KPI設計や投資判断に影響をもたらすCookieレス
──最初に自己紹介をお願いします。
津野(Meta):代理店様向けのソリューション営業として、サービスの開発や推進に携わっています。
杉山(サイバーエース):Metaグループのエキスパートコンサルタントとして、広告パフォーマンスの改善に向けたソリューション設計などを担当しています。
──Cookieレスに向けた動きが進み、Web広告領域は過渡期を迎えています。業界全体で既に起こっている/これから起こり得る影響を教えてください。
津野(Meta):2017年頃から進んでいる個人データ保護の動きは、ユーザーから見ると好ましいアクションと捉えられています。しかし、我々のようにパーソナライズした広告を配信している媒体側では、このような制限とどう向き合っていくか、つまり「ユーザーを不快な気持ちにせず、安全な形で広告をいかに配信するか」が課題となっています。
杉山(サイバーエース):津野さんのお話を前提として、私は「パフォーマンス」と「効果計測」の2点に影響があると考えています。まずパフォーマンスに関しては、Web広告を扱う広告主、そしてパートナーである当社のような代理店のパフォーマンスが悪化してしまう可能性があります。加えて、精微に効果を計測できるというWeb広告ならではの強みがCookieの制限によって失われてしまいます。計測できない事態が既に発生しており、影響範囲の拡大は加速する見込みです。広告主の投資判断やKPIの設計にも影響が出てくるでしょう。
欠損データの問題とどう向き合うか
──サイバーエースとMetaでは、Cookieレスに対してどう取り組んでいくお考えですか?
杉山(サイバーエース):Cookieレスの環境であってもWeb広告のパフォーマンスを維持・改善できるような仕組みを整え、広告主の事業拡大を支援していくことが大切だと考えています。当社では流入や獲得を追うだけでなく、ファーストパーティーデータが活用可能なサーバー環境の構築など、これまでとは違うアプローチで広告主の支援に取り組んでいます。2023年8月にはCAPIやGA4などの導入を支援する専門組織「データソリューショングループ」を設立し、マーケットニーズに合わせたデータソリューションの開発に力を入れています。
津野(Meta):Cookieによるトラッキングが制限される中、広告主が元々持っているデータをいかに活用できるかが鍵となっています。一方、Cookieレス環境下で発生するシグナル(データ)欠損も課題として注目されているのが現状です。そこで当社では「CAPI(コンバージョンAPI)」と呼ばれるソリューションを提供することで、Cookieに依存しない広告パフォーマンスの維持・向上を可能にしました。
CAPI実装のメリットと方法は?
──CAPIとはどのようなソリューションなのでしょうか。実装するメリットもあわせて教えてください。
津野(Meta):CAPIの実装方法は複数ありますが、大枠の仕組みは広告主が持っているデータをMetaの広告配信システムにサーバー間でつなげるものです。暗号化によって環境の安全性を高めています。データをインポートするのではなく、使う許可をいただいて広告配信に役立てる仕組みです。
津野(Meta):CAPIを実装することで正しいデータを使った広告配信ができるようになり、パフォーマンスの向上につながります。欠損しているかもしれない、正しいかわからないデータを使うより、成果に直結するはずです。
──CAPIの実装方法を教えていただけますか。
杉山(サイバーエース):CAPIの直実装は広告主様のサーバーとMetaのサーバーをつなげる仕組みになっており、サーバーからデータを引っ張ってくるAPIと、それをMetaの広告システムに飛ばすAPIの二つを開発する必要があります。
津野(Meta):前者のサーバーからデータを引っ張ってくるAPIに関しては、広告主が使用中のサーバーシステムや「何の情報をどれくらい送るか」という要件によって、開発の工数や時間が異なります。
実装の難所はリソース確保と部門間コミュニケーション
──サイバーエースでは、数多くの広告主のCAPI実装を支援してきたとうかがっています。
津野(Meta):当社がCAPIをリリースしたタイミングは非常に早かったにもかかわらず、サイバーエース様はいち早く試して広告主にもその魅力を伝えてくださいました。
杉山(サイバーエース):Meta様とは以前からパートナーとして様々なお取り組みをしてきましたが、個人情報保護の流れを受け、両社でいち早く広告主の課題解決にあたるべきだと考えた次第です。
──CAPI直実装の難所はどんな点にありますか?
