クリエイターと読者が直接つながる場を作る
―― 収益の最大化のため、コルクでは海外展開に積極的で、そのための手段としてインターネットをフル活用する考えだと聞きました。
はい。海外展開は特に重要視しています。いい作品には、人間の「普遍」が描かれているため、文化を超えても伝わる可能性が十分にあります。まずは、比較的日本のコンテンツに親しみのある、台湾や韓国での流通をはじめています。
―― 海外の出版社と提携して展開しているのでしょうか。
ケース・バイ・ケースです。ただ、電子書籍での展開は「まず、海外の出版社と組んで」という発想を一旦捨てて、もう少し柔軟に考えているんです。
―― と、いいますと?
私たちで翻訳した電子書籍を制作し、実績をつくったうえで出版社に売り込むスタイルを考えてます。「紙で評価が高かったものを電子に」という従来の発想とは逆で、「電子での実績をつくり、ニーズがあれば出版社で販売してもらう」というスタイルですね。電子書籍を広く普及させるという目的であれば、例えばアプリのマーケティング会社の方がデジタルで広く普及させることに秀でているでしょうし、その方が収益を最大化できるのでは、と考えています。
―― 電子書籍を制作するのがエージェント側だと、初期投資がかかります。エージェントにとっても、収益の最大化は見込めますか。
これもエージェントだからできる発想です。エージェントは出版社ではなく作家のパートナーですから、必ずしも「単年度ごとに利益を出す」ことにこだわらなくていいんです。逆に20年くらいの長期的な視点で作品を育て、回収できたらと考えています。
―― 電子書籍の直販も始めたと伺いました。
安野モヨコの公式サイトで、人気漫画『オチビサン』の英語版電子書籍を販売し始めました。朝日新聞出版社にデータを提供してもらい、利益の一部を作家から出版社に戻すという今までになかったビジネスモデルです。
―― いまも、作家が直販用の作品をつくり直接販売するケースもありますが、何が違いますか。
直販されている作品の多くは、イラストや漫画をPDFデータにするなどの、比較的簡易なものです。著作権の保護もされていませんから、代金をお支払いしていない方にも流通するリスクもあります。また、提供されるデータも1種類で、使いにくいことが多々あります。『オチビサン』は、PCだけでなくKindleやiPhoneなどのデバイスでも読んでいただけるようになっています。
―― 著作権の保護はどのような対応をとられているのでしょうか。
はい、コンテンツにはソーシャルDRMをかけています。
デバイスに合わせて自動的にデータを変換する仕組み


このような取組を、春にニューヨークで行われた「Digital Book 2013」の講演でお話させて頂きました。世界中の出版社の対応をみても、デジタル化に対して遅れをとっている印象です。このままだと、音楽業界の反省を活かすことなく、出版業界もデジタル化の波に不本意な形で飲み込まれてしまうでしょう。仕組みが整うのを待つのではなく自分たちで動いた方が早く、よりクリエイターに望ましい形で物事が進むのではと感じています。
―― コルクさんのような取り組みは、作家さんにとっては、悪いことではなさそうですね。
ファンの方と作家の距離を縮めたいと考えています。ファンも作家のサイトから直接購入することで、作家の創作活動にダイレクトに貢献している実感が湧くのではないでしょうか。
―― なぜですか?
直販することで購入者のリストが手に入るからです。これまでは、ファンの顔が見えませんでしたから、作家がファンに直接お礼をいうことはできませんでした。でもこれからは、ファンとの交流の場をつくったり、ファン向けのインタビュー動画をつくることもできます。漫画家のファンクラブをつくっていくイメージでしょうか。
―― そう言われてみたら、作家さんのファンクラブって、ありそうでなかった。
インターネットの浸透によって、「思い入れのあるファンに、深く恩返しができるような場所を作りやすくなったと言えるかもしれませんね。
―― 今後の目標を教えてください。
「無形データ」化したコンテンツは、どんどん低価格化が進みます。音楽業界は出版より先にデジタル化の波に飲み込まれましたが、ライブに活路を見いだしました。私たちは作家にもそのような場を提供していきたいと思っているのです。
コンテンツの質の向上を図るのはもちろんですが、同時に、「大好きな作家とのつながり」をご提供することで、マネタイズの一助にしたい。読者とクリエイターが直接つながる場をネット上に作ることが、我々のゴールです。
―― 壮大なゴールですね。
一方で、まだ立ち上がったばかりのベンチャー企業ですから、ゴールまでのスマートな道のりは分かりません。常に全力で、状況に応じて考え方ややり方を変えながら進んでいこうと思っています。乗り物は、船でも飛行機でもいい。必ずゴールに辿り着くことが、我々の使命です。
―― ありがとうございました。
『時代は自分たちで変えていくもの』だと私は信じています」と語る佐渡島さん
