分析の支点は「何を」から、「誰が・なぜ」にへ
前回は、ソーシャルデータ活用時の落とし穴の一つである、「KPIとの関係性や効果を見極められない」ケースについて、解決方法を説明しました。今回はもう一つの落とし穴、「ソーシャル上の発言者像が見えない」ケースについて詳しく説明します。
従来のソーシャルデータ分析は、口コミの量や語られている内容の分析に主眼を置いていました。具体的には、膨大なソーシャルデータの中から特定のキーワードを含む口コミを抽出し、量および時間的変化の把握に注力されました。または、抽出後のデータをテキストマイニングツールで解析して、センチメント(ポジティブ/ネガティブ)の判定や、キーワードに関して語られている内容の分析などが主な手法だったかと思います。一方で、口コミを記述した生活者については、性別や年代、居住地域などの簡単な属性しか推定できず、「ソーシャル上の発言者像が見えない」という問題がありました。
そのような問題を解決するには、「人軸分析」を行う必要があります。「人軸分析」では、特定のキーワードを含む口コミを記述した「人」を分析の主軸に据え、彼らの特徴や、口コミをするに至った経緯や背景、その後の状況など、生活全般にわたって分析を行います。それにより、「誰が」「なぜ」口コミを記述したのか、発言者像を明確にすることが可能となります。
生活者をより深く理解する「ソーシャルエスノグラフィ」
「人軸分析」には、現状以下の3つの手法があります。今回はこのうち、ソーシャルエスノグラフィについて説明をします。
- ソーシャルエスノグラフィ
- ソーシャルプロファイリング
- コミュニティクラスタ分析
「ソーシャルエスノグラフィ」は、特定のキーワードを含む口コミをしたユーザーについて、比較的長期間(数か月~数年間)にわたる口コミを観察する手法です。ソーシャルエスノグラフィからは過去のトレンドはもちろん、潜在的なトレンドを把握できるという特徴があります。
「エスノグラフィ」とは、フィールドワークなどを通して特定の集団や社会の行動様式を調査する手法です。元々は文化人類学や社会学において開発されました。インタビュー調査やアンケート調査など、従来のリサーチ手法では理解が難しい領域において生活者を理解するための手段として、ビジネスの分野でも活用されつつあります。ソーシャルエスノグラフィは、ソーシャルデータを通してエスノグラフィと同様に、生活者をより深く理解することを目的として開発されました。
ソーシャルエスノグラフィは、調査対象者がソーシャルメディア利用ユーザーに限られるという制限があります。ですが、インタビュー調査と比較してコストやスピード、サンプル規模の面で優れています。また、調査という特別な環境下での生活者の声ではなく、バイアスのかからない自然な意見を収集することができます。さらに、体験した時の生の気持ち・感想・行動を集められる点もメリットです。