相次ぐデジタル関連部署や人材の設置
最近、「デジタルトランストランスフォーメーション(DX)」という言葉をよく目や耳にしないだろうか。筆者が2018年8月にMarkeZineに寄稿した「5年後に備えて、マーケターはテクノロジーをどう捉えるべきか?」でも、テクノロジー(主にデジタル)の重要性を説いた。そして、その記事を受けて2019年3月8日に実施した「MarkeZine Premiumセミナー」でも、受講生のほとんどの関心が「サブスクリプション」や「5G」「AI」「動画」といった分野に集中しており、その注目度の高さが見て取れた。
また近年、デジタル関連部署や人材の設置も相次いでいる。2013年には米国でCDO Club が設立され、2017年11月には、その日本支部とも言える一般社団法人CDO Club Japanが設立されている。筆者がFacebookでDX組織やCDO設置事例を問いかけてみたところ、「4月よりCDOに就任します」「新しい組織が立ち上がります」「(メディアで)特集記事を組んでいます」など多くの反応を得ることができた。
たとえばパーソルホールディングスでは、今年4月1日よりグループデジタル変革推進本部を設置し、ヤフーの前マーケティング&コミュニケーション本部長であった友澤大輔氏がCDOに就任するということである。その他、江端が関与している企業などでも、新しい部署の設立や役職の就任が相次いで聞かれる。この記事の翌週に新元号が発表されるが、それに呼応するように新しい時代のアナウンスがされるのではないだろうか?
以上のことからも、DXがトレンドであるのは明らかだ。そこで本連載では、様々なDXに関わるトピックスを取り上げ、みなさまが抱いている疑問にお答えしていく。
サブスクリプションビジネスの盛り上がり
初回となる今回は、DXの中でも特に盛り上がりを見せている「サブスクリプション」を取り上げる。デジタルコンテンツのサブスクリプションは、「Hulu」「Netflix」「Amazon Prime Video」「DAZN」などの動画系サービスや、「iTunes」「Spotify」「AWA」「LINE MUSIC」などの音楽系サービスを中心に発達してきた。そして、なんと筆者がまさに本原稿を入稿したその日に、米Appleが定額制のニュース配信サービス「アップルニュース+(プラス)」を開始したと発表した。
最近では、インターネットを中心として発展している新しいモデルとして、洋服/ファッションとの出会いサブスクである「airCloset」や、美容室でシャンプーブロー/ヘアケアが通い放題の「MEZON」、月額4万円で全国住み放題の「ADDress」など、従来なかったライフスタイル型のビジネスモデルが立ち上がり、活況を呈している。
“サブスク“は、日本人に合っている?
サブスクとは、「定額制で利用ができるサービス」と考えるのが妥当だろう。定期販売の通販もサブスクに近いが、利用制限がある意味では、ここでいうサブスクの定義には当てはまらない。また、日本で古くからある「富山の薬売りモデル」も、利用した分を課金するという仕組みではあるが、「他のブランドにスイッチしない」ということでは似ているモデルと言えるだろう。
筆者は、「サブスク型のビジネスモデル」は日本人と非常に相性の良いものだと感じている。理由として、まず日本独自の「一見様お断り」や「お得意様・会員制」といった考え方がある。これらは、おもてなしの精神からきているものであり、リピート率の高さから成立しているものだ。いいサービスを提供し続けることで安定した顧客を確保し、顧客も満足して何回もリピートする。この構造は、サブスクのビジネスモデルでは最も重要な側面であり、日本人が元来得意とする分野でもあるのだ。
また、筆者は「お小遣い制度」や「勤務先の年末調整」といった、社会慣習や制度も、日本人にサブスクが好まれる理由のひとつではないかと考えている。「Amazon Prime Video」や「dマガジン」といった定額コンテンツサービスは、お小遣い制のビジネスパーソンにとっては大変ありがたいサービスであり、利用者も多いと考えられる。また、米国など諸外国では全員が確定申告をするが、日本では源泉徴収や年末調整といった制度が普及しているため、「必要な分はあらかじめ天引きされる」といった感覚でサブスクリプションは無理なく受け入られる土壌が存在するのではないだろうか。