リアルとデジタルで混在したデータの活用に苦戦
MarkeZine編集部(以下、MZ):はじめに、それぞれ自己紹介をお願いします。
志水:Groupe PSA Japanの志水です。私は、プジョーのブランドマネージャーとして、マーケティング計画の立案、広告宣伝、コミュニケーションコンテンツ開発、ディーラーマーケティングなど、マーケティングコミュニケーション全般を担当しています。
岩本:オプトでデータテクノロジー部門の部長として、主にマーケティングにおけるデータ基盤などのテクノロジー導入を担当しています。オプトは、Cookieレス時代にデータを管理・統制して配信する仕組みとして「ONE's Data」を開発しており、私はこの製品のプロダクトマネージャーを務めています。
河村:Facebook Japanでソリューション担当として、自動車業界のお客様のFacebookおよびInstagramを活用したプランニングやシステム導入のサポートをさせていただいております。
MZ:早速ですが、今回プジョーがオプトのONE's Data導入し、「Facebook Conversion API(以下、CAPI:キャピ)」の実装に至った背景を教えて下さい。マーケティングにおける顧客のデータ活用にどのような課題があったのでしょうか?
志水:自動車は、現在はオンラインで購入する商材とはなっておりません。そのため、購入者のリアルなデータは高い品質で取得できていますが、その前段階の部分で課題を抱えていました。ショールームへの来場者、カタログ請求や来場予約をいただいたお客様など、アッパーファネルのデータの質が必ずしも精緻なものではない場合もありました。
ウェブから来場予約をされる方もいれば、広告を見て興味を持ってくださり、予約なしにそのまま来店される方もいらっしゃいます。リアルとデジタルが混在しており、見込み客を来場前に把握したり、デモグラフィックデータを広告宣伝に活用したりするといったことに、まだまだ改善の余地が残されていました。こうした状況があり、さらにCookie規制に対する対応を考えなければならず、以前からお付き合いのあったオプトさんに相談しました。
Cookieレス対応における事業主側のハードル
MZ:Facebookをマーケティングチャネルとして取り入れている企業は、Cookie規制にともない、今後どのような支障が出てくるのでしょうか?
志水:Facebookは高精度なパーソナライズが可能な“頭のいい”媒体です。ブラウザ側がサードパーティCookieの利用に制限をかけるCookieレスの流れを受けると、前述のFacebookの優れた頭脳を使いこなせなくなります。つまり、見込み客に効率よく広告を配信するのが難しくなることが考えられます。
MZ:FacebookはCookieレスへの対応策としてCAPIを提供しています。このCAPIについて、詳しく教えてください。
河村:Facebookはこれまで「Facebookピクセル」として、Cookieを使ったサードパーティデータに基づく仕組みを提供してきました。Cookie規制により、これまで通りのデータの受け渡しが難しくなることを受けて用意したのがCAPIです。具体的には、広告主のサーバーとFacebookのシステムを直接繋ぎ、広告主が保有しているデータをFacebookの広告システムプラットフォームと連携させる仕組みになっています。これにより、広告配信の効率化や計測が可能になります。
メリットは、Cookieに頼らない点だけではありません。広告主や代理店側でサーバーに送るデータの種類やタイミングを設計できるので、透明性を確保した状態でデータの受け渡しができます。
MZ:オプトのONE's Dataは、このCAPIを活用したマーケティングを支援するソリューションです。開発・提供に至った背景を教えてください。
岩本:CAPIを使うためには、サーバーを立ててデータを収集し、集めたデータをCAPIの仕様に合わせて送信する仕組みを準備する必要があります。これはエンジニアなしには難しいのですが、エンジニア側に必ずしもマーケティングの知識があるわけではありません。社内にマーケティングの知見があるエンジニアがいない場合、外注するにしてもコストや時間で大きな負担が生じます。そこで、スムーズにCAPIを使えるように開発したのがONE's Dataです。
リアルとデジタルのデータを“活用できる形”で統合
MZ:プジョーでは、ONE's Dataを導入してどのようなデータ環境を構築されたのでしょうか?
岩本:はい。まず、プジョー様のWebサイト上で得られるユーザーデータをONE's Dataに収集します。加えて、プジョー様の基幹システムにある来店や予約などのオフラインデータもご提供いただき、ONE's Dataでオンラインデータと結合します。そして、ONE's Data側で必要なデータを成形し、CAPIの仕様に合わせて送るという形です。
こうすることで、Cookieレスにも対応することができますし、データガバナンスに関する問題もクリアできます。さらには、ブラウザが軽くなるというメリットもあります。
MZ:オプトにしてみれば、広告運用をサポートする代理店としての枠組みから一歩踏み込み、CAPIと事業主のデータの橋渡し役をするというイメージでしょうか?
