学者とビジネスパーソンは別々に活動してきたが、そういう時代は終わった
日本マーケティング協会は昭和32年(1957年)に設立され、5年前に創設50周年を迎えた。法人中心の組織だが、300名ほどの学者会員も所属している。50周年を迎えるにあたって、公益社団法人化する話が持ち上がったが、法人会員のみで構成される公益社団法人では、学者会員がはみ出してしまう。そこで、学会をつくろうという話が持ち上がった。
しかし、学会設立にはもうひとつの動機がある。日本マーケティング協会理事長 嶋口充輝氏は次のように説明する。
「これまでは、一般のビジネスパーソンにとって学会は敷居が高かった。学会員になるには論文の数、博士課程を出ているなどの資格が問われ、理事会での審査もある。学会というのは、そういうしくみのもとで自分たちの世界の中だけでやっていた。しかし、今はそういう時代は終わった。」
逆に、ビジネスパーソンの側でも「学者なんかに聞いてもわからない」という見方もあった。嶋口氏は「両方とも謙虚さが足りなかった。アカデミシャンとプラクティショナーが一緒になってやる学会でないと意味がない」と、互いに交流することの意義を強調する。
日本マーケティング学会の設立発起人は現在57名にのぼり、デービッド・アーカー(カリフォルニア大学 バークレー校ハース経営大学院名誉教授)、フィリップ・コトラー(ノースウェスタン大学 ケロッグ経営大学院教授)の両氏をはじめとした国内外の研究者、グーグル、マイクロソフトなどのIT企業、サントリー、ライオン、ファーストリテイリングなどの企業経営者も名を連ねている。
8月2日行われた、日本マーケティング学会設立総会には15名が出席し、神戸大学名誉教授で流通科学大学学長の石井淳蔵氏が初代会長に選出された。8月10日にはウェブサイトも正式オープン。今後は、事務局を日本マーケティング協会に置くものの、協会とは独立した学会として活動していく。嶋口氏は、「学会は協会の支部ではないし、それでは面白くない。協会と学会はまったく独立した組織。『和して同ぜず。仲良くするが同じではないよということ』」と語る。
※(前列左から)田下憲雄(インテージ 代表取締役会長)、古川紘一(森永乳業 取締役相談役)、後藤卓也(日本マーケティング協会 会長)、石井淳蔵(流通科学大学 学長)、嶋口充輝(慶応義塾大学 名誉教授)、池尾恭一(慶応義塾大学 大学院経営管理研究科教授)、小林 哲(大阪市立大学 商学部 准教授)
(後列左から)田中 廣(博報堂 執行役員/戸田裕一(博報堂 代表取締役社長)代理出席)、石橋正明(日本マーケティング協会 専務理事)、有馬 誠(グーグル 代表取締役)、内田和成(早稲田大学 商学学術院教授)、青木幸弘(学習院大学 経済学部教授)、古川一郎(一橋大学 大学院商学研究科教授)、田中 洋(中央大学 大学院戦略経営研究科教授)、泉 孝治(キッコーマン食品 プロダクトマネジャー室 宣伝グループマネジャー/茂木友三郎(キッコーマン 取締役名誉会長 取締役会議長)代理出席)
学会の入会には、審査も推薦者もいらない
日本マーケティング学会では、入会にあたって審査も推薦者もいらない。嶋口氏は「ビジネススクールでMBAをとった人たちが、その後も勉強したいがその機会がないという状況がある。協会の中でもマスターコースやエグゼクティブプログラムを提供しているが、それを修了したあとも次代の新しいマーケティングを考えてほしい」と語る。
日本マーケティング学会の入会資格は以下のとおり。
- 大学もしくは企業や公的機関等でマーケティングの研究や実務に携わっている方
- マーケティングのスペシャリストを志す学生・社会人
- MBA生および修了者
会費は、2012年度(2013年3月末まで)は、1人5000円(以降年度は10000円)。入会は学会の公式ウェブサイトで申し込む。
学会の公式ウェブサイトでは、「探究と創発」という学会のコンセプトを掲げている。嶋口氏は、「『探究』とは、できあいのものを探るのではなく、今ある現実を見ながら「Why」を中心に考えていくこと。『創発』は、異なる価値観の人々がコラボレーションしながら新しい考え方をつくっていくこと。これが今の理論ではないか」と語る。
ビジネス界でも学会でも信任の厚い初代会長の石井淳蔵氏のもとで、これからさらに活動を本格化されていく日本マーケティング学会。11月11日には設立記念大会が開催される。