「リアルかネットか」は、馬鹿げた議論
EC消費が拡大していく中で、最近よくある議論が、「リアル」、つまり人々が実際の店舗で消費するのか、それとも「ネット」、すなわちWebサイトを通じて消費するのか、という議論である。
それに関して一言でいえば、リアルかネットかは二者択一ではない。消費者は、それほど割り切った思考を持っているわけではない。加えて、さまざまな情報を見聞きし、値踏みしてから消費を行う。多くの消費者は、実際の店舗で商品を手にとって見定める。店員に質問し、自分が求める商品かどうかを確認する。Webサイトでは、検索することで最安値の価格を確認し、クチコミと呼ばれるコメントも読む。そしてその結果、消費を決める。そうした形でリアルもネットも使いこなす“ハイブリッドユーザー”が多い。
では、リアルの店舗は不必要で、ネットだけで消費を行う消費者はどれほどいるのだろうか。野村総合研究所では、その動向についてもアンケートで捉えている。
現在、ECを利用している人の中で、約55%の人はPC(携帯電話を含む)の画面上だけで商品の購入を判断している、という結果が得られた。このアンケート結果を、表面上の数字だけで判断すれば、5割を超える人がリアルの店舗を必要としなくなるのではないか、という推定もありうる。
しかし、これはあくまで、ECサイト上で購入を決めたものについて、リアルの店舗が影響を与えたかどうかを表すアンケート結果である。最終的にリアルの店舗で購入を決めたものは、この中には入らない。逆にリアルの店舗で購入を決めたものの中にも、数多くECサイトを参考にした場合もあるとみられる。
購入をECサイト上で行うことを念頭に入れたものについて、ECサイトだけではなく、実際に店舗に足を運んで確認作業をするかどうか、と読み替えた方が正しいものの見方といえる。つまり、ECサイトで購入を決めた人の45%は、確実にリアル店舗に足を運んで、実際の商品を手に取り見定めている場合が多い。
野村総合研究所(以下、NRI)の推計では、小売店舗の消費の約2%がECサイトで購入が決められている。その中の45%の人は、店舗とECサイトのハイブリッドユーザーである。つまりは、消費全体のうち、店舗を必要としないのはまだ1%しか存在しないと見るべきである。
書籍や音楽CDなど、PC画面上で立ち読みや試聴できるものは、実際の店舗に行かず、ECサイト上で購入を決めてしまう傾向が今後強くなるであろう。旅行の予約についても、実際の店舗に行って並ぶ時間を考えれば、ECサイト上だけで決めてしまう人も出てきている。そうしたリアルの店舗を必要としない消費が存在することは事実である。
しかし、やはり実際に店舗に足を運び、店員からさまざまな情報を引き出し、商品を手に取って見定めたいと、消費者の多くは考えている。消費者の心をつかむためには、リアルの店舗を強化するだけでも、ECサイトを充実させるだけでも足りない。この両者のシナジー(相乗効果)を最大化することが求められる。