「検索」は興味と購入に直結している
新型コロナウイルスの影響は、ビジネス、ライフスタイルにはじまり、人々のモノやサービスに対するニーズにも大きな変化をもたらしている。そのニーズの移り変わりを上手くキャッチアップしていくことが、今後のマーケティング活動にとって欠かせないことだろう。
withコロナ時代において激動するニーズをどう掴むか。この課題に対し、ヤフーのデータソリューション事業本部長である谷口氏は、ヤフーが保有するビッグデータの活用を手段のひとつとして挙げる。
ヤフーの保有するビッグデータは、5,000万人以上の月間ログインID数で100を超えるサービスを提供する「Yahoo! JAPAN」から得られるもの。日本のネットユーザーのうち、スマートフォンで約9割、PCでは約7割にリーチする圧倒的なカバー力と、男女比率や年齢差が少なく、あらゆる属性のユーザーにリーチできるといった特徴を谷口氏は説明する。
「1日を通して、様々なサービスを利用していただいているため、多くの方の動向や興味関心をデータとして預かっています。それにより朝の通勤から就寝前まで生活シーンをカバーできていると考えています」(谷口氏)
様々な行動データを保持し、分析に活用している中、同社がマーケティングデータとして最も有効と考えているのが「検索データ」だ。そこには生活者が実際に欲しいものや知りたいことなど、大量かつ多様なニーズが含まれていると言う。
消費者を知るための主流となっている手段で言えば、他にもアンケート調査や、SNS上の投稿を元にした方法もある。しかし、アンケート調査の場合は事前に用意された質問とそれに対する回答のデータしか取れなかったり、SNSだと投稿するユーザーに偏りがあったりという欠点も存在する。一方、検索データでは潜在的・本能的に気になっていることまで抽出可能であり、公開意思のある内容に限って知ることのできる使い勝手の良さもある。
さらに谷口氏は、検索データを利用する大きな理由として、検索が「興味」と「購入」に直結していることを挙げた。
「検索は行動の基点になります。そのため、それをデータで捉えることが生活者を理解し、影響をおよぼしたいと考える時に大事なものと考えています」(谷口氏)
検索ワードからコロナで「増えた/減ったコト」も把握
では検索データを使ってどんなことができるのか。谷口氏は最近のコロナの状況を踏まえ、コロナPCR検査陽性者数推移とヤフーのビッグデータで分析した例を語った。
この分析では陽性者数推移と検索ワードのグラフの波形を観察し、時系列もしくは一定の範囲で同じ波形の箇所がある場合、相関性がある検索ワードとして判断していった。
陽性者数推移と正相関が認められるもので言うと、「地域名+コロナ」といったワードは波形がかなり一致した。エリア内の感染状況を把握しようというのが見受けられる。その他は「ワクチン」「潜伏期間」など、感染者増大にともなって気になるワードの検索量が増えたようだ。
感染者の数から時期が数日ずれて正相関が見られる検索ワードもある。たとえば「肩こり 頭痛」などの体のトラブルや、テイクアウト関連、アウトドア関連のワードなどだ。
このようにヤフーのビッグデータでは、特定の事象から一定期間をおいて起こる消費者の変化を、データで機会的に捉えることが可能だ。相関が「マイナス」となるものも分析可能で、今回の場合だと「転職関連」「外食」「ブランド系購入」「美容」などのトピックは逆に生活者が控える傾向が見えた。
時間での変化を分析することで、次のようなメリットが得られると谷口氏は言う。
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「詳細なペルソナ」によりニーズの解像度を向上
ヤフーでは、こうしたデータを企業や自治体の事業活動にも活用できるようにしたいという思いから、データソリューション事業を昨年から開始した。
現状ヤフーのデータソリューションが提供しているのは、「DS.ANALYSIS」と「DS.INSIGHT」の2つのサービスだ。
「DS.ANALYSIS」ではデータアナリスト、コンサルタントとチームを組むことにより、企業の課題に沿ってオーダーメイドに分析することができ、「DS.INSIGHT」ではヤフーのビッグデータをブラウザ上で調査、分析できるものとなっている。セッションでは、谷口氏がそれぞれのサービスについてさらに詳しく紹介した。
「DS.ANALYSIS」では、Yahoo! JAPANが保有する100以上のサービスから生まれるビッグデータを活用することで、多様な分析が可能になっている。たとえば「市場・トレンド把握」、「ユーザージャーニーの精緻化」、「マーケティング効果測定」、「アイデアの抽出・スクリーニング」など、様々な用途に利用できる。
