マス連動が弱くなって、バズ連動が強くなってきている
ところで、アトリビューション分析をしていて気づいていることなのだが、このマス連動の影響力は10年前に比較すると、ちょっと弱くなっていると思う。テレビCMを投下したときに増加する検索数の量が落ちていると感じているのだ。すべての広告キャンペーンが1回限りのものであって、時期や目的、投下量やクリエイティブなどさまざまな条件が異なるので、単純な比較はできない。それは分かっているのだが、たとえば、同じ2,000GRPを投下したときの、検索数の跳ね方がちょっと弱くなっている、というのが私の肌感だ。
その一方で、ここ5年ぐらいの間に影響力が増加していると感じるのが、SNSなどのバズの力だ。バズが発生し、それに関連するキーワードの検索数が増加しているのだ。ここで、「もこもこブーツ」がバズ連動で売れた事例をもとに説明しよう。私が最初にこの傾向に気づいたのは、2008年だった。当時、Googleで働いていたのだが、自分がマネジャーを務めるチームのミーティングで、部下の女性社員が「いま、女子高生など若い女子の間で、もこもこブーツって流行ってるんです。このキーワードを提案に入れたいと思っています」と教えてくれた。

彼女は、ちょうど、楽天市場への提案を作成していて、検索キーワードについて調査をしていた。調査過程で「もこもこブーツ」というキーワードの検索数が急激に伸びているのを発見し、それが女子のブログなどで大量に言及されているとのことだった。つまり、バズっていたのだ。2008年8月後半だったと思う。そして、2008年9月ごろから、実際に「もこもこブーツ」というキーワードを入稿してみたのだが、その効果が非常に高かった。楽天市場で「もこもこブーツ」が飛ぶように売れたのだ。しかも、私の記憶では、最初の1か月ぐらいは、楽天市場以外の広告主が入稿していなかったので、Google AdWords上では、1社で独占的な状況になっていた。私はこの現象をみて、「これは、マス連動じゃなくてバズ連動だな」と思った。
バズっているもの、バズっている語句に連動して、検索連動型広告のキーワードを入稿することによって、広告効果があがるのだ。これまでマス連動では、マス広告で展開されている商品名やコピーなどに合わせて、キーワードを入稿してきた訳だが、それと同じようなことが、バズで可能になるんだなと感じた。そして、「DUAL AISAS」モデルの着想を最初にぼんやりと得たのは、この時だった。(DUAL AISASモデルについてはこちらの記事をご参考に)

この「もこもこブーツ」をきっかけにして、マス広告の「Attention」でリーチを獲得する代わりにバズによってリーチを獲得できる、あるいは、マス広告のリーチを補完できるかもしれないと思ったのだ。そして、マス広告の影響力が低下していく現状を考えると、今後は、マス連動施策よりもバズ連動施策を重視していく時代になっていくだろうと感じた。とくに、テレビがスマートテレビ化するにつれてその傾向は顕著になっていくだろう。
スマートテレビにより、テレビCMの影響力がさらに低下する
テレビがスマートテレビ化することで、どのような変化があるのか。簡単にいうと、テレビ画面で観るコンテンツの選択肢が増えるということだ。あるいは、地上デジタルテレビ放送の番組がほぼ独占してきたテレビ画面を、それ以外のインターネット経由のコンテンツが侵食し始める。つまり、テレビ画面で観るコンテンツが分散する。そのことで、現状のテレビCMの影響力はさらに落ちていく。
単純に考えても、NetflixやHulu、U-Next、楽天SHOWTIME、dTVなどの通信キャリア系サービス、J:COMなどのケーブルテレビ系、さらにはテレビ画面でYouTubeなど動画共有サイトを閲覧する機会も増加するかもしれない。もちろん、既存のBS・CSなどの番組もある。そんな感じで、いろいろなサービス、いろいろなコンテンツが、テレビ端末の視聴時間を奪っていく。そうすると、5年後の2020年ぐらいには、現状の地上デジタルテレビ放送の視聴時間が日本全体で20~30%ぐらい少なくなったとしてもおかしくない。そして、現状の地上デジタルテレビ放送を主軸とするテレビCMの影響力低下は、さらに加速することになる。
もちろん、日本では有料放送がなかなか普及しないという課題がある。たとえば、スカパー!は、衛星放送協会のウェブサイトによると現在の加入件数が、約346万件だ。衛星テレビ広告協議会のウェブサイトで個別のチャンネルごとの数字をみても、900万件に達しているものはないようだ。そのため、Netflixの日本上陸は業界的注目ニュースではあるが、有料サービスが本当に普及するかどうか?あるいは、どの程度、普及するのか?これは未知数だ。
しかしながら、NHKの「Hybridcast」やパナソニックの「スマートビエラ」などのサービス内容をみると、テレビ画面上でネット検索やネットショッピングが楽しめる。その行為も、地上デジタルテレビ放送の番組視聴時間を奪っていくことになるだろう。このように、現状をみていると、スマートテレビ化によって、テレビCMの影響力がさらに低下すると考えるのが妥当だ。その規模は正確には、もちろん、わからないけれども。
代替ソリューションは“バズ”だ
このような流れによって、テレビCMの影響力が低下し、そのリーチ獲得効率が悪くなったときに、その代替ソリューションとして浮上するのが、バズではないかと思っている。なぜなら、スマートテレビ化したテレビ端末はインターネットに直接つながっている。ということは、おそらく、テレビ端末上から直接的にコンテンツをシェアするということが可能だし、普通になるだろう。つまり、面白いテレビ番組、面白い映画や動画、そして、面白いテレビCMなどは、共有ボタンなどによって、テレビ端末上からインターネットに直に流れていく、シェアされていく、バズっていく。そのようになるのではないか?
そして、テレビCMがどれだけシェアされたか?どれだけバズを生み出したか?その数もテレビCMの評価対象に加わってくる可能性がある。このバズと連動して、検索連動型広告で検索キーワードを入稿することによって、さきほどの「もこもこブーツ」の例と同じように、広告効果を高めることができるようになる、とみている。
