ロイヤルティ戦略は「プロアクティブ」「エフォートレス」を意識
MZ:顧客基点のコミュニケーションを実現するために、どのような環境や体制づくりに取り組まれたのでしょうか。
大塚:まず、カスタマージャーニーを描き、お客さまへのアンケートや代理店のヒアリング調査結果を基に、お客さまがどのタイミングでどのような情報を求めているのかを分析しました。
そもそも損害保険は事故がない限り、ほとんど意識する機会がない商品です。しかし、大きな事故のニュースや台風など、損害保険に関連する事故や災害の情報は日常的に得ているはずです。このようにお客さまが損害保険を想起しやすくなるタイミングや、その時に知りたくなる情報を把握することで、行動を後押しする施策を検討しました。具体的には、時期に応じた注意喚起や、お役立ち情報の発信につなげています。

野崎:組織立ち上げ時は2名体制で始動したため、分析やプランニング、施策の伴走支援、そしてクリエイティブ制作を電通デジタル社にサポートしていただきました。特にクリエイティブ制作については、保険や金融によくある「文字だらけのクリエイティブ」になりがちな点を、より見やすく読みやすいものにするため、ブラッシュアップに向けた議論や伴走支援をしていただきました。
MZ:ロイヤルティ向上という観点では、どのような戦略を立てられたのでしょうか。
野崎:心理ロイヤルティと行動ロイヤルティの2種類に分けて考えています。たとえば、賃貸マンションにお住まいの方で、ご自身の火災保険がどの会社のものかをあまり気にされていない方も多いと思います。行動としては契約が続いているが加入先に思い入れはない、つまり行動ロイヤルティは高くとも心理ロイヤルティが低い場合はリプレイスされやすい状態です。このようなお客さまにアプローチすることで当社への好感・信頼を高め、納得して契約を継続いただく方を増やしていきたいと考えています。
そのために私たちは「プロアクティブ」と「エフォートレス」というキーワードを意識しています。プロアクティブは先回りしてお客さまのお悩みや不安を解消すること、エフォートレスは損害保険の帳票や紙物なども含め、わかりにくくストレスがかかるものを、わかりやすく簡単で便利なものへと変えることです。
自分ごと化を実現する基本姿勢とコンテンツシナリオ
MZ:実際に取り組まれているコミュニケーション施策について、具体的にお聞かせください。
大塚:生活者が企業から受け取るメールは、キャンペーンや新商品の案内が多いと思います。しかし損害保険は小さな買い物ではありませんし、事故に遭って初めて「入っておいてよかった」と思われる傾向が高い特殊な商品です。唐突に他の保険や特約を勧められてもほとんどのお客さまにとってはノイズになると考え、まずは保険の基本知識やご契約の補償内容をお伝えするなど、心理ロイヤルティを高めるメールを心がけています。心理ロイヤルティが高まって初めて、別の補償にも関心が向くという考え方です。
MZ:コンテンツ作成において、どのようなシナリオを設計されているのでしょうか。
大塚:シナリオは大きく3種類あります。1つ目は始期日(契約日)シナリオで、契約日を起点に、そこから〇日目・〇ヵ月目といったタイミングで送る情報を定めて設計しています。契約当初は保険に対する不安が大きい時期のため、サポート機能や体制などをお伝えし「これから、安心の補償をお届けします」といった案内を送っています。