ヘビーユーザーだからこそわかる、MAツール運用の課題
SATORI社は、マーケティングオートメーションツール(以下、MAツール)「SATORI」の開発と提供、運用支援を行っている。創業から7年経った2022年9月現在、1,000社を超える企業に導入・運用されている。
経営方針として大切にしているのが、自身もユーザーであるということ。「自らがSATORIを活用する一番のヘビーユーザーとなって課題を見つけることで、お客様のマーケティング活動に還元できます。“あなたのマーケティング活動を一歩先へ”というミッションを掲げ、一人一人のマーケティング担当者と、成果に向けてともに進むことを目指しています」と棚橋氏は語る。
データを活用したアプローチで、ムダ打ちの少ない顧客開拓を
MAツールを自社Webサイトに実装することで、多くの作業を効率化できる。SATORIではデータベースにある見込み顧客に対して、検討フェーズに合わせたメールマガジンを配信。ポップアップやプッシュ通知などで継続して顧客接点を持つことで、見込み顧客の興味関心が高まった時に想起される可能性を高め、維持することができる。さらに、顧客の反応に合わせてインサイドセールスが電話やメールでフォローを行い、ヒアリング結果により専任のフィールドセールス担当が具体的な提案に行く。
「行動履歴に合わせてシステム内で最適なコミュニケーションを行うことで、興味関心が高まっている顧客にアプローチでき、営業の商談効率を上げられます。よってムダ打ちや、興味がないお客様を困らせるリスクも少なくなります。基本的にこのような設計で、SATORI社では細かく施策を実施できます」と棚橋氏は解説する。
SATORIの場合、オンラインで匿名顧客のデータが自動的に蓄積できる。メールを開封したか否か、リンクをクリックしたか、Webサイト上でどんな資料をダウンロードしたのか、どのページを閲覧しているのかなどが把握可能だ。たとえばWebの料金ページを見ている顧客に電話をする、資料をDLした人に対してアプローチをする、といったアクションも取れる。名前や企業情報といった個人情報も、名刺情報として蓄積される。
SATORI社では、このようにオンライン、オフラインの行動データを統合しながらセールスの受注・商談までを創出している。顧客接点づくりもそこからの商談化も、MAツールはワンストップで行う。しかし棚橋氏によれば、CV数の増加とは裏腹に商談数の伸びない時期があったという。
CV獲得はクリアした。しかし「商談につながらない問題」が立ちはだかる
MAツールを用いても、商談数が自動で増えるわけではない。まずは展示会やイベントなどのオフライン施策や、Web広告・オウンドメディアなどを活用して、リードを獲得することが必要だ。
SATORI社では、Web広告の開始直後は指名検索やその商材の一般的なキーワードでの検索広告を中心に、顕在層向けに注力した。キーワードを精査しながら、ユーザー属性や都道府県別のCPA、受注率なども見て広告運用を改善していった。
より多くのCVを獲得するため、オーディエンスターゲティングなど、新規顧客向けの施策も実施した。しかし、広告予算の増加や広告運用の改善を繰り返した結果、リードは順調に増えていく一方で商談の伸び率は鈍化。商談につながらないCVが増えていったという。
「当初、配信や属性を分析し、配信を止めたり入札を調整したりしました。しかし目立った改善にはつながらず、頭を悩ませました。広告運用担当者だけでは解決できないと思い、商談状況をヒアリングしたところ、営業からも商談転換率が良くない点を指摘されました。」と棚橋氏は当時の状況を述べる。
実は、その原因はおそらくSATORIを活用しないと考えられる顧客もリードとして入っていたことだった。そこでリードの質が重要な要素だと再認識し、これまでリード数をKPIに運用していたのを、商談につながる有効なリードを定義し、判定することで広告運用を最適化して行く方針へと切り替えた。
有効リードを判定し、広告運用を最適化
Web広告でリードの獲得を重視する場合には、広告データのCPAを見てより単価の低い媒体に予算配分を変更するのが定石だ。しかしどの媒体で有効リードを獲得でき、商談に最も貢献したのかは、CPAだけでは知ることができない。そのためSATORI社では、まず「有効リード」について営業と協議し定義づけをした。その上で、CV経路から有効リードを追える仕組みを作った。
