し、電子マネーのアプリ制作企業に出資もした。食品事業などの既存事業とコンビニエンスストアにおけるリアル店舗を用いていかにEコマース事業を立ち上げていくか検討しているものと思われる。

 サリムはアジア通貨危機でBCAを手放して以来、金融から遠ざかっていたが、2017年に中堅のバンク・イナを買収。フィンテックを活用してどのような金融事業を創設していくのか注目される。このような動きの中で課題となるのが、物流機能の高度化である。コンビニエンスストアビジネスの高付加価値化やEコマースのためには、温度帯管理(コールドチェーン)や宅配のノウハウが必須となってくる。

 2015年にセイノー・ホールディングスと立ち上げた合弁会社がグループの今後の成長に果たす役割は大きいと思われる。サリムは、近年フィリピンでのインフラ・天然資源分野での投資にも注力している。サリムのフィリピンにおける事業領域は、高速道路、電力配電、上下水道、通信、病院と幅広く、現地でも大きなプレゼンスを誇っている。かつてインドネシアで築いた圧倒的な資産が、通貨危機で大きく毀損したのを教訓として、インドネシア国外での分散投資を行っているものと推察されるが、自国外の投資としてはきわめて大規模なものだ。

 アンソニーの後継者は三男のアクストン(Axton Salim,1974年~)と目されている。2002年にコロラド大学ボルダー校を卒業。その後、クレディ・スイス勤務を経て、2004年からサリム・グループの中核企業インドフードに入社。2009年から現在に至るまでインドフードの取締役を務めている。

サリム・グループの近時のM&Aおよび戦略的提携

2015年 9月 セイノ-・ホールディングスと物流事業における合弁会社を設立。Eコマースにおける宅配事業を強化
  11月 インドマルコとアンデルセンが、製パン用冷凍生地の製造販売の合弁会社(タカキ・インドロティ・プリマ)を設立
  12月 マレーシアの養鶏・鶏肉加工大手のCABチャラカンとインドネシアで合弁会社設立
2016年 2月 資源大手のリオ・ティントが豪州に保有する石炭鉱山を約270億円で買収
    インドネシアに進出しているロッテとEC事業を立ち上げ、スーパーマーケットのリアル店舗を持つロッテにネットを融合し、オムニチャネル戦略を加速
  5月 フィリピンのインフラ事業の推進母体であるメトロ・パシフィック社は、現地のGTキャピタルと資本業務提携を行い、インフラ事業を強化。GT社がメトロ社の株式15.6%を保有(710億円)し、メトロ社はGT傘下の電力会社 グローバル・ビジネス・パワー社の56%を524億円で買収
  8月 日清オイリオの子会社である大東カカオと、インドネシアのチョコレート事業の合弁設立に向けて協議を開始
2017年 5月 中堅銀行バンク・イナ・プルダナの株式の5割強を取得し、アジア通貨危機以来、約20年ぶりに銀行業に再参入。CVSやIT事業と連携させて、電子決済などに力を注ぐ考え
  8月 ECサイト「エレべニア」の運営会社XLプラネットを買収。中国のEC最大手のアリババ集団のような強力で国際的に勢力を広げるECとの戦いに備える狙い。また同時に金融当局より電子マネーのライセンスも取得
  10月 KKRがニッポン・インドサリ・コルピンドの株式12.64%を7,400万ドルで取得
  12月 2012年にアサヒ・グループホールディングスと設立した清涼飲料事業のJVにおける持ち分を全て買い取り、100%子会社化した
2018年 4月 メトロ・パシフィックがベトナムの水道会社トゥアン・ロック・ウォーター・リソーシズ・インベストメントの株式49%を取得
  8月 電子マネーのアプリを提供するユータップ社に出資
  10月 経営危機に陥っているシンガポールの水処理大手ハイフラックスに約430億円の出資と融資。本件後ハイフラックスの株式の60%を取得

日系企業との提携スタイル詳細

 サリム・グループのコア事業は食品と小売りで、これらの2事業で売り上げの約75%を占める。中心企業であるインドフードやインドマレットと提携している日本企業も多く、その提携ストラクチャーをここにまとめた。

 各社のプレスリリースを読めば、インドネシア市場の大きさに対する期待がよくうかがえる。

 合弁会社における持ち分は、それぞれの役割に応じてどちらが過半を握るかが決まってくるが、ジェーシー・コムサの例では、サリムはジェーシー・コムサ本体にも出資している点で特徴的である。

