2種類のDMP、プレーヤーは増加傾向
VOYAGE GROUPのadingoは、主にメディアマネタイズ事業とデータマネジメント事業の2つを展開している。前者では4,000サイト以上に導入されている国内最大級のSSP「Fluct」を運営。2年前から開始した後者ではプライベートDMP「cosmi Relationship suite」を提供し、ECサイトなど会員組織を有する企業のマーケティング支援を行っている。
「DMPは企業が保有するさまざまなデータを一元管理して分析することで、広告やコンテンツ配信、ダイレクトメールにいたるまでのマーケティング活動の最適化を図るシステムです」と、同社代表取締役の古谷和幸氏は改めて定義する。実態としては、DSPによるディスプレイ配信の際に、オーディエンスをセグメントする機能として使われることが多い。最近ではEC事業者など広告主以外にも、収益の最大化のため、また自社のオーディエンスデータの価値を高めて可視化し、広告主に提供するためにメディアからも使われているという。
「昨年ごろから、日本国内でもさまざまなプレーヤーが出始めている」と古谷氏は解説する。DMPの種類は大きく分けて、サードパーティーのデータを購入してオーディエンス拡張などに使う『外部データ活用DMP』と、自社が保有するデータを活用する、いわゆるプライベートDMPと称されている『自社データ活用DMP』の2つがある。例えばadingoの「cosmi Relationship suite」は自社データ活用DMPに分類され、自社顧客に類似するユーザーへの広告配信や、CRMとしての利用などに使われることが一般的だ。
現状のメールは開封率「3%」
古谷氏は、『3%』という数値を提示する。「これは、総会員におけるメールマガジン(以下メルマガ)開封率です。通常はメルマガの開封率はもっと高いと思われるかもしれませんが、それはメルマガを購読している会員のうちの開封率です。アメリカのメルマガに関する調査(出典:Email Marketing Metrics Report)によると、配信数に対する購読数は10%程度ですが、私の経験でも業界の定石でも、そもそもメルマガ配信を可としている会員はだいだい3割程度。すると、3割のうちの10%なので、全体から見ると3%の会員にしかリーチできていないことになります」と、古谷氏は解説した。
なぜ、こんなにも低いのだろうか? 開封率の問題については、スマートフォンの浸透などデバイスの多様化や、メルマガ用のフリーアドレスが簡単に作れるため、そもそもメルマガを見ないという理由が挙げられる。また、受信を可とする人が少ないのは、メルマガ送信事業者が多いため、あふれる情報を選別しているといった理由があるだろう。
「購買済みなど、目的を達成した会員もメルマガへの関心が薄れて開封率が低くなりますが、逆に考えれば購買直後ほどクロスセルなどを促しやすい。タイミングを逃さず、CRMを図ることで、継続的なコミュニケーションにつなげることができます。いずれにしても、どんなにいい商品、いいランディングページでも伝わらなければ成果は上がりません。そこで、成果を出すには『残り97%の会員にどう接触するか』そして『3%の母数をどう引き上げるか』が課題になります」
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97%の会員にリーチするための訴求法とは?
