既存のアクセス誘導ツールを超えた可能性を提供する「空電」
モバイル市場における大手ソーシャルサイト、GREE、mixi、モバゲーの中では、2009年中旬ごろからGREEがテレビCMを中心としたプロモーションで大きく会員数を伸ばした。その後、2010年11月時点では、非常に拮抗した激しい競争になっている。岡本宜大氏は「今後、さらに会員を獲得するためには、これまでとは違う、新たなプロモーション戦略が必要」と語る。
例えばGREEの会員を分析してみると、ボリューム的には相変わらず20代が多い。しかし、最も伸びているのは40代以上の年平均成長率158%で、30代の105%、20代の87%、20歳未満の62%を圧倒している。モバゲーもCMに40代後半の木梨憲武氏を起用するなど、明らかに“シニア層”をターゲットにし始めている。
岡本氏は、会員獲得プロモーションにおいて円滑にコンバージョンするためのポイントは、行動喚起、導線設計、クチコミの3つだと整理する。まず行動喚起では、いかに他社と違う、尖った喚起の手法を使うか。導線設計では、ターゲットに合わせ、どのような場所で最終的にユーザーを獲得するか。クチコミは、ツイッターやSNSなどネットと、リアルで大量発生させる手段を考えなければならない。そのためのツールとして岡本氏は「空電(からでん)」というサービスを紹介した。
空電は、空メールやQRコードに類する、モバイルサイトへのアクセスを誘導するクロスメディアツールとして開発された。その利用イメージは以下の通り。まずテレビや新聞、店舗のPOPなどに電話番号を掲載する。興味を持った消費者が携帯端末から電話すると「1を押してください」などのガイダンスが流れ、従って操作するとショートメッセージのメールが送られてくる。メールの文面にあるURLをクリックすると、簡単にサイトにアクセスできる、という流れになる。デモ番号:0032-06-9987(通話無料)へ電話をすれば簡単に体感できる。
一見単純な仕組みだが、ドメイン規制で届かない空メールや、使い方が分からないユーザーが少なくないQRコード、告知範囲が狭いFelicaなど、既存の誘導ツールの欠点を補強することが可能になっている。電話番号であれば、楽に告知と誘導ができるのが強みとなっている。さらにQRコードリーダーやFelica機能がついていないスマートフォンや子供携帯も、対象にできる。
電話をかける、声を聞くから始まるプロモーション
では空電は具体的にどのような効果を発揮するのか。岡本氏は、先述の行動喚起、導線設計、クチコミに合わせた様々な活用事例、アイデアを紹介した。まず行動喚起では、電話をかけた際のガイダンスを、人気アーチストや声優が行う。例えば単純に「サイトがリニューアルしたのでアクセスしてほしい」ではなく、「ここに電話すればお気に入りアーチストの声が聞けて楽しい。さらに簡単に欲しい情報満載のサイトに行ける」と誘導した方が、効果が高い。事例として紹介された「新撰組リアン」のプロモーションでは、文化放送の番組内でパーソナリティが電話番号を告知することで、多くのアクセスを獲得している。
導線設計では、ビクターエンタテイメントのDragon Ashの事例が紹介された。目的は、潜在顧客を引き寄せるために先行着メロダウンロードを促すことで、空電の電話番号は夏フェス会場内のスタッフTシャツにプリントした。成功のポイントとなったのは、事前にWebで告知して煽り、当日会場でTシャツ隊を探したくなるモチベーションを醸成したことにある。
クチコミの事例では、コナミの恋愛シミュレーションゲーム「ラブプラス」のメルマガ会員登録を促す活動が紹介された。配布されたラブレター型のチラシに掲載された番号に電話すると、声優による“萌え萌え”のガイダンスを聞くことができる。それを聞いた人が、感想を同様の興味を持つ人向けにツイッターや掲示板で発信することで番号が広まり、多くの会員獲得に成功した。
では、セッションの冒頭に話題にしたシニアへの対応はどうか。松竹は、歌舞伎座内のPOPやチラシで、既存顧客のリテンション強化のための会員登録プロモーションを行った。電話をかけると劇場で聞きなじみがあるイヤホン解説員がガイダンスすることで、安心感を醸成したのが成功ポイントになっている。
また、バス旅行でバスガイドが仲良くなったシニアの方々に「今から教える電話番号にかけてもらえば、特典がある」と話すと、全体の8割が電話を掛けた。さらに早朝のテレビ番組で、それまでQRコードで行っていたアンケート登録を空電の電話番号にしたところ、以前の約5倍の登録数を獲得できた事例もある。
空電は2009年のリリース以来、70を超える導入事例を積み上げてきた。「電話をかける」というのは、すべての年齢層が体験済みの行為であり、そこからクロスメディアで行うプロモーションに大きな可能性があるのは確かなようだ。