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ソーシャルアプリから学ぶシステム運用
クラウドの舞台裏

2011/01/14 18:00

 基本使用料を無料とするソーシャルアプリビジネスで成功するためには、初期投資を抑制しながら、急激に増加する会員に対応したインフラが求められる。そこでクラウドが注目されるわけだが、可用性や機密性への不安がある。クラウドのリスクを回避し、メリットを最大限に引き出すには、クラウドの特徴を十分に見極めた運用設計が大切だ。2010年11月25日に開催されたmobidec2010での、スカイアーチネットワークス 江戸達博氏のセッションは、実践の中で明らかになったクラウド運用のポイントを、ソーシャルアプリの事例を交えて説明するものとなった。

オープン前の準備がソーシャルアプリビジネスの明暗を分ける

 ソーシャルアプリの市場規模が急拡大している。中でも会員数500万人を超えるソーシャルアプリケーションの企業が上位を占めている。主要プラットフォームのmixi、GREE、モバゲータウンは2010年に軒並み2,000万人を達成した。

 一方、ソーシャルアプリを提供インフラから見ると、最近の風潮はクラウド活用ということになる。その理由として、iモードのスタート時から関連サーバーの運用をメインとしてきたスカイアーチネットワークスの代表取締役社長である江戸達博氏は「会員が何人集まるかが分からないのに、固定資産としてのインフラへの投資は、大きなリスクが伴うから」と解説する。

株式会社スカイアーチネットワークス 代表取締役社長 江戸 達博氏
株式会社スカイアーチネットワークス 代表取締役社長 江戸 達博氏

 その他にも、ソーシャルアプリならではのクラウド選択の理由がある。膨大なアクセスに耐えるレスポンスこそが生命線ともいえるからである。SNSポータルの世界では、HTTP通信のレスポンスタイム5秒以上で、ペナルティが課せられる「5秒ルール」が存在している。

 しかし、ソーシャルアプリでは、いったん人気に火がつけばユーザーの数は一挙に膨大化する。従来の有料オンラインサービスにおけるユーザー増加は緩やかだったが、無料が基本のソーシャルアプリの増え方はその比ではない。そのため5秒ルールを適用されてしまうと、努力して大量動員に成功したのに、店のシャッターが閉まっているのと同じといえる。ソーシャルアプリが成功するかどうかの勝負は、特にオープン時に決まることが多く、爆発的に増える集客に対応できないと、失敗する。

 セッションで紹介されたのは、現状ではユーザー数が100万人を超えているモバゲータウンのサイト。サイトのオープンから10時間で2万5千人に達した時点で障害が発生した。毎秒42人増えた計算になる。そこでどう対応したのか。江戸氏はWebサーバーとDBサーバーに分けて紹介した。

 まずWebサーバーは、細かい参照セッションが非常に多く発生するシステムになっている。最初にパブリック・クラウド上に置かれたサーバーは4台だったが、一気に22台にスケールアウトした。ある日の昼過ぎには構成変更が決まり、夜にはロードバランサーやDBを含めたサーバー増加を終えた、という対応も経験した。物理環境だけの時代であれば数週間かかっていた可能性がある作業を、半日程度で完了することができた案件となっている。

 ただ江戸氏は「クラウドではサーバーのコピーで増強が簡単とされているが、注意する必要がある」と指摘した。パブリック・クラウドの中には、コピーできないクラウドサービスもあるからだ。今回利用したサービスはそのタイプであったため、事前に、稼働時点から課金がスタートするサーバーを用意しておいた。

コストをパフォーマンスを両立する構成とは

 一方DBサーバーでは、どのように対応したのか。ここでも増強が求められたわけだが、DBサーバーへのアクセスの中心は参照系だけではない。事例のソーシャルゲームではランキング上位をめざす競争が繰り広げられ、有料アイテムの申し込みなど書き込み系も多く、その対応はスケールアップが得意としている。ただ、そのための高機能サーバー投入にはコストがかかる。江戸氏は「ビジネスを進める上でのコストとパフォーマンスが重要」と指摘する。

 そこで今回の案件では、Webサーバーはパブリック・クラウド、スペックが必要なDBサーバーは専用ホスティングという組み合わせで構成した。予算が許す限りパフォーマンスの高いサーバーでスタートし、アクセス増加に合わせスケールアウトした形になる。さらにDBサーバーのパフォーマンス改善のため、運用と開発の連携で、テーブル分けやSQL文のチューニングなどの設計改修作業を行っている。

 そのためには、一時サービスをストップすることが必要だが、そのために会員が離れてしまう懸念があった。しかしソーシャルアプリはスピードが要求されるため、想定外のことが起きやすい特徴がある。オープン後の修正はつきものと割り切り、目標100万人に耐えうる環境を目指し数日止めた。その結果、100万人を達成している。

 携帯キャリアの公式コンテンツは安定性重視だったが、ソーシャルアプリは企画後にすぐリリースしないと、似たようなゲームが次々に出現する世界だ。江戸氏は「従来のネットサービスでは、企画、開発、運用が分業して成り立っていたが、スピードが求められるソーシャルアプリでは、各担当が一緒になってビジネスを成功させる活動が求められる」と指摘する。

 最近、スカイアーチネットワークスへの依頼は「2週間後にオープンするのでサーバーを用意してほしい」というものが急増しているという。江戸氏は最後に「クラウドは発展途上のサービス。各社のサービスの特徴を把握し、最適なサービスを選択し運用するには、経験、パワーが必要。今後は、クラウドのギャップを埋め、システムを動かすクラウド運用代行のパートナーが重要となる」と語りセッションを終了した。

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