消費者変化の手がかりをつかむには?
↓音部氏を迎えた「マーケティング戦略の大転換」第7回のダイジェストはこちら↓
消費者の価値観や生活が大きく揺れ動いた2020年。ビジネスパーソンとしても一個人としても、多くの方が新しいスタンダードが定着しつつあることを感じているのではないだろうか。新年度に入るにあたり、今回のWebセミナーでは大きく「マーケターに求められる新常識」と掲げ、以下の4つのテーマを掲げた。
1.消費者変化を理解する
2.ブランドに求められる顧客ロイヤルティの再構築とは
3.D2C、DNVB(Digitally Native Vertical Brand)の台頭が意味すること
4.マーケターに求められる新たな役割とは
まず、この“新しい時代”を生きる消費者を捉えるのに欠かせない、ゼロパーティデータについて押さえておきたい。ゼロパーティデータとは、従来のトランザクション、たとえば購入や来店といった表層的な行動からは見えてこない、個人に尋ねて初めてわかるような好みの傾向、購入意向などのデータを指す。顧客がみずからの意志で企業やブランドに提供してくれる、個人にまつわる貴重な情報だ。ここから、顧客の具体的なインサイトや困りごとをつかむことができる。
「コロナ禍のような社会が大きく変わる時期には、消費者がその影響を受けた部分と、それでも変わらない部分に注目すると、マーケティングのヒントが得られます」と加藤氏。以下の図を使いながら旅行業界の例を紹介した。
消費者の変化に対応した例として、エイチ・アイ・エスでは「旅行に行けないが願望はある」ことを捉え、オンライン体験プランを販売。また、ブランド接点を維持したい企業の課題と運動不足という消費者側の課題を結び付け、日本航空が歩いてマイルが貯まるサービスを開始している。
ブランドに求める属性・条件が変わりつつある
消費者の行動の変化について、マーケターとしての観点を問いかけられた音部氏は「『新型コロナでビジネスが低調』と現象だけを捉えるのではなく、『新型コロナによって消費者の認識や行動が変化したからビジネスにも影響が出た』と捉えると、次の一手も考えやすくなる」と答える。
行動が変わる背景には、必ず心理の変化がある。「特に、選ぶブランドが変わった際は、消費者が重視する属性の優先順位を確認することが大事」と音部氏。たとえばエアコンなら、以前は「換気ができること」を気にする人は多くはなかったが、コロナ禍においては「換気もできる」という点を訴求するブランドが増えてきている。
「つまり『良いエアコン』の定義が変わっている。こうした商品定義の更新が、コロナ禍においては各所で起きています。消費者理解において、どんな属性や条件の優先度が上がり、どれが下がっているのかに注目するのは重要な要素の一つだと思います」(音部氏)
動画本編【2:00~】ではゼロパーティデータの定義とCookie規制を踏まえた重要性を、【4:24~】では消費者の変化をどう捉えるべきか、音部氏とのディスカッションが収録されています。視聴はこちら!
4Pにもう一つのP「Participation=参加」が加わる
消費者の変化を踏まえて、各業界ではマーケティングの4Pの見直しが進んでいる。加藤氏は4Pのすべてに見直しがかかっていることを指摘する。
4P変化に対応した取り組みとしては、リモートワークに対応したオンラインホワイトボードが登場している。また、生鮮品の産直EC「食べチョク」は、従来の生鮮品購入とはPriceやPlaceが異なっており、それがコロナ禍の消費者ニーズや生産者のニーズにマッチして、流通総額が35倍にもなっているという。
「4Pはあくまでマーケティングの実行手段なので、環境に合わせて変化していきますが、誰にどんなベネフィットをお届けしたいのか、という点はそうそう変わるものではないはずです。ベネフィットに焦点を置くと、必然的にいまの環境下でできることに気づけるのではないかと思います。また、消費者と直接やりとりすることが困難ではなくなってきた環境下では、消費者の参加(Participation)も重要な概念かもしれません。参加や共創の要素をどう盛り込むかは、今後のブランドマネジメントで重要になりそうです」(音部氏)
動画本編【7:00~】では、4Pの変化と“5つ目のP”について詳しく解説しています。視聴はこちらから!