データの活用例としては、大手小売業と行った商品開発・コミュニケーション分析の例が語られた。同社ではユーザー起点での開発の必要性、既存の調査から得られるターゲットとニーズの解像度の曖昧さ、調査手法の非効率性に課題を感じ、「DS.ANALYSIS」を活用したと言う。
分析テーマは「体重ケア」。まずダイエットやホットヨガなど、テーマに関する特徴的な検索ワードを抽出し、その言葉の検索パターンから生活者をクラスタリング、さらに分析してクラスタ別にペルソナ把握、商品開発やコミュニケーション施策への落とし込みを進めていった。
たとえばクラスタのひとつ「成果が出ないお悩み層」は、体重ケアをしているのに思ったより成果が出ない人や、停滞期に入っており悩んでいる人、打破するための商品や情報が欲しい人とペルソナが立てられている。
具体的な検索ワードに、「糖質制限 痩せない 女性」など、効果が出づらくなっている様子がうかがえる検索をしている一方、トレーニングウェアなどダイエットに関するファッションについてはあまり検索されていない特徴が出ていたりする。
実際にはこうした詳細なペルソナを10個ほど用意し、分析を深めていった。
「分析後には、『課題であった消費者理解の度合いが深まった』『検索ワードが見えるためペルソナを具現化できた』『意外な検索ワードから商品開発の発想が広がった』という評価をいただきました。
また、定量的なデータにより『社内認識の統一ができ、効率的に次に担うターゲットが定まった』という声もありました」(谷口氏)
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「詳細なペルソナ」によりニーズの解像度を向上
もうひとつのサービス、「DS.INSIGHT」には、主な機能として検索データを中心に生活者の興味関心を可視化する『People』と、位置情報を中心に特定エリアにおける生活者の実態や動きを可視化する『Place』の2つがある。
「DS.INSIGHT People」の主な機能には、同時に検索されたキーワードを検索量とともにランキング形式に可視化や、特定の検索ワードから関連ワードを導き出す「キーワードマップ」、検索した前後の動きからニーズを把握する「時系列キーワード」、「検索推移」などがある。
一方の「DS.INSIGHT Place」は、特定市区町村における「人口推移」や、「来訪者・住民属性」の確認、指定地域に来訪している人がどこから来ているか「来訪元の市区町村ランキング」などの機能を備えている。
セッション当日は、実際の画面によるデモンストレーションが行われ、活用事例も紹介された。
トレンド把握
講談社のファッション誌『VOCE』の編集部では、雑誌の企画に活用している。それまでは勘や会話から企画が出されていたが、検索上昇ワードから読者に反響のありそうなファッションに関するキーワードを抽出し、編集部内で情報共有がされるようになった。
購買ジャーニー可視化
ある自動車用品小売店では、タイヤ購入からのクロスセルができていないという課題から、「タイヤホイールセット」を検索した人の時系列キーワードを調査。それで見ると1日後に「レーダー探知機」、3日以内に「バックモニター後付け」、「車中泊マット」というように、どのタイミングでどのニーズが発生するかが把握できたため、プロモーションに活用した。
反響確認・コーナー企画
テレビ局で活用された際は、番組で取り上げた商品の反響を可視化できるようにしたいと、放送後の効果検証に使用。検索推移や共起ワードから、どの程度の人が注目したかを可視化した。
プライバシー最優先で安心できるデータ活用へ
これらのデータソリューションには、続々と新機能が追加されている。最近では「時系列キーワード」からさらにニーズを顕在化しやすくするためのカテゴリフィルタや、DS.INSIGHT Placeのエリアをより詳細に設定ができる機能が追加された。また今秋に向け、現状特設サイトを通して提供しているDS.INSIGHTデータを、APIで提供できる「DS.API」のサービスも準備中だ。
最後に、谷口氏はそうしたサービスを展開するうえで、プライバシー保護を最も重要なこととして考えていると強調した。
「当社のサービスやソリューションでは、プライバシーに対する取り組みを最優先のものとして考えています。個人情報が含まれない統計データでの提供となりますので、安心してご活用いただければと思います」(谷口氏)
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