GAFAMも活用している「ユーザー行動分析」ツール
「ユーザー行動分析とグロースハックには密接なかかわりがある」、セッションの冒頭そう切り出したのは、Amplitudeのカントリーマネージャーを務める米田匡克氏だ。
米国サンフランシスコに本社を構えるAmplitudeは、「ユーザー行動分析」を提供するプロダクトアナリティクスのユニコーン企業。「ユーザー行動分析」とマシンラーニングによる「ユーザー行動予兆」で、ビジネス成長の次の一手を導き出している。
同社が提供するグロースハック向けユーザー行動分析ツール「Amplitude(アンプリチュード)」は、Amazon、Facebook、MicrosoftというGAFAMの3社を含め、全世界で4万社のサービス実績を誇る。
米田氏によると、TwitterやPayPal、Airbnbなどグロースハックで急成長をしてきたグローバル企業のほとんどはAmplitudeのクライアントで、昨今話題のClubhouseも行動分析にAmplitudeを活用しているとのことだ。日本市場へは2019年から本格的にビジネス展開を開始し、プロダクトアナリティクス支援を行っている。
そこまで多くの企業にAmplitudeが選ばれる理由は何か。「最大の魅力は、厳選された『最先端グロース向け自動分析チャート』を提供していること」だと米田氏はいう。
アクティブユーザー数、リテンション、ファネル分析などの基本的なものに加え、行動クラスタ分析やマジックナンバー抽出など、グロースハックの手法を取り入れた15種類のチャートが標準搭載されていて、特別な知識がなくともそれらの分析が行える。
「マジックナンバー(先行指標)」とは、ユーザーが「特定のアクション(イベント)を規定回数以上行う」と、サービスの継続率や収益などの重要指標が飛躍的に向上する数字を表している。
有名な例に、Facebookの「『ユーザー登録後10日以内に7人の友達を作る』と、飛躍的にエンゲージメントが高まりFacebookの使用回数が頻繁になる」などがある。こうしたマジックナンバーを瞬時に複数求めることを可能にするのがAmplitudeだ。
Amplitudeを使ったデータ精査を実演
セッションでは、マジックナンバーを求めてユーザーの商品購入率を高める実演が行われた。設定は、「楽曲ストリーミングサービスのグロースを任された担当者」。
デイリーアクティブユーザー(DAU)15万人、マンスリーアクティブユーザー(MAU)50万人。サービスはWebやアプリ、PC、スマホなど、マルチプラットフォームやクロスメディアで展開され、サブスクリプション(定額課金)もしくはコンテンツ課金のビジネス形態となっている。
すなわちアノニマス(匿名)の状態でユーザーがサービスと接触し、無料課金を得て有料課金ユーザーになるモデルを想定する。
なおこのサービスにおいてはユーザーアクション(コンテンツ再生、購入、お気に入り登録など)ごとにAmplitudeに対してイベント(コンバージョン)を発火できるように仕組まれている。
サービスのグロースのため、まずはサービスの現状把握をしていった。たとえば、「アクティブユーザー数の推移」「課金ユーザー数の推移」「リテンション」「LTV」、これらの指標がどうなっているかをAmplitudeで確認する。
【判明したこと】
・過去6ヵ月のアクティブユーザーの推移は横ばい
・過去6ヵ月の課金ユーザー数の推移も横ばい
・流入元でリテンションの違いは見つからない
・流入元でLTVの違いは見当たらなかった
週間アクティブユーザー(WAU)を見ると、25~30万で推移していて、そのうち平均15~16万のユーザーが定額課金の購入に至っていることが判明した。リテンションについては、30日後に約8%という数値に。つまり「新規で100人のユーザーを獲得した場合、30日後に8人残っている」という計算になる。
LTVについては、ユーザー1人あたりの平均売上金額(ARPU)を確認したところ、35週で約1,200円という結果が出た。
購買のカギとなるマジックナンバーの求め方
サービスの現状を把握したところで、次に取り組んでいくのは、「即効性のある売り上げ向上施策の提案」だ。しかし、流入元の違いによるパフォーマンスへの影響が少なかったことから、マーケティング予算の再配分による売り上げ改善は難しいと判断し、既存ユーザーからの売り上げ向上を検討することに。
そこでユーザー行動を分析して特性を理解し、その中から売り上げ向上につながる資産を求める手順を、米田氏が解説した
今回のケースでは、売り上げ向上の可能性として「課金率」に注目し、その向上を図るべく、現時点の既存ユーザーの課金率を把握していった。
【判明したこと】
・過去12ヵ月のユニーク数 約355万人
・過去12ヵ月で課金したユニーク数 約98万人
・過去12ヵ月で課金しなかったユニーク数 約257万人
・課金率は27.7%(72.3ポイントの伸びしろ)
・課金率が1%向上すると、年間約35万人の購買ユーザー増加
・ARPPU(ユーザー1人あたりの平均課金額)が100円の場合、年間3,557万円以上の売り上げ増加見込み
