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“良い写真”のためのコミュニケーションとは AD/コピーライター/フォトグラファーが徹底解説[座談会前編]

写真の方向性を決める「トーン」のすり合わせかた

見る人の感情に訴えかける大切な要素「トーン」とは

千葉 先ほどの「トーン」について考えてみたいのですが、あえて「トーン」の意味を定義してみるとどんな表現になるでしょうか。

田村 言葉にできないもののひとつのため難しいですが、簡単に言えば「その写真から受ける印象」に尽きると思います。

「すごく悲しい」「すごくハッピー」「すごく郷愁を誘う」でも何でも良い。その写真を見たときにどういう気持ちを想起させたいのか、ということかなと。

千葉 具体的な言葉で細分化すると、色合いや色調、質感、光の強さなどそれらすべての掛け合わせによって生まれる「佇まい」や「与える印象」のようなものを、私たちは「トーン」と呼んでいるなと思いました。

田村 そうそう。「エモーショナル」という言葉とほとんど同じ意味で使っていますよね。

千葉 そうかもしれないですね。田村さんには私が運営している「コンセントデザインスクール」に鹿児島さんと一緒に登壇いただいて撮影ディレクションについてお話しいただきましたが、そのときに「エモーショナル」がキーワードになりましたよね。エモーショナルなところ、つまり「感情に訴えかけるために、どういうトーンが必要なのか」ということです。

2023年2月に開催したコンセントデザインスクール「撮影ディレクション基本と実践−−心揺さぶるビジュアル開発の現場−−」配信中の一コマ。今回の座談会メンバーで、ビジネス戦略とエモーショナルなクリエイティブとの関係性などについて語った。
2023年2月に開催したコンセントデザインスクール「撮影ディレクション基本と実践−−心揺さぶるビジュアル開発の現場−−」配信中の一コマ。今回の座談会メンバーで、ビジネス戦略とエモーショナルなクリエイティブとの関係性などについて語った。

先ほどは色合いや質感と言いましたが、フォトグラファーさんに「こういう質感で」とお願いするのも少し違うのではないかと思っています。そういった何か言葉にできない、その“トーン”をもっているフォトグラファーさんに「あなたの持っている、こういう方法で撮ってください」と依頼するのもひとつのやりかたですよね。

また私の場合は、シーンの雰囲気を通して伝えることも多いです。たとえば季刊誌の連載企画の撮影を担当していたときは、表現したい季節感を詳細に伝えることを大切にしていました。

なぜなら同じ季節でも表現はいろいろあるためです。たとえば「夏」と言っても「夕方ぐらいで、昼の暑さが和らいだ涼を感じる時間帯」なのか、「太陽がギラギラと輝くビーチサイドで、元気いっぱいに遊び回れる日中」なのか。ニュアンスはとても揺れ動くため、言葉で伝えるようにしていました。

鹿児島 トーンは、その写真を使用するコンテンツの企画全体のストーリーと紐づくため、コンテンツのコンセプトなども一緒に伝えていく感じですよね。

千葉 そうです。たとえば「“涼しげな夏”を感じる写真にしたい。なぜなら“涼を感じる料理で夏の暑さを和らげよう”というコンセプトの雑誌のレシピ紹介企画だからです」といったように。

鹿児島 そのコンセプトだと「元気いっぱいの夏のビーチの雰囲気」の写真では全体が崩れてしまいますもんね(笑)。

フォトグラファーそれぞれがもつ「トーン」を生かす

千葉 「トーン」の指示はどう伝えるのが、フォトグラファーさんにとってわかりやすいですか? 

田村 いちばん簡単なのは、「あなたがいつも撮っているように」ですね。

千葉 「そのフォトグラファーさんの、いつものテイストで撮ってほしい」と?

田村 そうです。たとえば、いつも雰囲気良く自然光で撮るフォトグラファーに、バチバチのストロボを当てた幾何学的な写真を見せ「こういったイメージで撮ってください」というのは、やはり難しいと思います。

デザイナーさんから見れば、仕事によってフォトグラファーを分けることになりますよね。ですがフォトグラファーも、自分の作風を全力で出せる現場をいつも求めているんです。そのためサイトやSNSに作品をアップして自分の作風を伝えたりするのです。

鹿児島 「トーン」は、フォトグラファーさんを選んだ時点で決まりますよね。

千葉 鹿児島さんは、フォトグラファーさんの得意なテイストなどを、どうやってつかむようにしていますか?

鹿児島 ブックを見たり、実際にフォトグラファーさんの展示会に行ったりしてインプットするようにしています。展示会に行くとフォトグラファーさんと直接お話しできることもあるため、相手の考えかたを知る意味でも大切にしています。また雑誌に載っているクレジットでお名前をチェックし、そのフォトグラファーさんのSNSを確認してテイストをつかむようにしています。

田村さんに聞いてみたいのですが、フォトグラファーさんには長く写真を撮っているなかで「テイストの変遷」があると思います。過去のテイストをお願いするのはやはり失礼なことでしょうか。

田村 いやいや、そんなことはないです。大丈夫ですよ。実際に自分が撮影した昔の写真を示され「こんな感じで撮影してほしい」と言われる場合もあります。もちろん人によっては、「今のこのテイストでやりたい」と考える人はいるかもしれませんが……。

私は2000年ぐらいからフォトグラファーをしていますが、そのころに比べると「自分はこれしかやらない」という人はだいぶ減ってきている印象です。そのため過去のテイストを依頼しても全然問題ないと思います。

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2023/10/18 08:15 https://markezine.jp/article/detail/43813

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