手順としては、はじめに資料請求・セミナー申し込み・問い合わせなどが達成された際に、SATORIの識別用IDをユーザーに付与。そのデータをGoogleタグマネージャーで取得し、広告効果測定ツール上でも組み込めるように設定した。商談化している顧客のIDから遡り、広告効果測定ツール上の経路をたどって媒体を特定し、重複を除いた有効リード単価を明らかにしたのだ。
リードの有効率を加味した「有効リード単価」が判断基準に変わったことで、予算配分のアクションも変わった。直近ではデータテーブルに「商談数」を追加し、受注に近いところに評価の基準を変更して最適化に努めているという。
また、有効リードタグを持つユーザーの中から「商談決定」の意味を持つ「タグ」を持つユーザーデータを取得し、ダッシュボードに表示した。これにより広告グループごとやLPごとに、どの施策が商談への貢献度が高いかを測れるようになった。その結果、商談までのCV経路でどの媒体に配信強化の余地があるかどうかを素早く判断できるようになった。
コンテンツの出しわけでDL数が増加
SATORI社ではWeb広告でCVを増やすことに加え、MAツールを活用してサイト内回遊や顧客接点を作り評価する施策も並行して行った。顧客接点を作る施策としてマーケティングブログを運営し、ホワイトペーパーも掲載している。
「ブログ記事の投稿を継続的に行うようになって、閲覧数は右肩上がりに増加しています。実際にWebサイトへの新規流入はブログ経由が多く、毎月一定のCVが発生するまでに成長しました。商談にも貢献しています」と棚橋氏は語った。
またSATORI社では、Webサイト内に来訪した見込み顧客を、閲覧したコンテンツを判断軸に、潜在顧客と顕在顧客に分けて検知し、コンテンツを出し分けている。製品にはまだ興味をもっていない潜在顧客層には、メルマガの作り方や勉強用コンテンツ、CVや商談を増やすためのマーケティング施策など、解決方法を紹介するコンテンツを案内している。そして製品に興味を持つ顕在顧客に対しては、製品資料や事例集など、具体的に製品について説明するコンテンツを勧めるのだ。
来訪コンテンツごとに誘導先を最適化した結果は、数字となって表れた。サイトに初めて来た人にマーケティングを網羅的に紹介している資料を出した結果、資料DL数は105%に改善した。サイト内を回遊してブログ記事を読むなどの情報収集層にはお役立ち資料を掲載したところ、資料DL数が140%まで引き上がった。
「製品資料やMAのセミナーなど顕在顧客向けのコンテンツに加え、潜在顧客向けのコンテンツを追加したことで、これまでのコンテンツのCV数を下げずにDL数を増やすことができました」と棚橋氏は提示する。実際に顕在顧客用の事例ページでは、事例集のDL数が150%にまで伸びた。
さらに、MA関連のブログ記事を閲覧するなど確度の高い顧客層にはMA関連のセミナーを告知した結果、よりCV数を伸ばすことができた。ブログ記事の中身に応じて、関連する資料や次にアクションして欲しいコンテンツのDLフォームを表示すると、新規獲得率70%の成果があったという。
資料のDL数を増やす、意外なコツとは?
棚橋氏は効果があった事例として、資料の複数掲載を紹介した。通常、ポップアップをクリックすると資料のDLページに誘導する。そこであえて資料をまとめたランディングページに遷移させ、閲覧者に資料を選んでもらった。
「CVまでの動線が長くなるのでCV数が下がるのではないか」という意見もあったが、結果的に一人当たり複数の資料をDL。CV数を増やすことに成功した。「1つに決め打ちせず他の資料も掲載することで、これもDLしてみようと、お客様の意欲につながったのかなと思っております」と棚橋氏は分析した。
また、キラーコンテンツを見ている顧客が現れたら、SATORIで検知しMAツールのセミナー案内をメールで送信する施策も実施した。顧客の行動に合わせて自動で送付できるので抜け漏れなく案内でき、次のステップに誘導できる。
「その他、お問い合わせフォームから離脱した方にフォローメールを送付するなど、MAのデータは様々な場面で活用できます。当社は顧客の行動に合わせて、次の行動を促すためのコンテンツを送付するスタイルで顧客接点を作ってきました」と棚橋氏は述べた。
データを活用することで、獲得単価を下げることに加えて顧客IDベースでの最適化が可能となる。しかし、流入やCVをWeb広告で増やしてもWeb上での顧客接点の強化ができていないと成果にはならない。そのため、「MAやCRMなどを利用して、繰り返しCVを促していくことが重要になります」と棚橋氏は講演を締めくくった。