STP分析とは?
マーケティング活動で成果を上げるためには、フレームワークを活用した体系的なアプローチも求められます。STP分析は、市場分析を行うためのフレームワークのひとつで、多くの企業のマーケティングに取り入れられている概念です。
今回は、そんなSTP分析の各要素について解説し、運用上のメリットや注意点を論考します。市場分析についての知見を深めたいとお考えのマーケティング担当者様は、ぜひお役立てください。
抽象度の高い議論を進める分析方法
STP分析とは、「S:セグメンテーション(市場の細分化)」「T:ターゲティング(参入するべき市場)」「P:ポジショニング(市場内における自社の立ち位置)」の3要素から成り立つ、市場分析のためのフレームワークです。STP分析は「近代マーケティングの父」評される経営学者のフィリップ・コトラー氏が提唱した理論で、BtoC、BtoBを問わず幅広い業種で活用ができます。
新規ビジネスを展開する際には、市場特性を分析し、理解することは不可欠です。そこでSTP分析を活用すれば、市場を細分して捉えつつ、自社が狙っていくべきターゲットやポジションを定義できます。STP分析は、目まぐるしく変化する市場環境を理解し、その後のマーケティング戦略の策定を行う際に役立つ理論なのです。
市場がコモディティ化し、競争優位性の確立が難しくなった状況下においては、「市場目線」でユーザーニーズを捉えたアプローチを行わなければなりません。特に、消費商材や衣料品といった、競合他社が多い業界においては、自社が取るべき戦略を論理的に定める取り組みは必須といえます。
STP分析は、そういった抽象度の高い議論を進めるための議論の土台を整える際に効果を発揮する分析方法です。
STP分析の各要素の詳細
上述のような特徴を持つSTP分析分析の各要素について、具体的に解説していきます。
1.S(セグメンテーション)
「S(セグメンテーション)」は、市場を各社の特性や事業傾向、顧客ニーズなどの要素によって細分化するプロセスです。ここでいう市場は「消費財市場」「生産財市場」に大別されます。
消費財市場とは、食料品や日用品など、消費を目的として一般ユーザーに利用される商材を販売するマーケットのことです。消費財市場は、以下の4つに分類されます。
人口動態軸:年齢や性別、家族構成、職業などの属性情報
地理軸:居住地域や人口密度、文化、行動範囲などの地理的情報
社会心理学軸:ライフスタイルや価値観、パーソナリティ、購買動機など個々人の心理状態に基づく情報
行動軸:購買活動や購買心理、購買契機など、ユーザーの行動履歴を参考にした情報
対して、生産財市場は生産のために必要な製品・サービスを扱う市場です。たとえば、原料や部品、設備などで、以下の4つの軸で分けられます。
人口軸:業種や企業規模、地域
オペレーティング軸:特定商品の使用頻度や使用量、使用能力など
購買アプローチ軸:購買の方針や購買意欲など
状況要因軸:商品を購入する緊急性や受注量
市場のセグメンテーションでは「どのような視点を持って、どこまで細分化するのか」という判断軸も必要です。近年は消費行動も多様な形をとるようになっており、特に消費財市場については各市場内に存在する商材も多岐にわたることから、「どこまで分解する必要があるのか」という判断は難しいでしょう。
さらに、市場のセグメンテーションを行う際には、「細分化した結果、十分な市場ボリュームはあるか(参入して十分な収益を上げられるか)」「その市場では、自社の強みを活かせるか」といった視点も求められます。
そのほか、セグメンテーションで用いられる有名な指標としては、「6R」も挙げられます。6Rとは、以下の要素で構成されたフレームワークです。
- Realistic scale(有効規模)
- Rank(優先順位)
- Rate of growth(成長率)
- Rival(競合)
- Reach(到達可能性)
- Response(測定可能性)
6Rを使用する際は、各軸に捉われすぎるのではなく、6つの軸すべてを包括的に分析しましょう。
2.T(ターゲティング)
STP分析の「T(ターゲティング)」は、セグメンテーションによって細分化した市場の中から、自社が参入するべき市場を選択するために行う分析です。ターゲティングでは、自社商材の強みを活かしつつ、既存の自社イメージやコンセプトから大きく逸脱しないマーケットを選ぶことが重要です。
ターゲット市場を決定する際には、以下の3種類の考え方も参考にしましょう。