岩本:その通りです。これまでのように広告運用を代行するだけでなく、今後はお客様と一緒に事業目標を達成するパートナーになるというのが我々の目標です。プジョー様の場合は自動車の販売完了までのプロセスでデータを可視化したいという目的もあり、それを満たすために必要なところまで併走させていただきました。
河村:システムインテグレーターは、“データを溜める”ことに特化したソリューションやスキルをお持ちですが、“データを活用する”ためには、これに加えてマーケティングコミュニケーションにおけるスキルも必要です。オプトさんは、データを溜める部分とコミュニケーションで活用する部分の両方を備えているという点で特異な存在であり、ONE's Dataは便利なソリューションだと感じています。
Cookieレスへの対応は“守り”だけではない!
MZ:今回の導入によりプジョーではどのような成果が得られたのでしょうか? オンラインとオフラインのデータを結びつけられたことで、何か明らかになったことはありますか?
岩本:Facebookピクセルのみと、FacebookピクセルとCAPIの両方を使った配信とを比較するテストを行ったところ、CAPIの使用により獲得件数が33%増加しました。また、それに対する獲得コストも25%削減することができました。
Facebookは頭がいいので、ランディングページや申し込みなどの効果を学習し、これまでも十分にいい配信ができていました。今回さらに、これらのオンラインデータをONE's Dataに格納し、Facebookが学習しやすいように成形して送るということを行っています。つまり、元々頭がいいFacebookに、もっとおいしいご飯(データ)を食べてもらい、しっかり勉強してもらったことで、より良い配信が実現できたと言えます。
MZ:Facebookでは、今回の事例からCAPIのポテンシャルをどのように感じられましたか?
河村:プジョー様の事例から、Cookieレスに対応するという守りの導入だけでなく、パフォーマンス改善という攻めの要素があることがはっきり可視化されました。CAPIは実装ハードルが高いという印象があるようですが、オプト様との協業により、スムーズな実装ができたという点でも、とてもポジティブな事例であると思います。
自動車業界のお客様と日々関わっていますが、コロナの影響もあって、業界全体的にオンライン化の動きがあります。データ活用が緊急の課題になってくると予想されるので、引き続きサポートしていきたいですね。
Cookieでは捉えられなかった細かい粒度でのパーソナライズを実現
MZ:Cookieレスの流れを受けて、これからどのような考え方が必要となってくるでしょうか?
岩本:Cookieレスは、デジタルの良さであるリターゲティングが難しくなるという地殻変動に相当する大きな変化だと見ています。そもそもなぜCookieレスの方向になったのかを考えてみると、極端なリターゲティングやエンドユーザーが嫌になるような広告が多く、それがプライバシーへの懸念に繋がっていったと言えます。
これからは接触したお客様と一期一会の関係を構築していくという考え方が求められると感じています。そこから正しい接客、正しいコミュニケーションをして友だちになる。そのためには、透明性のある正しい視覚化が必要です。我々広告代理店も、「本当に事業主様のためになる人を送客できているのか?」という問いを追求していく必要があります。
MZ:最後に、3社それぞれの今後の展望をお聞かせください。
志水:デジタル化によって、お客様がご購入までにショールームに来店される回数が減っていることはすでに顕著ですが、最近ではWebサイトなどのデジタル上での来店までも減ってきており、新しい傾向も見られ始めています。世の中の情報化が進んだことで、ブランドとお客様との接点がますます減少傾向にあり、限られた接点での情報の質を向上させることが急務と考えております。リアルやデジタルを問わず、お客様の分析を進め、常に期待を上回るようなブランド接点の構築に努めていくことが当面の目標です。
岩本:ポストCookieという意味で、CAPIはオフラインのデータを組み合わせた可視化を実現するための良い機会を提供してくれました。より本質的な支援ができるようになったと実感しています。さらにこれからは、クリエイティブやより精緻な運用についても検証していきたいです。
河村:CAPIはWebサイトに限らず、来店データ、購入データなどオフラインデータとの統合まで進めることができるという点で、Cookie規制への対応策を超えた技術と言えます。Cookieでは捉えられなかった質の高いデータを集め、配信や検証の最適化が可能になるのです。より強固なパーソナライズをした形でのキャンペーン設計を推進できるよう、導入をサポートしていきたいですね。
たとえば、これまでは「Webサイトでディーラーの訪問予約をしたお客様」という粒度で最適化やターゲティングを行ってきたのに対し、「実際に試乗をしてディーラーを訪問したお客様」など、より細かな粒度でデータに基づいたコミュニケーションを展開できます。
先ほど岩本さんが“おいしいご飯”という喩えを使われましたが、質の高いデータを使うことで、直近の購入者を除外したり、買い替え時期にあるようなお客様にコミュニケーションしたり、購入者に似た特徴を持つ新規のお客様にアプローチするなどが可能になります。今回のプジョー様のように、今後はWebデータに限らず、オフラインデータを活かしたキャンペーン設計まで活用の幅を広げていきたいです。