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プライシングの基礎知識

インフレに打ち勝つ価格戦略:売上と販売数量を減らさず、値上げを成功させるための4つのポイント

値上げ成功ために、実行すべき4つのポイント

 では、ここまで述べてきた値上げに関する現状課題を踏まえて、企業は値上げ成功のために何を行うべきかに議論を移す。筆者は、値上げの成功には以下の4つを実行すべきと考える。これらについて、一つひとつ掘り下げて解説していく。

1.一貫性のある明確なコミュニケーション

2.精緻に差別化された値上げ目標の設定

3.値上げの正当な根拠の収集

4.自社製品・サービスの価値訴求

1.一貫性のある明確なコミュニケーション

 一貫性のある明確なコミュニケーションを行うためには、十分な価格改定の背景と根拠の説明を準備する必要がある。顧客に対して何を伝えるべきかのメッセージを定義するとともに、逆に何については触れるべきではないかも明確化し、そのコミュニケーションのスタンスを社内に徹底することが求められる。

 また、プレスリリースなどを含む、公のアナウンスを行うべきかどうかの意思決定も重要になる。特に産業向けの補修部品のような価格の透明性が著しく低い製品については、顧客が価格変更に気づかない場合があるため、正式な値上げアナウンスメントの必要性をよく吟味すべきである。

2.精緻に差別化された値上げ目標の設定

 値上げを行う場合、多くの企業が一律の割合で値上げを行おうとするが、これは良い策とは言えない。価格感度は製品ごと、顧客ごとに異なるため、値上げのターゲットも製品ごと、顧客ごとに十分差別化する必要がある

 筆者の過去のコンサルティング経験では、多くのBtoB企業の現状の販売価格は、合理的な説明ができないほどに大きくばらつき、一貫性を欠いている。まったく同一の製品の販売価格が、顧客にとって何倍もの開きがあることも決して珍しくない。値上げを行う際には、こういった矛盾する価格を本来あるべき水準に是正できるよう、目標とする値上げ幅を顧客ごとに差別化して設定することを考慮すべきである。

3.値上げの正当な根拠の収集

 値上げの説明を行う際に、重要な役割を果たすのが、コスト増である。実際にコスト増を値上げの理由として用いないアナウンスメントは、筆者の経験上はほとんど存在しない。“利益を最大化するための値上げ”というメッセージは、仮にそれが真の目的であったとしても顧客にとっては受け入れがたいため、コスト増を強調することになる

 コストについて言及するのは必ずしも原材料費の高騰だけでなく、人件費、輸送費、為替、規制など可能な限り正当化可能なコスト増の要因を特定し、これらを客観的なエビデンスでサポートすべきと考える。

4.自社製品・サービスの価格訴求

 最後の重要なポイントが、自社の製品やサービスの付加価値と有用性を明快かつ一貫したロジックで伝えることである。値上げは、顧客にとっては当然ネガティブなメッセージとなる。それを伝える際、自社の製品やサービスの価値をあわせて伝えることにより、顧客が抱く負の認識を弱めるよう努めるべきだ。

 サイモン・クチャ―は過去に、価格交渉における課題について調査を実施したことがある(図2)。そこで特定された課題として最も多かったのが、「自社の価格交渉力・商品力を過小評価する」というものであった。値上げの交渉を行う時は、価格交渉力、商品力の過小評価に陥らないよう、自社の製品・サービスの優位性や顧客に対する価格を再認識した上で交渉に臨み、これらをきちんと顧客にコミュニケーションすべきである。

【図2】BtoB業界に属する100社以上の企業へのプロジェクト経験を基にサイモン・クチャ―&パートナーズが作成
【図2】BtoB業界に属する100社以上の企業へのプロジェクト経験を基にサイモン・クチャ―&パートナーズが作成

 BtoC、BtoBを問わず、様々な業界においてさらなるコストの上昇が懸念される中、企業の利益拡大は値上げの成功にかかっていると言っても過言ではない。たしかに、値上げは困難をともなうものである。しかし、それゆえに企業の力量が値上げ実行の可否に試されているとも言える。

 サイモン・クチャ―は、これまで数多くの企業の製品やサービス値上げの実行をサポートしてきた。特に営業による相対の交渉をともなう値上げの場合、上記の4つの点を適切に実行することができれば、販売数量をほとんど減らすことなく値上げを達成できている。値上げによる売上や販売数量の減少を過度に恐れ、これを躊躇するのではなく、利益の拡大に向けた積極的な値上げに取り組めるような経営方針の転換が、日本企業にもなされることを期待してやまない。

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この記事の著者

山城 和人(ヤマシロ カズト)

成長戦略に特化したグローバル戦略コンサルティングファームであるサイモン・クチャーアンドパートナーズのパートナー(取締役)。

外資系コンサルティング会社、投資銀行、事業会社を経て現職。ハイテク・産業機器メーカー、ソフトウェア、小売・消費財等の事業戦略や価格戦略のコンサルティングに従事。日本における価格戦略...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/05/10 09:30 https://markezine.jp/article/detail/42113

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