- 集中型マーケティング
- 差別型マーケティング
- 無差別型マーケティング
「集中型マーケティング」とは、自社が参入する市場を絞り込んでいくマーケティング手法です。活動領域を絞ったうえでリソースを投下しますので、特定の顧客層に最大限のアプローチを行えます。特に、高単価な商材やユーザーニーズが複雑な商材を扱っている場合などは、有効な手法といえます。
「差別型マーケティング」では、セグメンテーションで細分化された市場のうち、複数のマーケットそれぞれのニーズに合致した商品・サービス提供を行います。複数市場に参入するため、集中型マーケティングよりも事業展開が失敗するリスクは低いでしょう。
最後の「無差別型マーケティング」は、セグメンテーションは考慮せず、さまざまなニーズを持ったユーザーに対して自社商材を提供していきます。市場を細分化した結果、どの市場でも同様のニーズがある場合に採られるマス・マーケティング的な戦略で、資金力などの事業基盤が求められる方法です。
3.P(ポジショニング)
「P(ポジショニング)」とは、ターゲティングにより参入を決定した市場に関するさらなる調査を行い、競合他社と比べた際の自社の立ち位置を決定する取り組みです。たとえば「他者と比べて、自社商材の価格や機能、品質はどのような特徴があるのか」について分析することで、自社の立ち位置を明らかにできます。
一般的に、自社の立ち位置を作成する際には「ポジショニングマップ」と呼ばれる、縦横の2軸からなるマトリクス図を作成します。マップのX・Y軸のそれぞれの軸に比較対象となる要素を盛り込み(例:価格や商品特性など)、競合他社と自社を当てはめる形で、視覚的に自社のポジションを理解するのに役立ちます。
ポジショニングの作成で重要なのは、あくまで「客観的なデータ・事実に基づいた分析を行う」「あらゆる指標を分析しすぎない」ことです。分析内容に主観が混ざったり、考慮するべき要素が多様であったりすると、自社の立ち位置を見失いかねません。「自社にとっての競合はどこか」「自社ならではの強みは何か」を明らかにしたうえで、「自社が勝てる戦略」を策定することがポジショニングの肝といえます。多くとも、同時比較する指標は4つ程度までにとどめるのがよいでしょう。
STP分析をマーケティングに活用するメリット
STP分析の基礎情報については、以上のとおりですが、具体的な活用メリットとしては3つです。 ここからは、それぞれのメリットについて論考します。
ユーザーニーズ・自社のポジショニングを整理できる
STP分析がマーケティング活動で役立つ理由として、昨今のユーザーニーズの多様化が挙げられます。デジタルツールの普及やネット環境の整備に伴って、ユーザーはあらゆる商品サービスを比較・検討できるようになりました。つまり「ニーズにマッチしないものを簡単には購入しない」ということを意味します。
そのためユーザーニーズを分析し、自社の取り組みを発揮できる領域を定義する取り組みは非常に重要です。STP分析で市場について理解を深めていく過程で、「どの市場に、どのようなニーズを持つユーザーが存在するのか」について整理すれば、自社商材の改善にも役立てられるでしょう。
こういった市場起点の事業開発は、「マーケットイン」ともいわれます。STP分析を活用すれば、マーケットインに向けた取り組みの大前提である「市場ニーズ」ついて理解できます。
競争優位性を確保できる
ユーザーは比較検討を容易に行えるようになったと前述しましたが、言い換えれば「競合他社との差別化が一筋縄ではいかなくなった」ということです。しかし、そこでSTP分析を活用すれば、最終的に自社のポジショニングを定義できますので、他社にはない強みを活かした競争優位性を築けます。
「大量消費、大量生産は通用しない」といわれるVUCA(ブーカ)時代において、企業の持続可能性を維持するためにSTP分析による自社戦略の策定が求められるでしょう。
マーケティング戦略を策定する議論の土台になる
STP分析の過程で得られるセグメンテーションやターゲティング、ポジショニングに関する情報は、自社のマーケティング戦略の策定にも貢献します。これはマーケティング部門のみの話ではなく、営業や広報など、各部門を巻き込んだ戦略設計に役立つというニュアンスです。
言語化された情報を基にした戦略設計は、部門間連携や社内合意の取得がスムーズになり、効率化につながるでしょう。
STP分析を行う際の注意点
