顧客のプロファイルを作成し、コミュニケーション戦略を立てる
エクスペリアンジャパンが提供する「Experian Mosaic Japan(以下、Mosaic)」は、郵便番号などの居住地情報さえあれば会員情報など既存の顧客データにライフスタイルを加味できるサービスだ。そして先日、そのラインナップに、優良顧客・育成・休眠(苦手)顧客に対してMosaic別の顧客プロファイルを作成し、手軽にペルソナ像の把握とコミュニケーション戦略立案・施策につなげられる「Mosaic Segmentation Basic Report(以下、Mosaic Basic Report)」が新たに加わった(関連ニュースはこちら)。
中澤:まず鈴木さんのご経歴や、ニューバランスジャパン(以下、ニューバランス)におけるご担当領域について教えてください。
鈴木:私は国内の広告代理店からブランド側に転職し、その後7年間、ナイキジャパンでマーケティングを担当しました。縁あってニューバランスに入社してからは、マーケティング部長を務めています。ニューバランスではブランドマネジメント、及び広告・プロモーションが専門領域で、PR、広告、イベント、アスリートサポート、店舗のリアル販促など、マーケティングコミュニケーション全般を担当しています。あらゆるコンシューマータッチポイントの責任者ということになりますね。
中澤:ニューバランスでは早くからソーシャルを含めたトリプルメディアの取り組みや、デジタルとリアルの融合に取り組まれてきた印象があります。どのような狙いがあったのでしょうか?
鈴木:最初はPRのプランとして取り組み始めました。プレスリリースを媒体に出さずに、直接、消費者が触れられるニュースサービスをやろうとしていたのですが、そのプレスリリースをニューバランスのFacebookページに投稿するだけでECサイトのコンバージョンが上がるという現象が起こりました。プレスリリースが、アーンドメディアにも、オウンドメディアにもなっているんですね。
トリプルメデイアの考え方はビークルごとではなく、「メディアがどう機能すべきか」という視点で作られています。そのため、媒体とかファンクション別にメッセージを出すのは意味がありません。今後は、「お客様にどう受け止められるか」をベースに、一貫したコミュニケーションメッセージを作っていく必要があると思っています。古くから言われているインテグレーテッドマーケティングコミュニケーションということですね。
インテグレーテッドマーケティングコミュニケーション:企業が発信する広告、PR、セールスプロモーション、ダイレクトマーケティング、製品パッケージといったあらゆるマーケティングコミュニケーション活動を生活者の視点で再構築し、戦略的に統合するもの。
今、一番足りていないのは「お客様の情報」
中澤:コミュニケーションメッセージを作るにあたって顧客像を意識しなくてはいけないと思いますが、これまではどのように捉えていたのでしょうか?
鈴木:そこが一番の課題でした。これまでメーカーは消費者のことを一人ひとり知らなくても商品を開発できていて、消費者の評価よりも取引先との売上ばかりに目がいきがちだと思います。弊社の取引の90%は卸ビジネスですが、今はメーカー自身がダイレクトに消費者を把握しなくてはいけない時代です。
中澤:なるほど。これまでと逆の視点にしていかなくては、競争で勝てないということですね。
鈴木:マーケティングでいうと、PRとか広告とかファンクションに分かれているのは企業中心に作っているだけで、お客様から見たら関係ありません。商品部とか営業部というセクションも量販ビジネスには向いているけれど、消費者が買うためのシステムとしては左右に分れすぎていますよね。ご経験があると思いますが、何かクレームがあって電話すると、たらいまわしにされる、ということが一番起こりやすい。それは、顧客に目を向けた組織になっていないためです。
おそらく「うちのお客様っていったい誰?」という答えを本当はよく知らないメーカーは多いでしょう。製品開発もマーケティングも考えているけれど、実際はセクション毎に言うことが微妙に異なる。ニューバランスでも同じです。今、一番足りないのは、お客様の情報。そしてそれをどうやってビジネスのプロセスに組み込むかということです。
位置情報と財務情報を組み合わせ、優良顧客のペルソナ像を把握する
中澤:弊社が提供しているサービスで、顧客像を把握する際に役立つのは「Mosaic」になります。この度、Mosaic別の顧客プロファイルを作成し、レポートとしてご提出する「Mosaic Basic Report」をご利用いただいたわけですが、どのような感想を持たれましたか?
