スマホ普及でモバイル広告も、ガラケーからスマホへ徐々にシフトの兆し
博報堂DYグループが今年5月に発表した最新のデータでは、スマートフォン所有率は約3割。資料によると2011年2月時の所有率は5.3%だったが、2012年2月には28.2%へと拡大し、この1年で急速に普及したことが浮き彫りになっている。ガラケーからスマートフォンへと着実にユーザーが移行していることを受け、企業の意識も変化。今年4月ごろからモバイル広告予算をガラケーからスマホにシフトする企業が増え始めた(参考:博報堂DYグループプレスリリース)。
そんな動向にいち早く反応したのがngi group株式会社だ。スマホ特化でリアルタイムの広告入札(リアルタイムビッディング。以下、RTB)にも対応するDSP(Demand Side Platform)「Bypass」の提供を4月から開始。
DSP事業部 事業部長の岡部健二氏によると、広告主からの反響は当初の予測をはるかに上回る状況。広告配信先となるSSP(Supply Side Platform)の開拓が急務になっているそうだ。
スマホ広告が本格的に立ち上がる兆しを見せ始めた今、スマホ広告のユーザー利用動向について、早めに把握しておきたいところ。ngi groupからBypassによる広告配信実績のデータ提供を受けられたので、興味深い項目を中心に取り上げつつ、ガラケー広告とスマホ広告の違いについて考えていきたい。
ガラケーの定説「お昼時・帰宅時・深夜に伸びる」はスマホでも通用する
「インプレッション数の時間帯別推移は、ガラケーと同じような動きになっています。朝6時くらいから動き始め、午前中は低調。お昼ごろに大きく増え、1時くらいから少し下がり、夕方16~17時ごろに学生が帰宅するタイミングでまた伸びます。そこから徐々に増えていき、ピークタイムが夜の10時~12時ごろ。そこから早朝4時ごろまで下がっていきます」(岡部氏。以下、同)
お昼時と夕方の帰宅時、そして深夜が伸びるのはガラケーでも定説として言われていたこと。時間帯別のクリック率(CTR)についても、ガラケーと同じような傾向があるようだ。
「ガラケーの時から、深夜帯に寝ながら携帯電話を利用する人が多くいました。深夜帯にCTRが一段階上がる傾向はスマホになっても変わっていないようです」
そのほか、ガラケーとスマホで共通するのは、曜日による違い。月曜日から週末の土日に掛けてインプレッション数が増えていく傾向があり、広告露出を増やすためには土日の配信は外せなくなっている。
広告接触が25回を超えるまで、ほぼ同水準のCTR
とはいえ、まだスマホは普及途上。大都市圏を中心に広まっているため、都道府県別のインプレッション数は東京が全体の約75%を占め、残りは首都圏・大阪圏の道府県が1~2%ずつでそれに続く形だ。
「ただ東京のユーザーは、それほど広告反応率が高いわけではありません。スマホ広告を見慣れているので、反応が鈍化しているのかもしれません。地域別のCTRで見ると、高知・佐賀・三重が非常に高くなっています。スマホを最近購入したフレッシュなユーザーの多い地域の方が、良い結果が出ているようです」
またGoogleによる2012年1~3月の調査では、スマホのOSシェアはiOS:Android=39%:55%となっている。Bypassの配信先としてはややAndroidに寄っていて、インプレッション数はiOS:Androidで約1:3。CTRで比べると、Androidの方が明らかに高い実績が出ている。
興味深いのは、フリークエンシー別CTRの推移。同じ広告を何度も見せているとCTRは早い段階から下降し始めると予想していたが、確かに8度目ごろから少し下がるものの、本格的に下降トレンドが現れるのは25回目以降。ユーザーが広告を見飽きるまで、意外と長い時間が掛かっているのかもしれない。
CVRはガラケー有利だがARPUを見るとスマホが勝る
ここまで取り上げてきたデータを見る限り、エリアの偏りこそあれ、広告利用動向はガラケーとスマホで大きく変わりないように見える。だが広告をクリックした先には、大きな違いがあると岡部氏は指摘している。
「デジタルコンテンツを提供するようなコンテンツプロバイダーさんに関しては、広告クリック後、会員登録・商品購入するまでの導線は、実はガラケーの方が簡単です。現状、スマホの方がCVRの低いといったお話もお聞きしますがスマホの方が1ユーザー当たりの売上高(ARPU)がガラケーより高いようで、CVRが下がった分をARPUの上昇分で十分にカバーできているそうです」
PDCAを回せるようにする地域別・時間帯別のレポート機能が特に好評
前述のように、ngi groupで事前に思い描いていたよりも順調に顧客を開拓できているBypass。電子書籍、金融系、求人、不動産、アプリなどの事業を手掛ける広告主が既に利用を開始。特に電子書籍やアプリなどのデジタルコンテツ系の広告、意外なところでは金融系の広告などで良い実績を残せているという。
「スマホ向けDSPは既にいくつか出てきていますが、本格的な機能がそろっているのはBypassくらいという声も頂きます。PC向け広告でDSPを使っている広告主からは『待ってました。ようやくスマホ向けのDSPが出ましたね』と仰っていただけています。中でも評判が良いのは、ターゲティング機能とレポート機能でしょうか。メディアカテゴリー、地域、時間帯、端末といった多彩なターゲティングを組み合わせた配信ができる事と、レポート機能では地域別や時間帯別にクリック数/CV数をより詳細に把握できるようになります。このようなターゲティング機能とレポート機能からパフォーマンスが良かった要因を見つけられれば、次のアクションにつなげるPDCAを回すことができます。そこが特に好評なようです」
「RTB機能を備えたDSP」より、広い意味でのプラットフォーム化を目指す
逆に広告主から求められているのは、より広い意味でのDSPとして、Bypassをプラットフォーム化すること。
「アドネットワークからRTBに広告予算が今後シフトしていくのは分かるが、アドネットワークはしばらく外せない。Bypassでアドネットワークも管理できないか」といった要望も出てきているそうで、さらに幅広い機能を使えるように、広告関連ツールなどを提供している事業者との提携を進めていきたい考えだ。
「Bypassとして開発を予定しているのは、RTBの広告単価が時系列でどう推移していて今いくらなのかを株取引のチャートのようにリアルタイムで閲覧できるチャート機能、そして米国を中心に盛り上がりをみせているリッチアドに対応することです。RTBによってリスティング広告同様、バナー広告も運用が非常に大切になってきています。時間帯によっては広告単価が安くなったり、インプレッション数が増えたりと動きがありますので、運用戦略を構築する上でのツールとしてチャート機能を考えています。
リッチアドはスマホが広まることで、さらに伸びると見ています。ガラケーではできなかったクリエイティブ表現がスマホではできますし、実際にアメリカではリッチアドの市場が急速に伸びていると聞いています。日本でもテレビ視聴者の約7割が、テレビを見ながらガラケー・スマホを操作する“ながら視聴”をしていると伝える調査結果も出てきています。テレビで流れている映像と同じCMや、その続きをスマホで見れるようにすれば、興味を持ってクリックしてくれる人も増えるのではないでしょうか」
RTB機能を売りにするスマホ特化のDSPから、スマホに関するマーケティング関連の課題を解決するDSPへ。より上位のレイヤーで広告主にとって欠かせないツールになることを目指すBypassの動向を、今後も見逃せない状況が続きそうだ。
ngi group株式会社は2012年6月22日開催予定の株主総会で、定款の一部変更が承認されることを条件として、商号を「モーションビート株式会社」に変更いたします。