杉山(サイバーエース):広告主の社内でAPIの開発に充てられるリソースが不足していたり、リソースを増やそうとしても社内で決裁をとるのが大変だったりと、様々な課題を乗り越える必要があります。
また、APIの設計側(マーケター)と開発側(エンジニア)のコミュニケーションも難所として挙げられます。加えてここに広告代理店が入ると、ステークホルダー間の意思疎通はさらに複雑になるでしょう。当社が支援させていただく場合は、APIの設計書を作成することでCAPIの直実装をスムーズに進められるようにしています。設計書によって、マーケターとエンジニア間のコミュニケーションを当社が簡素化および円滑化することができるのです。
津野(Meta):この設計書は、誰でも作れるものではありません。私は数多くの代理店様と一緒に様々なお取り組みをしていますが、サイバーエース様はデータの設計業務を熟知されていると感じます。だからこそスピーディーに、広告主に合わせた設計書を作ることができるのです。
広告主の負担を大幅減する新機能
──API開発に充てるリソース不足などを解消するCAPIの新たな導入方法として、代理店専用の新機能「コンバージョンAPI ゲートウェイ マルチプル アカウント(以下、CAPIマルチプルアカウント)」が発表されました。これは具体的にどのような機能なのでしょうか?
杉山(サイバーエース):従来のCAPI直実装では、各広告主が所有しているサーバー環境に合わせてユニークな開発が発生してしまうため、広告主側の対応を要する点が課題としてありました。その点CAPIマルチプルアカウントでは、代理店がAWSサーバーを一括設定するため、広告主の工数を削減し、CAPI導入のハードルを下げることができます。
CAPIマルチプルアカウントは、連携するデータ元が直実装とは異なります。「Meta Pixel(Meta広告タグ)」で取得したオンライン上のユーザー行動データを、別途用意したAWSを通過させることで、サーバーサイドCookieを利用の上Metaサーバーに連携し、ユーザーの計測・学習を行う手法です。
杉山(サイバーエース):CAPIマルチプルアカウントを使えば、実装にあたって広告主に対応いただくことはサブドメインの発行くらいです。非常にスピーディーにCAPIを導入できる点が特徴だと思います。
津野(Meta):これまではCAPIの開発コストや工数を調整するだけで1、2年かかってしまう広告主様もいらっしゃいましたから、導入ステップは大幅に省略できるはずです。
広告主・メディア・代理店の連携はマスト
──最後に今後の展望をお聞かせください。
津野(Meta):冒頭で申し上げたとおり、Cookieレスが進む今、いかに自社の広告に合ったデータ活用しながら配信できるかが重要になっています。当社ではサイバーエース様のお力を借りながら、広告主が配信効率を上げつつ自社に合った広告を配信できるよう、引き続き取り組んでいきたいです。
杉山(サイバーエース):今、広告業界は転換期にあります。現状がネガティブに語られることもありますが、私個人としてはこの状況をチャンスだと捉えています。これまではWeb広告の領域で新しいことに挑戦したくても、Web上のデータくらいしか活用することができませんでしたが、今は活用できるデータが増え、挑戦の幅が広がったと言えるのではないでしょうか。
ファーストパーティーデータの活用は今後ますます活発になっていきます。新しいことにいち早く挑戦できる広告主は、業界においても先行優位性を高められるはずです。当社としてはそのようなお取り組みを積極的にサポートしていきたいと考えています。
津野(Meta):ファーストパーティーデータの活用は、広告主の協力があってこそ進められるものです。データを保有する広告主、データと広告を熟知したサイバーエース様、そして我々メディアの強固な連携はマストだと思います。