ロイヤル顧客の存在がますます重要に
次のテーマは、顧客ロイヤルティの再構築。チーターデジタルの行う顧客ロイヤルティの研究では、(1)エントリーからスーパーロイヤルユーザーの顧客数と売上構成の関係を可視化し、(2)売上向上にインパクトを与える層の発見とアプローチ方法を検討するという2つの枠組みが主に探られている。新規獲得ではなく、既存顧客のロイヤルティを高めることで、追加購入を促すことから、後者を「ロイヤルティ エコノミクス」と称する。
ロイヤルティエコノミクスの構築に成功した事例として、アパレル企業のアメリカン・イーグル・アウトフィッターズをあげる。顧客層の分析から、40~50代中心のロイヤル顧客の年齢層を引き下げることで経済圏が拡大すると判明。新たに狙いたいターゲット層に合わせてロイヤルティプログラムを再構築することで、実際に主な顧客層を13~34歳に引き下げ、年間収益を大幅に増大させた。
「ここでベーシックな質問ですが、ロイヤル顧客はなぜ大切なのでしょうか?」との加藤氏の問いに、音部氏は「ロイヤル顧客は、ブランドが大事にする信念と自身の価値観が一致していることを心地よく感じている可能性が高い人だから」と応じる。
「“類は友を呼ぶ”というように、その人の周囲には同じ価値観や信条を持つ人が集まり、グループを形成しています。かつ、同じグループの人の意見は聞き入れられやすいので、『ロイヤル顧客は、未来のロイヤル顧客の友人』である可能性が高いと言えます。今後、信条や価値観に基づいた消費が重要になるほど、ロイヤル顧客は周囲への影響力を持つという点で重要度が増すと思います」(音部氏)
続いて、テーマは3つ目の「D2Cブランド登場の意味」へ。加えて今、「DNVB」-Digitally Native Vertical Brandという呼称も出てきているという。
動画本編【18:04~】ではD2Cブランド登場の意味とDNVBの特徴を解説。視聴はこちら!
D2C、DNVB躍進の背景には「ブランドがもつ力」への着目が
既存のメーカー企業がD2Cに乗り出すケースが増えている一方、DNVBと呼ばれるブランドも台頭している。DNVBは、デジタルネイティブで生まれて一定市場(バーティカル産業)に特化し、特定の価値観を重視したブランドと定義されている。アパレル企業のBonobosを創業したアンディ・ダン氏の造語が語源で、同企業もDNVBの成功例として知られている。ブランドを育てることを重視しており、顧客接点もECに限らず、SNSや体験を重視した店舗を通じてブランドのストーリーを伝え、共感を醸成することに注力している。
前述のBonobosは創業10年後の2017年、ウォルマートに買収され、また髭剃り用のカミソリをサブスクで提供するDollar Shave Clubは、ユニリーバに買収されている。独自ブランドとして着々と伸ばしている例には、製造コストからマージンまですべてを開示しているアパレルのEverlaneや、エアロバイク本体にエクササイズ動画のサービスを付帯したPeltonなどが挙げられる。
こうしたブランドのマーケターにとっての意味や、ロイヤルティとの関係性とは何だろうか? 音部氏は「D2CもDNVBも、消費者と直接インタラクションを図っている点では同じ“ブランド”だと理解している」としながら、「狭義のプロモーションを担う方々だけでなく、開発や物流や情報提供など、さまざまな部門の方々が消費者と直接つながってブランド体験を提供していることが重要な点だと考えています」と続ける。
「マスマーケティングを行っていたブランドと比べると、営業や店頭などの支援者の努力によって消費者にリーチすることが難しい。だからこそ、ブランドそのものの力の影響力が増し、ブランドマネジメントに対する負荷と期待は大きくなります」と音部氏。以降、D2CやDNVBとロイヤルティの関係、そして音部氏が考える「マーケターの新たな役割」ついては、ぜひ【動画本編19:30】からご覧いただきたい。
「マーケティング戦略の大転換」第7回 主なトピック
【2:00~】ゼロパーティデータの定義をおさらい
【4:24~】消費者の変化をいかに捉えるか?
【7:00~】4Pの変化と“5つ目のP”
【12:54~】顧客ロイヤルティの再構築
【18:04~】D2Cブランド登場の意味とDNVBの特徴
【19:30~】※レポート未掲載トピック※D2CやDNVBとロイヤルティの関係、音部氏が考える「マーケターの新たな役割」動画の視聴はこちらから!