アサヒ・グループとの合弁事業

アサヒ・グループとの合弁事業

 アサヒの提携ストラクチャーは非常に複雑である。ここでは製造担当の合弁会社と販売担当の合弁会社を作り、製造側でアサヒがマジョリティーを、販売側でサリムがマジョリティーを取るかたちになっている。

 ところで、アサヒとサリムの合弁は、インドネシアの清涼飲料市場の成長を見込んでのものであり、設立は2012年である。しかし、市場の成長が当初の思惑とは異なったようで、2017年に合弁を解消。事業はサリムが引き継ぎ、持ち分を100%とした。

インドマルコ・プリスマタマとの合弁事業

インドマルコ・プリスマタマとの合弁事業

サトレストランシステムズ プレスリリース(2012/12/25)

「経済成長著しい、東南アジア市場への足掛かりとして、世界4番目の人口を有するインドネシア市場において『より多くのインドネシアの方々に本物の日本食をよりリーズナブルなお値段で提供し、豊かな食文化に貢献する』ことを目指します。」

ダスキン プレスリリース(2015/5/11)

「インドネシアは世界第4位の人口を有し、経済も継続的に成長。外食市場も拡大を続けており、東南アジア各国で展開しているミスタードーナツ事業はインドネシアの皆様からもご支持をいただけるものと考えております。」

「2015年末までにインドマレット展開での出店含め約50店舗、3年で約200店での販売を目指します。」

アンデルセン プレスリリース(2015/11)

「東南アジアにおけるベーカリー事業展開のため、インドネシアの財閥のひとつであるサリムグループ傘下のインドマレットグループと、インドネシアを拠点とする冷凍パン生地製造事業について基本合意しました。今後、インドネシア国内外のベーカリーへ高品質な冷凍パン生地を供給し、インドネシアにおける新しい食文化の発展への貢献をめざします。」

日清オイリオ・グループとの合弁事業

日清オイリオ・グループとの合弁事業

日清オイリオ・グループ プレスリリース(2017/2/8)

「インドネシアをはじめとする東南アジア各国では中間所得層の拡大と購買力の高まりにより、チョコレート市場の裾野が確実に広がってきております。大東カカオは、かねてよりこの有望市場でのチョコレート事業への参入を検討しており、2016年8月3日にSIMP社との間で基本合意書(MOU)を締結して以来、合弁会社設立に向けての協議を進めて参りました。

 今般、合弁会社を設立することにより、高度なチョコレート製造技術を有する大東カカオと、インドネシアをはじめ東南アジアにおいて高い市場プレゼンスと強固な事業基盤を有するサリムグループが、互いの強みを発揮することにより、同地域におけるチョコレート事業への参入を効果的に実現できるものと考えております。」

ジェーシー・コムサとの合弁事業およびM&A

ジェーシー・コムサとの合弁事業およびM&A

ジェーシー・コムサ プレスリリース(2014/3/28)

「インドネシアでピザ並びにパスタを主体とする各種小麦粉製品の生産・供給体制を構築、整備し、外食事業の展開を通じて急速に伸びつつある同国内での中間所得層のニーズに応えるために、合弁会社を設立いたしました。JCCOMSAが半世紀に亘って培ってきた小麦粉製品に関する経験と、アジアでも有数の規模で行っているインドフード社の製粉事業及びICBP社の高い市場認知を結び付けるものであり、急成長が見込まれるインドネシアの市場確保を目指します。」

今後の注目ポイント

  • フィンテックを活用した決済・マイクロファイナンス事業の取り組み
  • 食品事業・金融事業とのシナジーによるコンビニ事業の高付加価値化
  • コンビニ事業の高付加価値化に必須である物流体制(コールドチェーン)の構築
  • ハイフラックスへの出資とフィリピン・ベトナムのインフラ事業のシナジーの構築

 本書『ASEAN企業地図 第2版』では、サリム・グループを始めとする各国54の有力企業グループを紹介しています。ASEAN進出を検討する企業の方におすすめの1冊となっています。

ASEAN諸国地図 第2版

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ASEAN企業地図 第2版

著者:桂木麻也
発売日:2019年1月30日(水)
価格:2,808円(税込)

本書について

ASEANの有力企業グループの近年の動向を解説。これからASEANに進出したいと考えている企業の方はもちろん、ASEANに最近進出した企業の方、投資家にも役立つ内容となっています。

 

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/02/08 07:00 https://markezine.jp/article/detail/30115