鈴木:完全に自社の顧客の姿を明確にしていると思いました。これまでもマーケティングで消費者のパネル調査を実施していましたが、自社のお客様のデータではありません。最初に感じたのは、ここに「宝の山がある」ということです。特にECにおいて財務情報からだけではわからない、顧客単価の高い優良顧客のペルソナ像を把握できた点が良かったです。
Mosaicでは購買者の住所情報を元に、どの様なライフスタイルのタイプが顧客に多いかわかるため、通常の消費者調査よりもリアルに想像しやすく、全体像をつかみやすいと思います。この優良顧客の背景情報がわかることで、市場の中でどれだけのポテンシャルがあるかがつかめるようになりました。例えば、ECの中での超優良顧客は100人しかいないけど、日本全国では100万人いる、というポテンシャルです。そういった意味で「宝の山」を見出すことが出来ました。
中澤:パネル調査との比較はどうですか?
鈴木:どちらかというと消費者のパネル調査は自社を含むより大きな市場を前提にしているので、個別データに差が出にくい。背景情報や履歴もわからないので、輪切りにした一時のデータでしかなく、アクションプランが出しにくい。その点Mosaicは個別データが取れるため、アクションプランが出しやすいですよね。
例えば、優良顧客が住んでいるエリアでブランドの浸透度が低ければ、もっとそのエリアにアプローチすべきだということがわかります。今までは100店なら100店同じアプローチしか取れなかった。どこにプライオリティをおけば良いかという判断が店の売上といった基準でしか判断できなかったからです。Mosaicデータを分析することで、LTVが高い優良顧客がいる場所が分かれば、そのエリア、ターゲットの趣向、行動に合わせてアプローチすれば良いので、とてもアクションにつなげやすくなりました。
優良顧客のデータを活かし、ECでのブランディングを実現する
中澤:Mosaicを実際に使われて、他にも良いと思った点があればお聞かせください。
鈴木:Mosaicは製品開発よりもプロモーション向きだとは思いますが、特にエリアの視点がわかる点が有難いです。「世田谷区の二子玉川に住んでいる人」という方が「40代のスニーカー好きな男性」と言うよりピンとくる。エリアマーケティングは基本なので、そういう意味でのリアルの繋がりが強いところをメインデータとしているところが良いですね。
また、これまでのデジタルマーケティングだとオーディエンスデータ中心なので、オフラインに適用しにくい。その点Mosaicはオンライン、オフラインの両方で使えるのがとても良いですよね。
中澤:ECではMosaicをどう活用していきたいと思われますか?
鈴木:我々はメーカーのECなので流通業のECとは異なり、主たる目的を「ブランディング」としています。ECでは優良顧客重視とし、全部のターゲットの売上を伸ばそうとは思っていません。全てのお客様の希望を拡大するよりも、我々のブランドをより望むお客様に対して価値を提供する方が、結果的に顧客満足度を上げてイメージを向上することが出来るからです。
中澤:優良顧客じゃないところの売上を伸ばそうとすると、結局、量販店の様に「安い!早い!」が求められるようになってしまいますよね。
鈴木:笑。「良いブランドは自社ECの売上割合が高い」という認識があります。売上の目標も大事ですが、ECで重要視しているのはあくまでも「ブランディング」です。そのために、Mosaicで得られた優良顧客のデータをECでのアプローチに活かしたいと思っています。
ニューバランスは他社に比べると、まだブランディングが弱いところがあります。「誰をお客様として見ているか」「誰を喜ばせたいと思っているか」ということを明確に決められないと、結果的にブランドのイメージがぶれてしまいます。今回のMosaic Basic Reportで得られたペルソナを社内で共有することが、同じ方向を向くために役立つと思っています。
中澤:今後、エクスペリアンに期待していることがあれば是非教えてください。
鈴木:ECだけの付き合いではなく、ブランドマーケティングという捉え方でどういう連携ができるかを探りたいと思っています。
中澤:エクスペリアンはあらゆるソリューションや企業と連携する、デジタルマーケティングのハブになりたいと思っているため、ぜひECにこだわらず幅広く連携させていただきたいと思います。本日は有意義なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。