STP分析をマーケティング活動に活かすうえでは、以下の3点に注意しなければなりません。次項より個別に解説しますので、自社で行う分析に活かしましょう。
STPのみに依存しない多角的な分析を行う
たとえSTP分析を行なって、自社が参入するべき市場や強みが見つかったとしても、実際にマーケティング活動と行うなかでユーザーに魅力が十分に伝わらなければ、その後の売り上げは鈍化してしまうでしょう。
STP分析は、あくまでも事業展開の切り口部分を定義するだけの手法だと捉え、ほかのフレームワークはアプローチ方法も併用する必要があります。たとえば、マーケティングミックス(4P分析)があります。4P分析は「Product(商品)」「Price(価格)」「Place(流通)」「Promotion(販売戦略)」の4つの観点から戦略設定を行う手法で、STP分析では不足する部分を補えます。
このように、STP分析のみに頼るのではなく、ユーザー視点を持ちつつ、多角的な視点から自社戦略を顕在化させていきましょう。
市場状況の未来予測も踏まえる
STP分析では、現在の市場状況のみに注目しないようにしましょう。10年経てば、あらゆる市場は大きく変化する余地があるため、現時点で自社にとっては最適と思える市場や戦略が、長期目線では必ずしも正しいとは限らないためです。
たとえば自社が参入しようとしている分野が、将来的に先細りが予想された場合、そのまま進めれば自社の存続の危機すら招きかねないでしょう。そのため、STP分析を実施する際には、市場の「現状分析」だけでなく、市場の「成長性や将来起こり得る変化」についても検討しましょう。
分析の順序にこだわりすぎない
本稿では「セグメンテーション→ターゲティング→ポジショニング」順番で説明しましたが、これらは連動する要素ではあるものの、必ずしも順番通りに分析しなければならないということはありません。
自社のターゲット市場が明確なら「ポジショニングを策定したのち、別の可能性を探るためにあらためてセグメンテーションを行ってみる」という使い方も可能です。目的はあくまで「進むべき方向性の確定」にあるということ見失わなければ問題ないといえます。
STP分析がわかりやすい企業例
以下より、STP分析を自社事業に活用している企業例を2つ紹介します。
ユニクロ
ファストファッションで有名な大手アパレル企業の「ユニクロ」は、市場セグメンテーションによるポジショニングで優位性を築いたと推察できます。
ファッション業界では日々トレンドが変化していくものであり、必然的にセグメンテーションも細分化の一途をたどっていました。しかし、ユニクロの「カジュアル/フォーマル」「トレンド/ベーシック」というシンプルなプロダクトは、こういった業界慣習の逆をいくポジショニングだといえるでしょう。
ユニクロの源流は、現在主要株主であるファーストリテイリング社が衣料品関連の事業を自社の子会社に承継させたことにあります。2000年代初頭に業績悪化の岐路に立たされたファーストリテイリングは、自社の強みであるSPA(製造型小売業)を活かし、消費者のニーズに合わせて企画から製造、販売までを一気通貫で行う戦略を採りました。
現在では、ヒートテックやエアリズムといったヒット商品を創出し、豊富な色・サイズのバリエーションから事業を大きく拡大させています。
ライフネット生命
大手ネット生保の「ライフネット生命」は、ネット専業の保険会社という事業特性を持っています。同社は、若い子育て世代に各種保険サービスを低価格で提供するというターゲティングした事業戦略と採っている企業と分析できます。
さらに、ライフネット生命の「ネット専業」というポジショニングは、営業マンによる対面セールスの印象が強かった保険業界において「手軽」なポジションに就いたとも言えるでしょう。
オンラインのみで商品販売を実現する同社の戦略は、人件費などを削減する代わりに、商品価格を下げることに成功したと発表されています。さらに、保険の特約を廃止し、明瞭な料金体系にしたことでユーザー側の不安を解消しやすくもなったと推察できます。
このように、ネット専業による差別化・コストカットを実現したライフネット生命の事例は、さまざまな業界の企業にとって参考になる部分があるでしょう。
まとめ
STP分析は、ユーザーニーズが多様化し、競争優位性の確立も難しくなった時代においては、有用な取り組みです。市場を細分化し、自社が参入するべき領域や強みを見つけられれば、他社にはない事業展開を行えます。
そのほかのフレームワークも活用しつつ、自社が採るべき戦略を策定しましょう。