お客様の日常にワクワクできる体験を届ける「au PAY」
――まずは現在のKDDIの経営戦略を伺えますか?
川口:KDDIは2020年3月期~2022年3月期の中期経営計画において、新たなブランドスローガンとして「Tomorrow, Together」を掲げ、3つの「目指す姿」念頭に置きながら様々なサービスやプロダクトを展開しています。
KDDIが掲げる3つの「目指す姿」
- お客様に一番身近に感じてもらえる会社
- ワクワクを提案し続ける会社
- 社会の持続的な成長に貢献する会社
高野:我々が携わるau PAYは、日常的に利用する決済サービスとしてもアプリという媒体の側面でも、お客様にとって身近な存在になり得ます。従来よりも楽な決済や、ポイントを溜めてお得に使えるといった体験価値でワクワクを提供し続けられればと考えています。また、キャッシュレスという文化はコロナ禍を経て一挙に浸透していますが、今後の社会において進化していく将来においてその創造の一端を担えればと考えています。
――お二人のポジションや具体的な業務内容についてもご紹介ください。
高野:私は、au PAY企画部でau PAYアプリ全体の企画を担当しています。具体的な業務としては、アプリの機能、デザイン、ユーザビリティ、アプリでのコミュニケーションなど、アプリ全体のことを見ています。いわゆるプロダクトオーナー、プロダクトマネージャーのようなポジションです。
川口:私は、KDDIの様々なプロダクトを横断して統括しているUX・サービスデザイン部に所属しています。データ解析やUXデザイン、サービスデザインなどの領域に精通した人材やツールなどのアセットを持ち、各プロダクトの担当部門を支援する役割を担っています。
「チャージ率」の伸び悩みが顕在化
――そもそもau PAYのグロースにおいてどのような課題を抱えていたのでしょうか?
高野:大きく分けて2つあります。1つは「チャージ率」の伸び悩みです。2019 年にリリースして以降、au のユーザー基盤が大きいこともあり、au PAY の月間のアクティブユーザー数は順調に成長していました。一方で、決済に利用するためにお金をチャージする人の割合は伸び悩んでいたんです。
川口:キャンペーンイベントなどを開催してより多くのユーザーを獲得するための施策も講じましたが、状況は変わりませんでした。この先いくら母数を増やす施策を繰り返しても一過性のもので終わってしまい、サービスとしてグロースしないだろうと考えました。
もう1つの課題は、ステークホルダー間の統一した指標がなかったことです。au PAYはプロダクトとしては1つでも、マーケティング部門、営業部門など関わる部署が複数あります。ステークホルダーの数だけKPIが存在するため、指標がまとまらないという課題がありました。
――どのような対策を講じたのでしょうか?
高野:私はUX領域の出身だったため、プロダクトのチームメンバーには「体験を大事にしよう」と話してきました。お客様の体験を想像するためにはまず自分たちが体験することが重要だと考え、自社サービスを使うことから、分析のツールを使うことまで体験を促しました。
ちょうどその頃、UXの分野で業界をリードするビービットさんにご相談する機会があり、代表の遠藤さんとお話する中で、KPIの整備に加えて「サービスをグロースさせるための専任チームを作った方が良い」とアドバイスをいただきました。加えて、UXグロース活動推進のためにユーザーの行動を可視化するUSERGRAMをご紹介いただきました。
川口:KPIを整備した上で成果を上げるためにはグロースチームの発足が必要であると感じ、またグロースのためにはお客様の行動をより精緻に把握しなければと考え、USERGRAMの導入を検討しました。
社内外との連携でサービス改善専門の「グロースチーム」を発足
――KPIの整備についてはどのように進めたのでしょうか?
高野:課題をビービットさんのコンサルタントに相談したところ、「ステークホルダーごとにKPIを設定し、部門やチームごとにブレイクダウンした明確なKPIツリーを作るのはもちろん、au PAYに携わる全メンバーの共通目標となる『NSM(North Star Metric:ノーススターメトリック)』を定義した方が良い」とアドバイスをいただきました。
ここで明確になったそれぞれのKPIを達成するために必要だったのがグロースチームです。
――グロースチームとは具体的にどのような組織なのでしょうか?
川口:海外の先進的なIT企業などで採用されている組織の形で、マーケティングと開発の両面でサービスのグロースさせることを目的とした専任チームです。社内での発足に先立って参考書籍などから事例を学んだところ、一般的には社長直轄で大きな権限を持ち、様々なプロダクトに介入するものです。
なお我々の場合、社内文化や調達可能な人材の範囲から、最初からそこまでの組織は作れませんでした。そこでKDDIにマッチしたau PAYのグロースチーム作りについてビービットさんにご相談し、本場のグロースチームと近しいことをできるようにするために、どのようなパーツが必要なのか、フレームを用意していただきました。
高野:実際に発足したチームでは、多くは兼務ではありますが、デザイナー、エンジニア、データサイエンティストなど、計7名で構成しました。au PAY企画部から3名を送り込み、チームをけん引する役割を担ってもらっています。そこに、ビービットさんのコンサルタント3名が支援してくださっています。
ユーザー行動を可視化して課題の原因を究明
――グロースチームではKPI達成のためにどのような取り組みを行いましたか?