では、まずリーチできていない97%の会員とは、どのようにコミュニケーションを取ればいいのだろうか。ここで古谷氏は、メールマガジンとリターゲティング広告をさまざまな切り口で比較。「メルマガは会員別に異なる情報を送れる。一方リターゲティング広告は対象者を把握できないものの、Web閲覧中にディスプレイ広告という情報量の多い画像でユーザーにアプローチできるのが特徴」と解説する。
接触するのに望ましいシチュエーションを考えると、Webを閲覧しながら、さまざまな情報を得ている状態は、商品などの提案に適している。また、ディスプレイ広告のバナークリエイティブを工夫できれば、ランディングページへの到達ハードルが低くなる。それを活かしているのがリターゲティング広告だ。しかし、ユーザーを特定できないため、一度ページを訪れているから恐らく興味があるだろう、という予測でのアプローチしかできないのが難点だ。
理想を言えば両者の利点を合わせて、『会員別』に配信でき、かつ『Web閲覧中』に『ディスプレイ広告を訴求する』ことが望ましい。このアプローチ方法を可能にしたのが、プライベートDMPだ。
顧客データ+行動情報で戦略的アプローチを
「cosmi Relationship suite」を使えば「cookieと会員情報を紐付けることで、Webを閲覧しているユーザーを特定でき、適切なディスプレイ広告を表示させることができます」と古谷氏。会員情報を参照して『20代女性/23区内在住/直近で1万円以上の買い物をした』人だけに、商品Aのディスプレイ広告を表示させる、といったコントロールが可能になる。また、会員だがメルマガの登録をしていない人には『メルマガ登録特典実施中』といったキャンペーンを打つこともできる。
このようなアプローチを可能にする「cosmi Relationship suite」の導入は、基本的に2ステップで済む。まず、サイト内へcosmiタグを設置する。これによりサイト内行動履歴を取得し、会員IDとcookieを連携させる。次に、顧客データをアップロードする。属性や購買情報以外にも、オフラインでのPOSデータなどを加えれば、店舗では購入しているがオンラインでは購入していない人に商品を訴求することなどもできる。
「このステップを経てどのような全体像が描けるかというと、まずサイト内の行動情報と顧客データベースをプライベートDMPに統合することで、独自のデータベースが構築できます。それから、ユーザーの興味関心や動向を分析し、どのようなセグメントに何を訴求するかを立案し、アプローチすることが可能になります」と古谷氏は語る。
アプローチの方法は、DSPによるディスプレイ配信やメルマガ配信などさまざまだ。自社のスマートフォンアプリを運用している企業なら、SDKを組み込むことで、あるエリア内に来たときにクーポンを発行するプッシュ通知などもできる。
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ユーザー管理のキーワードは「一気通貫」
このように、リーチできていない97%のユーザーへ情報をいかに届けるかという課題は、『プライベートDMPを導入し、それをハブにさまざまなチャネルからアプローチする』という方法が有効だ。「これまでCRMとしてメルマガ主体で行ってきたことに、それ以外のさまざまなチャネルを加えることで、97%のうち相当な範囲の会員にアプローチできます」と古谷氏。
例えば、アパレル雑貨を取り扱うECサイトでは、1か月使い切りの商品を購入した会員に対して、使い切る直前に送料無料のクーポンを訴求するディスプレイ広告を表示。非会員へは通常商品のディスプレイ広告を表示させたところ、売上が200%以上に伸張した。他の導入事例でも、細かいセグメンテーションを経てクロスセルを提案し、売上が500%に伸びたケースもあるという。「休眠会員の掘り起こしや、サイト内であまり目立たせていないが特定ユーザーには響く商品のアプローチにも、大きな効果がある」と古谷氏。
さらにもうひとつの課題である「3%の母数をどう引き上げるか」という点について、古谷氏は「認知から購入までのフェーズと、購入から優良顧客化のフェーズを一気通貫で管理することがポイント。言い換えれば、cookieと会員IDの紐付けができれば、会員になる前から顧客の行動を把握でき、その後のリテンションに大きな効果を発揮するのです」と解説。
優良顧客を可視化し、流入経路を分析することで、新規顧客の獲得につなげられるのだ。このように、IDの管理をシームレスで行えるのも、プライベートDMPの大きな役割だ。
成功のカギは複数ツールの活用
古谷氏は、この他にもユーザー単位で効果を可視化するために、タグマネジメントやアナリティクス・BIツール、あるいは第三者配信などを組み合わせることを提案する。「複数のツールを組み合わせて運用することで、前述の優良顧客の可視化、流入経路の分析を経て、施策の最適化を図ることができます」
そのためにadingoでは、さまざまな外部サプライヤーとの連携を進めている。例えば京セラコミュニケーションシステムの「デクワス.DSP」はレコメンドが優れている。連携することでユーザー軸と商品軸を掛け合わせたレコメンドができ、セグメントごとにバナーを自動生成できるのも利点だ。
日本国内の2億ユニークブラウザのデータを有しているモデューロのDMP「AudienceOne」とは、同じDMPだが互いの得意領域を活かすことで、見込み顧客を多く獲得することができる。また、ブログウォッチャーが提供するスマートフォンのプッシュ通知「Profile Passport」との連携ではO2Oを促進したりと、各社とのタッグによって効果の引き上げを狙っている。
adingoはソリューション選びやプライバシーポリシーの問題、また運用体制への不安など、さまざまなコンサルティングも含めてDMP導入を支援。こうした包括的な支援を得られるパートナー企業を選ぶことも、マーケティングを加速させる大きなポイントだといえるだろう。
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