マーケティングは収益成長の中核を担う
「マーケティング・テクノロジーは、デジタル・マーケティングを進める上で、不可欠になっています」セールスフォース・ドットコムの加藤 希尊(かとう みこと)氏は語る。
とはいえ、時代とともにチャネルは複雑になり、テクノロジーの進化に翻弄されているマーケターも少なくない。予算や人手といった自社の資産を効率よく分配していくためには、選択と集中が求められる。同社は、世界9か国(アメリカ・カナダ・ブラジル・日本・オーストラリア・イギリス・ドイツ・フランス・北欧諸国)5,000人のマーケターを対象に行った市場調査の結果を用い、「今マーケターがどのような課題を抱き」、「どこへ向かおうとしているのか」を紐解いた。
「『2015年に何を重視すべきか』聞いたところ、マーケティングがどれほどビジネスに貢献しているのかを示す『収益成長率』と答えた人が実に3割を超えました。これは、マーケティングをビジネスの中核として捉えている傾向であると言えるでしょう。さらに『顧客満足度』が2番目に挙がっており、次にROIなどが続きます。ここからは、目先の数値よりも、ビジネス全体においてマーケティングがどう貢献しているのかといった、大きな指標が重視されていることがわかります」(加藤氏)
調査では、マーケターが直面している高い壁『2015年の最重要課題は何か』についても言及している。トップ3に上がった挙がったのが、「新規事業開拓」「リードの質」「昨今のマーケティング・テクノロジーやトレンドに関する最新情報の入手」だった。
「現在マーケターが重視しているのは、事業に貢献するため新規事業の開拓に取り組み、売上につなげられるリードの質を確保していくことです。そして、そのためにはテクノロジーが欠かせません。何のテクノロジーをどう使うのかをきちんと判別して、効果的・効率的に運用したいと考えていることがわかりました」(加藤氏)
今、カスタマージャーニーの捉え方を変える時
調査は『2015年に予算を増やす分野はどこか』に続く。日本では動画広告やコンテンツマーケティングの話題が溢れているが、結果は異なる傾向を示した。上位を占めたのは、『ソーシャルメディア』と『モバイル』だ。
ソーシャルメディアといっても、かつての“フォロワーやファンを獲得する”、“キャンペーンの母数を増やす”といった文脈ではない。『ソーシャルメディア広告』や『ソーシャルメディアマーケティング』といった、より本質的な顧客とのエンゲージメントを構築する段階へとシフトしている。
実際に日本企業でもエンゲージメントの構築を始めているという。「例えば、我々のクライアントであるサントリーや東急百貨店は、ソーシャルメディアを活用したアクティブサポート体制を作り、積極的にサービスを改善しながら、顧客との関係を深めています」(加藤氏)
モバイルも同様だ。『位置情報ベースのモバイルトラッキング』や『モバイルアプリケーション』が上位に入っているところから、単にスマートフォンサイトを構築するフェーズが終わったことがわかる。
では、なぜソーシャルメディアとモバイルが重要視されているのか。調査によると、回答者の半数以上が『自社の製品やサービスを実現する重要な要因の一つだから』と答えている。ソーシャルメディアとモバイルはOne to Oneマーケティングに欠かせない、ビジネスの中核として捉えられていることがわかる。そして、この背景には「企業がカスタマージャーニーの捉え方を変えるタイミングの到来」があると、加藤氏は指摘する。
「カスタマージャーニーとは、ブランド・製品・サービスに対して、すべてのタッチポイントおよびチャネルを通じて発生する顧客との全インタラクションを指します。ソーシャルメディアとモバイルによって、顧客接点のすべてがカスタマージャーニーになっているのです。企業はジャーニーの捉え方を変えなければいけないタイミングに来ていると言えます」(加藤氏)
最新“デジタル・マーケティングの動向”をチェック!
「MarkeZine Day 2015 Spring」にて加藤氏が紹介した2015年市場調査の詳しい内容が、レポートになりました。9か国、5,000人のマーケティング担当者の意見から見えてくる最新トレンド。ぜひ、ご確認ください!