・ARPPU1,000円の場合、年間3億5,500万円以上の売り上げ増加見込み
すなわち既存ユーザーの売り上げ向上施策からは即効性があり、高い経済効果の可能性があることが判明した。
次のステップでは、過去のログデータを使って、ユーザーのどのような行動が課金につながっているかの示唆出しを行っていく。まず集計から直近2ヵ月のWAU推移と購買ユーザーの推移を確認すると、WAUは約28万、ウィークリーの購買ユーザー数は17万人で、どちらも横ばい。
合計ユニーク数は、過去2ヵ月で約80万人、そのうち約30万人が購買に至っており、直近2ヵ月の購買率は38.5%、61.5ポイントの向上余地があることがわかった。
続いて「楽曲の再生をしたことがある人は購買率も高い」という仮説を立てて検証したところ、「週1回以上楽曲を再生しているユーザーは全ユーザーの購買率と比較して、10ポイント以上の向上があること」が判明。
再生回数を増やしてみると、週20回再生の場合は78.3%とより高い購買率であったが、再生数が週50回以上の場合は、全体ユーザーよりも数値が低いという結果になった。
そこで「再生アクション×回数」で最も購買率を上げる組み合わせ、すなわちマジックナンバーを検証していった。通常であれば大変な労力がかかるが、Amplitudeの分析チャートを使うと即座に求められる。
まずは、「新規ユーザーが30日以内に購買に至るまでのマジックナンバー」を求めていく。はじめに対象を「新規ユーザー」、目標コホートを「直近30日以内に購買するユーザー」に設定。集計結果は数秒で導き出され、管理画面には相関関係のあるアクションが相関スコアの高い順に列挙された。
その結果、最もスコアが高かったのは「プロファイルの編集・変更」。詳細を見ると4つにユーザーを区分し、相関関係スコアを求める代表的な6つの公式にあてはめ、その区分ごとに数値を算出している。
なお今回の場合、アクションを1回実行した場合の相関スコアが最も高いものとなったが、これをAmplitudeでは2回、3回……と回数ごとに計算して求め出す。
つまり今回のケースでは、「プロファイルの編集・変更を7日間で1回実行した人たち」がマジックナンバーだと発見された。
マジックナンバー実行による購買率97%、2.3億円の経済効果を算出
では実際にマジックナンバーを実行したユーザーの購買率はいくらなのか、これについても検証された。
具体的には、マジックナンバーを実行したユーザーをコホート化(同じ属性を持つユーザーとしてグループ化)して集計したところ、全体の購買率が38.5%、コンテンツ再生1回以上が48.2%、再生20回の場合78.3%であったのに対し、マジックナンバー実行ユーザーによる購買率は97%と、非常に高い購買率になることがわかった。これにより「プロファイルの編集・変更」がマジックナンバーであることが実証できた。
【判明したこと】
・課金率に向けたマジックナンバー 「プロファイル編集・変更」
・全体の課金率 38.5%
・マジックナンバー実行ユーザーによる課金率 97%
・課金率向上の可能性 59.5ポイント
改善示唆が求まることで、自然と施策設計に向けた工程も効率的に行うことができるようになる。
今回のケースでは、『プロファイル変更』が購入率を高めることが統計的に証明されたので、「プロファイル変更をしていない。かつ未購入のユーザー」を対象に、「プロファイル変更」を促すような施策を打っていくような基本方針を打ち出せる。
施策の基本方針が設計されると、施策実行による経済効果を見積もることも可能になる。それが次の公式だ。
公式の要素でまだ確認できていなかった、「ターゲットユーザー数」と「(プロファイル変更ユーザーの)購入単価」も求め、出てきた数値を公式にあてはめていく。
97%(購入率)×16万8886人(ターゲットユーザー数)×13.4ドル(約1400円)(購入単価)=月間約2.3億円
「今回の例はあくまでデータ上の机上の計算になりますが、最大2.3億円の向上余地があることを確認することができました」(米田氏)
クライアントのROI効果は平均655%
また、ビッグデータ分析手法によるROI効果がいかほどなのか、これに関しては、Amplitudeが独自に第3者機関「Nucleus Research社」を使った調査を実施したことで明らかになっている。
それによるとAmplitudeクライアントのROI効果は平均655%という結果に。これについて米田氏は、「昨今アナリティクスが進化し、改善示唆を求める作業がオートメーション化されるようになったことで精度の高い施策実施へとつながり、平均655%のROI効果を確認することができています」と説明する。
セッションの最後には、Best of Breed型(必要な機能を自由に組み合わせてプラットフォームを作っていく型)のシステム構造を採用し、既存のMAとの連携がプラグインで容易にできるような仕組みを築いていることにも言及。
「パートナー企業と共にイベント設計、導入支援、運用支援を含む総合的なグロースマーケティング支援を提案していく」と話し、セッションを締めくくった。