高野:ツリーで分解されたKPIに対してそれぞれの数字を改善していきました。たとえばチャージについては、初めて使う方、既に使っている方、アプリは開いているがチャージはしていない方など、お客様の分類をしてペルソナを作り、簡易的なカスタマージャーニーマップを作ることで見える化。それぞれの分類に基づいた施策を検討していきました。
――グロース活動においてはユーザー行動の分析が根本にあるようですね。新たに導入したUSERGRAMはどのように活用されたのでしょうか?
高野:まず、チャージ率が低かった理由がUSERGRAMによって明確になりました。USERGRAMでお客様のジャーニーを見ていくと、多くのお客様はアプリ内の様々な機能を行き来していることが見えてきました。つまり、お客様はチャージをしたかった。ところが、その方法がわからず結果として諦めるユーザーが続出していたのです。
川口:他の分析ツールでも、どのページにどの程度の時間滞在していたかは、把握できていました。ところが、同一ユーザーが様々な機能を行き来しているなどの事実は、USERGRAMのように、お客様のジャーニーが時系列でビジュアル化されていなければわかりません。
この「直感的に動きが見える・わかる」という部分がUSERGRAMの最大の特徴であると感じています。データ分析ツールに精通していないメンバーであっても、理解しやすく使いやすい。
「ファネル機能」により仮説検証を迅速化
高野:似たような行動特性を持つユーザーを束ねて可視化してくれる機能も、重宝しています。au PAYのユーザー一人ひとりのジャーニーを追っていては、それこそ時間が圧倒的に足りません。
似たような行動特性のユーザーをペルソナ化し、各ペルソナに対してどのようなフォローを行えば、より良い体験をしてもらえるのか。これまで時間がかかっていたファネル分析が瞬時にできるようになったことで、仮説検証のサイクルを早めることが可能になりました。
川口:さらに、私たちはKDDI全体としてこれまで蓄積してきた膨大なデータを保有しています。従来持っていたデータとUSERGRAM経由で取得したデータをかけ合わせることで、より精緻なお客様の行動分析が可能になるはずです。
高野:ペルソナとしては、たとえば、当社のクレジットカードをお持ちでもau PAYのコード支払いはご利用でない方、当社のキャリア決済をお使いでもau PAYの決済はご利用でない方といったものが考えられます。それぞれどのような方なのか、定量と定性の両方で分析し、そのフォローを検討するといったことが可能になっています。
USERGRAMによる分析をもとにUIやアーキテクチャを大幅に刷新
――改めて、USERGRAMを活用したUXグロース活動の成果、手応えをお聞かせください。
高野:おかげでグロース活動は着実に成果が上がってきています。チャージ率全体が120~130パーセントほど向上してきました。さらなる改善のため、2022年1月25日には大きなアップデートを施してリリースしています。最初は慣れていただくための時間が必要だと思いますが、新しいau PAYアプリによってお客様の体験価値がどう変わるのか、とても楽しみです。
また、ユーザビリティの向上だけではなく、ユーザーに「利用したい」と思ってもらうための動機づけも重要な要素。より魅力的なアプリに改善すべく日々取り組んでいます。
川口:数字がただ羅列されているマーケティングツールとは異なり、USERGRAMは実際のユーザーの行動がひと目でわかるため、経営層や他部門に説明し企画を通す際にも説得力があると感じています。また、ビービットさんのUXグロースコンサルタントがフォローしてくれるのも、非常に助かっています。
これまではある意味属人的な感覚や経験に頼っていた改善策の企画が、USERGRAMによってデータをもとに言語化して説明できる業務になってきています。実際、チームの一員である新人メンバーもUSERGRAMを使って施策立案に取り組んでいます。
高野:企画人材育成へのさらなる活用には期待しています。現在メインで取り組んでいるテーマはチャージ率の増加ですが、他にも課題は山積なので人手が欲しいところです。
また、USERGRAMの導入によって、メンバーにユーザー起点で物事を考える習慣が身についたことが何よりの大きな変化だと思っています。思い込みでユーザーを捉えるのではなく、数字やデータ、ユーザーの行動といったファクトを通じて考えるようになったのは良い変化です。
――最後に今後の展望をお教えください。
高野:ユーザーの行動を捉え、改善し続ける。このサイクルを迅速に回すことで、au PAYはお客様にとってストレスなく無意識的に使っていただけるアプリとなることを目指します。その結果として、冒頭にお話したような文化・インフラとして当社のキャッシュレス決済サービスが広まっていくよう、より一層改善に努めていきます。
川口:さらにはau PAYにおけるグロースチームのような活動を、他のプロダクトやサービスにも展開し、広げていきたい。そうすることでKDDIの全サービス・プロダクトをより良い方向に改善し、新たな価値や体験を創造したい。そんな未来が実現できればいいなと、考えています。