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海外成功事例に見る、新しいカスタマージャーニー
調査の結果からデジタルチャネルがビジネスの中心になっていることがわかった。では、具体的にどのような施策をとれば成功に導くことができるのだろうか。加藤氏は2つの海外事例を紹介した。
3億人と様々なチャネルでのOne to Oneを実現
LIVE NATIONは、米国最大手のチケットプロバイダー兼コンサートプロモーターだ。同社では3億人以上の会員データを保有しており、さらに各会員に約4,000件の属性データが付随している。同社では、セースフォースの「Salesforce Marketing Cloud(以下、Marketing Cloud)」を活用して、顧客満足度を高めながらコンサート数を増やすことなく、収益性を向上させている。
Marketing Cloudでは、全インタラクションの効果測定を行える。そのため、3億人それぞれの好みを熟知したうえで、メールやアプリなど最適な方法で、最適なコンサート情報を最適なタイミングでレコメンドすることができているという。
さらに、モバイルアプリでは単なるチケット購入だけでなく、コンサート会場到時からコンサート終了後まで、様々なメッセージやコンテンツを提供。コンサート体験をより良いものにすると共に、コンサート以外の体験も提供している。
150か国で顧客とダイレクトなコミュニケーションを
世界約150か国で展開している世界最大手の家電メーカーElectroluxは、2つの課題を抱えていた。ひとつは、メーカーであるがゆえに顧客と直接コミュニケーションをとる機会が非常に少ないこと。そして2つ目が、商品のコモディティ化だ。店舗に並ぶ商品は消費者にとって「どれも似たようなもの」になりつつある。そのような中で選ばれる、つまり、競合をリードするためには、業界の中で際立った存在になる必要があるのだ。
同社は課題の解決として、顧客のソーシャルでの声を聞いて関わりを深めること、及び、あらゆる場所で商品の提案を実現することを目指した。この、新しいソーシャルマーケティングのために活用されているのが、「Salesforce Social Studio」だ。
「Social Studioに備わる4つの機能『コンテンツの管理・ソーシャルリスニング・お客様とのエンゲージメント・分析』によって、新しいお客様とのカスタマージャーニーを創出しています」(加藤氏)
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日本における新しいカスタマージャーニー
日本企業のカスタマージャーニーの創出は、どうなっているのだろうか。そこで重要なカギになってくるのが、昨年11月に発足された「JAPAN CMO CLUB」だ。同組織の目的は、トップマーケター同士のネットワークを作り、新しいマーケターの在り方を探ることで、マーケティングの知見やノウハウを蓄積。その活動や成果を国内外に発信することだ。セールスフォース・ドットコムは、立上げと運営に参加している。
「グローバルの視点では、CMOは当たり前の存在です。そして、トップマーケター同士が接触することで、ブランド間のコラボレーションが生まれています。しかし、日本ではまだ一般的ではありません。JAPAN CMO CLUBがトップマーケターの集う場になればと考えています」(加藤氏)
現在トップ企業27社がメンバーとなっており、カスタマージャーニーや今後のCMOの役割について話し合われている。加藤氏は参加するマーケターに、必ずしている質問がある。それが、「自社と顧客にとって大切なカスタマージャーニーの瞬間とは?」というものだ。
例えば、ヘアケアや化粧品を扱うロレアルの場合、データ解析の結果2回目の購入率が非常に大切であることがわかった。オンラインで購入して、オフラインでも購入した顧客は、長期間ロイヤルカスタマーでいる可能性が高いという。そこで同社は、オンラインで購入した顧客に、オフラインで使用できるクーポンを配布。これにより高い効果を得た。
一方、アフラックは、新しいカスタマージャーニーにおいては「AIDMA」や「AISAS」に代わる「ORACAS」が重要であると提唱する。「ORACAS」は、「Occasion(きっかけ)」「Research(調べる)」「Advocate(推奨)」「Convince(説得)」「Action(購入)」「Share(共有)」の頭文字をとったものだ。従来カスタマージャーニーは広告による「Attention」が起点となることが多かった。しかし、新しいカスタマージャーニーの起点は、消費者のライフステージの変化という「Occasion」がメインだ。そして、「Advocate」つまり第三者の意見を聞いて、「Convince(納得)」しないと「Action」にはつながっていかないというわけだ。
「お客様視点」が何よりも重要
JAPAN CMO CLUBに参加する企業はそれぞれに、カスタマージャーニーにおける「重要な瞬間」を持っている。そして、加藤氏はマーケターとの議論の中で、各社に共通する方向性が見えてきたという。
「どの企業もコモディティ化からの脱却を目指しています。その解決方法に『お客様視点』を置いていることがわかりました。つまり、お客様視点からデータを分析し、価値あるジャーニーを創出することで、ブランドのコンセプトがビジネスイノベーションになっていく。これを実現するための組織として企業や部署があり、そのリーダーがCMOと呼ばれることもあるのです。
突き詰めれば、お客様視点でカスタマージャーニーを考えることこそが最重要事項なのです。言い換えると、新時代のカスタマージャーニーを理解し、お客様視点でジャーニーの重要な瞬間を考え、そのために組織を最適化する必要があるのです」(加藤氏)
顧客視点に立った時、ソーシャルメディアやモバイルが、カスタマージャーニーにおいて重要な役割を持つことは間違いない。そして、新時代のカスタマージャーニー創出において、Marketing Cloudをはじめとしたテクノロジーはその一助となる。加藤氏の強いメッセージが感じられるセッションとなった。
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